1. 要約
鬼は昔から記録されているが未だ発見されていない種である。過去の記録から鬼についてどのような生物であるかを考察する。
2. 序論
鬼は古い戯画、物語にのみ登場する。そのため架空の生物と信じられている。しかしその形態から鬼はヒト亜科である可能性が極めて高い。
もし架空ではなく実在する生物だとすれば人類学に対する貢献は大きいのである。ここでは伝承を理由にその実在を否定するのではなく、伝承であるからこそ鬼の実在は肯定できる立場に立つ。
これから実在したであろう鬼を過去の記録から考察する。この考察には誤りが含まれている可能性がある事は予め断っておく。
3. 本論
3.1 特徴
鬼の伝承から得られる特徴は以下の通りである。
- 体格 - コーカソイド系(モンゴロイドより大きい)
- 顔 - コーカソイド系または縄文系(太い眉、大きな鼻、体毛が濃い)
- 肌色 - 赤、青。(モンゴロイドが初めてコーカソイドを見た時の感覚と一致)
- 頭部 - 1~数本の角がある
- 口腔 - 犬歯は人より大きい
- 体格 - 雄が雌より大きい
- 性格 - 雄は凶暴、雌は濃艶(ただし1人のヒトによって鬼の集落全体が敗北した事例がある)
- 道具 - 鉄製の棍棒
- 食性 - 酒を好む
- 言語 - 人と会話が出来る
- 服飾 - 皮製の衣服、雄は下腹部、雌は乳房と下腹部のみを隠す
- 住居 - 洞穴
- 集団 - 群れを形成する
※天狗も肌色が赤いので有名であり、天狗=コーカソイド説は多々ある。
3.1.1 住居
鬼の多くは離れ小島や山奥に住んでおり、洞窟で暮らしていた。鬼は家族よりも大きな集落を形成していた。鬼退治の伝承を詳細に研究すれば群れにはリーダーが存在している事が示される。集団のリーダーは体が大きい個体が選ばれるようである。
3.1.2 衣服
鬼の服飾は動物の皮をなめし切断したものをまとっている。雌では衣服で乳房を隠している事が特徴的である。その代表的なものはラムであるが、一般的に近代以前に乳房だけを隠す風習は珍しい。
いずれにしろ鬼が裁縫や織機を行っていた可能性は低い。これらの技術を持たなかったのか、植物性の衣服を着る事を嫌っていたのかは不明である。
また体毛が濃いのを動物の皮をまとっていると当時の人が考えた可能性もある。しかしそれでは彼らは裸で暮らしていた事になる。それならばそれが伝承に残っているはずである。
3.1.3 道具
鬼は鉄棒を持っている。しかし家屋を建築する技術がなく、機織りもしないなど高い技術を持っていたとは考えにくい。よって鬼が製鉄技術を持っていたとは考えにくい。またヒトからそれを学んだ形跡もない。もし製鉄技術があれば、棍棒以外の武器や針や鍋などの生活道具があるべきである。しかしそれらの記録がない。
これらの事から鬼は鉄棒をどこから入手したかという疑問が生まれる。
3.1.4 交易
よって鬼が持っている鉄棒は鬼が製造したと考えるより、ヒトとの交易で入手したと考える方が妥当である。鬼はヒトとの間で交易を行っていたのだ。これにより鬼の酒好きについても、鬼が醸造技術を持っておらずとも、人から酒を入手して飲んでいたと考えられるのである。鬼殺しという酒が存在する事も、かつてヒトが鬼に納入していた可能性を示唆している。
しかし鬼が貨幣を使っていた証拠はない。何によって交易が可能になったのだろうか。伝承によれば鬼はサンゴや金銀を収集する。その為にヒトからの略奪も経験した話しが残っている。これらの事実からサンゴや金銀によって物々交換を行った可能性がある。
3.1.5 種の推察
絵物語によれば鬼の雌は雄よりも体格が小さい。これは哺乳類一般にみられる特徴である。
上に示した特徴から鬼はコーカソイド系(白人)に非常に近い。日本においてはキリストの墓があるの伝承もあり、太古からコーカソイドが移住した可能性はある。その一部として鬼も日本に来た可能性がある。ネアンデルターレンシスの最期の末裔の可能性もある。
鬼はアジアに定住したコーカソイド系の種であった可能性がある。しかし角があるのでコーカソイドと同じ種ではない。
鬼が日本に移住したと仮定するが、コーカソイドとモンゴロイドが何時までも棲み分けをした可能性は小さい。どこかで混血しどちらかの種がもう片方に飲み込まれるはずである。その場合、角が劣性遺伝であれば、鬼と人とのハーフでは角が生えない。
鬼の伝承がある地域(滋賀)や、鬼を起源とする風習がある地域(秋田)は美人が多い。少なくとも色白の美人が多いとされる。これはその地域での鬼との混血が原因である可能性も捨てきれない。
もし混血することなく鬼が絶滅したのでれば、鬼はヒトと棲み分けていたと考えられる。その時にヒトから襲撃されたり食べ物が取れない年に淘汰され絶滅したのかも知れない。
3.1.6 闘争能力
サンゴや金銀をヒトに略奪される場合、一応の抵抗は試みるものの、敗北が濃厚になれば素直に財宝を明け渡している事から、これらの物品が宗教的象徴や儀式に使われていたものとは考えられない。そういう場合は、絶滅してでも抵抗を続けるものである。
鬼とヒトが
戦をした記録もない。多くても3人程度のヒトに成敗される話ばかりが残っている。伝承の中には一人のヒトとペットによってひとつの集落が敗北している。これ程に弱い存在であればヒトからの襲撃に耐えられたとは考えられない。つまり鬼が金銀財宝を豊富に持っていたという話は疑わしい。
逆に鬼がヒトの集落を襲ったりヒトを食した話しも多数あるが、彼らの住居は人里から離れた小島や山奥であり、ヒトを避けていた。またヒトとも交易しておりヒトを襲撃する理由がない。また戦闘能力の低さから襲撃しても返り討ちの可能性の方が高い。これらの伝承はヒトの盗賊や倭寇が鬼と称して略奪をしたものであろう。
3.1.7 越冬の謎
人類はアフリカで登場した。よって自然状態でアフリカでは生きる事ができる。しかし世界中に広がる過程で自然状態のままでは無理である。なぜなら冬が越せないから。よってヒトが広く世界に分布できたのは、簡単に言えば冬を乗り切れたからである。つまり衣服の発明と住居の獲得である。火の発見、加工技術の向上、知識の伝承によりヒトは厳しい冬を乗り切ってきた。越冬が可能であれば、その地域に定住できるのである。
さて多くの鬼の描写は彼らを南国で居住している存在として描き、そこに描かれたものを信じるならば、鬼の生活環境では日本の厳しい冬を越すことはできない。
ここに最大の謎がある。
つまり「鬼はどのように越冬したのか」である。
3.2 類似する動物からの推察
角を持つ主な動物。
- 牛 - 草食
- ヤギ - 草食
- 羊 - 草食
- トリケラトプス - 草食
- カブトムシ - 樹木の樹液
- ユニコーン - 草食
- パン - 酒
※鬼と類似した生物に主にヨーロッパに生息していたパンがいる。しかし鬼とパンの角は、牛と羊の違いがあるため、別々に発生した収斂進化の一例と思われる。
角を持つ多くの動物が草食性である事は注目に値する。これには進化論の性選択が影響していると思われる。
性選択とはどのような個体が好まれるかによってその種の進化の方向が決まる事である。肉食動物の場合であれば、捕食に有利な個体が好まれる。そして捕食に有利であるとは、なわばりをもつ能力とほぼ一致する。若く、体格の良い、健康な個体がなわばりを確保し異性にアピールする。
肉食動物で角を持つ動物はいない。これは肉食動物では角が性選択においてなんら役に立たない事を意味している。捕食者にとって角は俊敏な動きを妨げるだけの邪魔ものであり、生きていく上でなんら役に立たない。
一方で、草食動物では、餌は草であるから食うのに困る事がない。そのため草食動物では異性へアピールするのになわばりなど食性で有利なものは使えない。食性以外の何かで個体の強さを訴える必要がある。そのひとつが角であろう。
牙を持つ主な動物
牙の有無では食性は決定できない。一般的にその動物の歯の全体を検証しなければ食性は分からないものである。
4. 鬼の実像
これまでの考察から鬼の実像を記す。
- 外見 - コーカソイド系亜種
- 文化 - 加工品を作り出す能力が低い
- 戦闘 - 暴力行為に弱い
- 交易 - ヒトとの間に交易があった
- 財宝 - 持っていなかった
これらの事実から次のふたつの謎が明瞭である。
- どうやって越冬したのか
- 交易で交換したものは何か
これについて本論文では以下のように結論する。
4.1 越冬について
角をもつ動物の特徴から鬼はヒト亜種としては極めて珍しい食性を持っていると思われる。つまり、
鬼の牙は肉食動物の牙ではなく、イノシシなどと同じく木の皮を剥いだり、土を掘るのに使われたのではないか。また鬼の越冬については草食性で角をもつ動物で越冬するニホンカモシカの生態が参考になる。
伝承にあるような服装では越冬など無理である。もしかしたら冬用の衣服を持っていたのかも知れないし冬用に体毛が濃くなったののかも知れない。しかしそれでは記録が残っていない理由が説明できない。
こう考えれば、鬼の服装が夏のみが意識されている事も明らかであり、冬の鬼に伝承がない理由も明らかとなる。鬼が冬眠する習性を持っていると仮定する事で、様々な謎が説明可能になる。鬼とヒトの交易も春から秋までの間だけ行われた事になる。
4.2 交易で交換していたもの
では物々交換で鬼が払ったものは何であろうか。伝承では鬼の雌はヒトの雌よりも美しく描かれている。また、般若の面が鬼をモデルにしている事から、鬼の雌は非常に強い情念を持っていた事が伺われる。また鬼の逞しさもまた象徴的である。
鬼の雌をヒトに抱かせる事で交易を実現していたのである。もちろん鬼の雄とヒトの雌の関係も否定できない。略奪することもなく、また交易を実現するほとまでにそれは魅力的であり、また理性を保たせるほどに多くの人が大切にしたと思える。
鬼は歓楽街を形成してヒトと交易していたのである。そこにはヒトからの嫉妬などもあったであろう。そしてそのような情念が今のヒトの世界に残っている。そして次第にヒトとの混血が深くなり、歴史の中に消えて行ったのであろう。
ならばヒトが鬼が島で略奪した逸話にも別の解釈が必要になる。彼らが鬼から略奪したものは、サンゴや金銀財宝ではないのではないか。サンゴ、金、銀、財宝という名前の鬼の雌ではなかったのか。4人の雌を略奪した事と、ヒト側が4人(伝承では1人と3匹)である事は偶然の一致であろうか。
5. 結論
歴史上に登場する魅惑的な女性が鬼に例えられるのは偶然ではあるまい。日本人は自分の配偶者を鬼呼ばわりするのも偶然ではあるまい。ここには古くから鬼と交わってきたヒトの歴史が隠れているのである。
鬼の頭部を持つ類人猿の化石は見つかっていない。これはごく最近にホモサピエンスと分化した種、または亜種だからであろう。また目撃例や歴史上の文献が少ない事から、ごく少数が発生し速やかに遺伝的にヒトと統合された種であると考えられる。
彼らが極めて希少であったこと、また性の魅力によりあっという間にヒトと交雑してしまったために彼らの化石証拠などが見つからないのであろう。
我々日本人の女性の美しさ、気高さ、そして情念の深さはおそらく鬼との交配によって得られたものである。
日本人は人種の雑種である。日本は世界中のあらゆる人種が流れ着いた最果ての島である。
本論文では更に加えて日本人は鬼との雑種でもあるという事実を提唱するものである。今更新しい混血種がひとつ加わった所で何も問題はあるまい。
雑種の坩堝ではそれぞれの個体毎に影響の強い血は異なる。そこには幾つもの系統が混在しており、個体毎にどの影響が大きいかは異なる。だから日本人には典型的な美人がない。幾つもの系統があるから、どの系統が一番美しいとは結論できない。それぞれの系統ごとに美人がいるのである。
鬼の化石は見つかっていない。しかし多くの伝承から瀬戸内のどこかの鬼の墓がある可能性が高い。
鬼はヒトに近い類人猿として誕生しネアンデルターレンシスやフローレシエンシスよりもヒトの近くにいた。彼らの絶滅を研究することは、我々ホモサピエンスがより長く生存するためにも必要である。
今後の発掘が期待される。
6. 最期に
鬼の物語は、平安末期の今昔物語集には既に登場する。我々が幼年期に最初に鬼に触れるのは、なまはげや桃太郎である。近年は鬼を扱った物語が多く創作されている。永井豪の手天童子、鬼 ―2889年の反乱―、高橋留美子のうる星やつら、江口夏実の鬼灯の冷徹などがあげられる。鬼はヒトの鏡でもある。人間社会を比喩し対比するには絶好の題材である。長くヒトが記録し、これからも考察を続けていく鬼という存在を忘れてはならない。鬼に感謝しよう。
7. 参考文献
手天童子 - 永井 豪
フィンチの嘴―ガラパゴスで起きている種の変貌 - Jonathan Weiner
泣いた赤鬼