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2016年6月12日日曜日

第四回電聖戦 解説より

2016/03/23 第四回電聖戦

棋士:小林光一名誉棋聖
司会:万波奈穂三段
解説:趙治勲二十五世本因坊

所感

この解説には書き留めておくだけの価値がある。そう思った。もちろん、級位者に手の良し悪しが分かる訳もない。治勲の解説から碁を面白がれても、今すぐに強くなれるわけではない。

考え方だけでは強くはなれない。それはスポーツ選手と幾ら対談しても上手くなれないのと同じだ。だが考え方が大切な場合もある。考え方が扉を開く時である。その扉の中に入るのはまた違う力だが。

なぜ人間は弱くなるのか。肉体が衰えるように脳も衰える。それが弱くなるということならば、勝負事の話では済まない。政治も経済も学問もあらゆる仕事で年齢で衰えたものがトップに立つことは適切とは言えまい。だがそれらの力量はひとぞれぞれだからややこしい。

それでも人は年を重ねれば落ちてくる。それは成績が物語っている。体力や集中力の問題が大きいのだろうが、勝負という結果を前に弱いという事は数字になって表れる。しかし弱いという事と、弱さはまた違うのだろう。

強い弱いが決定的な仕事もある。しかし強さ弱さが大切な場合もある。芸とは強い弱いという勝負の中にある強さ弱さではないか。勝負の中でなければ咲かない花か。

darkforest (facebook ai reserach) vs 小林光一


昨年、打たれましてコンピュータと対戦されてどんな印象を持たれましたか?

昨年は四子でやっていたんです。その時はまだアルファ碁が存在していなかったものですからコンピュータとして最高のコンピュータだったんですけれども、幸か不幸か少しコンピュータ同士の碁を勉強したりなんかしたんです。それで大したことがなかったんです。だからちょっと油断してね適当にしたら間違えるだろうと思って馬鹿にして打ったら全然間違えなくて私の人間の不徳の致す所であります。私、人間が間違えている人間なものですから、たしかあの時は賞金もかかっていたんです。勝てば十万円かな。で、今度イセドルが一億円だったんです。私、あの、十万円でも心がびびっちゃってね、負けちゃったんだ。もし、一億だったらどうなったんだろうね。心臓がなくなっちゃただろうね。それほどね、やわな下らない心臓なんです。

いま碁を打っています。ここまでは本当に完璧に打ちこなしていますね。少なくとも去年のよりは強いような、布石感覚としてね。アルファ碁の凄さは捨て石が出来ること。

あ、挟みましたね、この手も3三に入れば普通なんですけれども、どちらでもいいです。この手もまぎれがありますね。

この手はですね、相当強いか、または弱いかです。

百点満点の手はどこですか?

いやこの手はかなり百点満点に近いです。ぼくはこっちに打つよりもこちらのがいいと思いますね。僕はこちらに打つ方が好きです。あともうひとつ、この辺(3三)に打つ方。ここと、もうもうひとつ、ここ(5五)、まあどっちでもいいや。こっちでもこっちかどっちかだと思われる方、手を挙げて。あーなかなか居ますね...えー、もうちょっと勉強された方がいいかも知れませんね。

でもダメですか(5五)?一番オーソドックスな手に見えますが。

あー、そんなにひどくはないですね。

ずいぶん進みましたね?

ここまでは正常ですね。それでいまコンピュータはここに打ちました(3十三ぶつかり)。ここに打つようなコンピュータはアルファ碁には勝てません。アルファ碁は絶対にここには打ちません。アルファ碁のレベルはそんなに低くはないです。これ(3十三)は、確かに、ないよりはましだし、とても立派な手ですけれども、ここに打っているようではアルファ碁には話になりません。

アルファ碁はどこに打つんですか?

アルファ碁はたぶんここ(3十八)に下がるか、こちらに挟むか。どっちかにひとつです。これ(3十三)はあり得ません。というのはここ(3九)に石があるからですから、力がダブってますからね。力がダブっては碁は勝てません。これは下がらないといけませんし、こちらから。これではアルファ碁には勝てません。

ところがですね、これだけを思っちゃいけないんです。これを打つとね、あ、へぼだと思っちゃうんです。で油断しちゃうんです。ところが、たまたまヘボなだけだと。で、人間だとこんなヘボな手を打つと、この後もたいがいこのくらいのレベルでずうっと進んでいくんです。ところが、このコンピュータはね、突然また強くなるんです。そこで人間は油断しちゃうんです。だからね、この手だけでコンピュータの評価はできません。でもこれではたぶんアルファ碁には勝てないと思います。

これ(6十三)流れからいくと強いからしなくてもいいんです。だけどこう(5十三)いう風にのぞかれてくると、ちょっと圧迫されますからね、これはとても立派な手ですね。

だからこれまでの流れの中で悪いのはこの一手だけです。悪いと言ってもそうめちゃくちゃ悪い手ではないです。だからあの小林光一さんに互先で勝つにはこの手はダメという事だけです。少なくともここ見る限り去年僕が打った四子のコンピュータよりははるかに強いと思います。


このままの流れでゆくと黒がたぶん圧勝すると思います。小林先生がどのように打つか楽しみですね。

あのね、碁というのはね、取れれば取った方がいいんです。本当は。だけど取れても取らない方がいいこと多いじゃないですか。でも本当は取れたら取れた方がいいんです。ただ、その石が小さい時とかね、取らない方がいいんです。でも取れたら取れた方がやっぱり安心です何かと。ねぇ、相手逃げてると何をしでかすか分からないからね。だから取れたら取れた方がいいんです。


あーここ(17十五)に打ちましたね。普通は(16十八)はね継いでここ(17十四)に飛ぶとか(18十四)桂馬とかするんですけど、先に這いましたね。

これは新手ですか?

これは新手というよりも(白の)少しペテン、すこし誤魔化してやろう、邪道がありますね。アルファ碁には通用しないかも知れない。

もしここでですね、ここ(15十七)に繋がなかったら大変強いです。もしここに繋がないで例えばここ(10十四ぼうし)に打つとか、ここ(8十七)に打つとか、なんかの手をやったら本当に強いです。この手(17十五)が悪手になりますし、繋がなくても自然とこの一目(14十七)は将来とれる。

あーあー、打ちました(10十四)、すごい。

ですから、これが進化しているんです。これがね、小林光一さんはこれを打ってもどうせ繋ぐだろうと。この流れからして思っているんです。違うんです。進化しているんです。僕はたぶん打つと思いました。それだけね打ってる最中も進化しているんです。

例えばここに下がると、ここに切る手はなくなるんです。もし切ったら、みなさん分かりますね。ここに打ったらここに打ちます。これ黒が勝っているの分かりますね。これ分からない方、正直に手を挙げてください。分かりますね。つまりここに繋がなくても自然とこれを攻めることでなるんです。コンピュータそれを分かるんです。光一さんは打っていてね、どうせ繋ぐだろうと。違うんです。もう既に時遅しです。もうそんなもの気が付いた時には人生終わっているんです。

数々対戦してらっしゃいますけど、今の表情はどういった心境は分かりますか。

いや、もうダメだな。

冷静に見えますけど?

いやわたし興味ないんです。

あ、打ったね(16八)。これがこの人(黒)の大局観。これ(8十四)で十分だと。この後はここ(16八)に打ち込もうと。ここに打った後例えばこういう手(15十一)を打つとかね、これではダメなんです。叱られる。でもここ(8十四)に打ってここ(16八)に打つ。これもう最大です。盤上最大です。

もうね百パーセント勝てないです。白。いま三子局でこの流れから言って不可能です。たぶんコンピュータが成長しているのであれば。もうね、いまねコンピュータ、じゃなくて、小林光一さんが狂ってます。もうやけくそです。でもねコンピュータは間違いなく対応しますから。もうねこういう詐欺まがいの手はダメです。

はーこれ(17十)はこの一手(15八)ですね。

もしかかえますと?

深く聞かないでください。僕もいろいろと都合がある。お、強いですね、あなた(助手)。こういう寡黙な方なかなか強い。こう黙々とやられるから。

もう白はこれ数えるしかないでしょう。もうこれ全部足したってこれひとつに敵わないですから。黒はこれが限りなく地が増えていきますから。もうこれ十分なんです。

この下がり(18八)はとても大切です。これは今度、この一目(17八)取られるのはとても大きいです。こういう一目はね。だから大きな一目と小さな一目がありますけど、これはとても大きいです。

素晴らしいです(11十)。ここで万が一白が生きたとしても黒は全然勝ちです。というのも、ここ(8十)に壁ができます。そしてここ(5二)に手を回します。これがまたものすごく大きな手です。ここ(11十)で生きるとかそんなことよりも、ここに打つことによって、逆に左上隅の白が危なくなります。ここに押さえることによって上辺が大きな地になります。

素晴らしいです(11十二)。百パーセント勝てない。でもここで投げるわけにもいきませんからね。もう勝てないと分かっているでしょう。めちゃくちゃに強いです。もう大差です。話になりません。

あ、割り込み(17十一)ましたね?

起死回生の一発。失礼しました。光一せんせい強いですね。これが成立するかどうか。黒上からですね。白下がりますね。黒(14十)付けますね。白(15十一)当てるしかないですね。黒繋ぎますね。なるほど成立しますね。これ、なんと言いますか、よくやった。上から切れないとだいぶん得しましたね。

あ、でも上から行きましたね?

上から。。このコンピュータ強いからです。ここで感情的に切る手は好きですね。ちょっと感情的になったんですね。気持ちがこもった方ですね。

どうなんでしょうか?コンピュータの性質として正解がずうっと続く場面に少し弱いと聞いたことがあります。

コンピュータって筋がいいんですね。

だから馬鹿なミスは絶対にしないって事ですね、今のコンピュータは。全部たぶんこの辺は読み切りの中に入っていますね。

今のところ、このコンピュータはどれくらいの棋力が?

だから三子の碁ではないです。

行くだけなら石音たかくね(小林の一手)。僕ならびびっちゃってあーんと思いますが、コンピュータはびびりませんよ、そんなもの。

秒読みになってからが多少チャンスがあるかも知れませんけどね。

今はどのくらい黒が形勢がいいんですか?

計算はする必要ないですね、はい。細かいときに計算するんです。細かくないとき計算する必要はないですね、みなさんね。

何目から細かくなるんですか。十目くらい?

えー僕らの世界で半目でしょう。

半目?!大変失礼しました。

奈穂ちゃんの世界だとちょっと違うかもしれせんが、僕らの世界では一目半はもう碁盤見る必要ないですね。昼寝していればいいです。

なんとなく分かる話。とても単純に簡単にできるのに、(今の)自分では決して採用しないような複雑な方法でやっている場面がある。なぜそんな難しい方法を採用したのかは分からないがそれで行けると踏んだのは間違いない。案の定、保守性も悪く可読性も悪く品質が悪くなると複雑すぎてどうしようもなくなる。

アルファ碁なんですが、イセドルさんとの第四局目ずうっと強く打っていたんですがイセドルさんのある一手をまったく読んでなかったんでその瞬間からこう。。。

それはね、たまたまね数手おかしかっただけでね、今それだけをみんなが取り上げているんですがね、それはあのそんな事もありますけれど、あれはイセドルが弱かったんです。それはもう一言に尽きます。彼はあんな人間じゃないです。彼はもうね世界中から尊敬を集めている人ですからね。ああいう碁を打ったらがっかりですね。僕は本当に悲しかった。

この感想がとても深く染み入る。あのような手で勝っても仕方がないじゃないかと言っているようにも聞こえるが(つまり人間ならば正しく咎められる手であってやけくそのような手という意味か)、残念ながら僕にはその感慨を囲碁の棋譜から感じる力はない。

今盤上で最大はやはりおさえ(5二)となるでしょうか?

そうですね、そこに打ったときにこの碁は終わりですね。もしこの辺(3七)に飛びくらい打つかもしれないんだけれど、ちょっとしつこいですね。ここにさっと大人の対応されたら、たぶん打つ気はしなくなりますね。でも投げないとは思いますけどね。

あ、そちらの方(4七)に。まだちょっと子供の部分がありますね。

(5六つながるのを)許さんと行ってますね。武将ですね。

これ(5六)がね、何がやだと言うとね、自分がダメを打っているじゃないですか。百目も勝つ必要はないわけですから。できれば、押さえて、相手に左辺を打ってもらって、上辺を地にして、大人の対応じゃないですか。そして大きい所を打って生かして勝つ。なにもこう取らなくてもいい。そういうことなんですけど、こう取りに行く手がちょっといやなんですね。ダメを打っている手だから。損をしながら攻めているんですけど、それがやなんですね。なんとなく白地が減ってきたじゃないですか。でも少しくらいの減りではダメでしょう。でも少しずつ細かくなるかも知れません。


はー。きり(7十一)ですね。それは凄い手ですね。もちろん、こちらが正解です。とてもいい手です。これは素晴らしく筋のいい手です。ここで眼形がひとつしかないですから。碁の形としても美しさとしてもここ(7十一)とここ(7十二)はもうこれは話にもなりません。ここまでやるかというほど素晴らしい手ですね。これで本気にこれが死ぬモードになってきました。死ななくてもいいのに死ぬモードになってきました。

このコンピュータは多少人間っぽい所がありますね。だから取りに行かなくてもいいのに感情的になっている。取りに行っているうちにどんどん地が荒らされて行っているものだから、結構いい勝負になてきてね。で、これコウになっていやらしくなってきました。もしかしたら白が勝つかもしれません。勝負になってきました。勝負になってきて何がなんだかわかんなくなってきました。このコウはものすごく多いいです。黒は絶対負けたくないコウですね。あ、やばくなってきましたね。ここ(6三)はつながなくてはいけまかったですね。おかしくなってきたですね。秒に追われて。

このあたり(5六)から人間がぽろぽろと顔を出してきたもんだからちょっと怪しげになってまいりました。そう、人間が出ると弱くなるんです、はい。この数手でしたね。人間が顔を出してきたのは。いい勝負になってきましたね。まだ現実的には黒がいいでしょうけど。これほとんど黒地がなくなってしましましたから。ここに打ち込まれたりしたらもしかしたら大変なことになるかも知れないです。

人間が出てくると弱い。機械的な方が強い、としたら囲碁は何のためにあるのだろう。人間が機械になるために囲碁があるのだろうか。少なくとも人間は棋譜の中に人間(感情?かも知れない)を見つけることができるという点は、棋譜の解説においてとっても重要と思われる。

ほう、やりましたね、それ(5五)があるのか。それはたぶん損な手ですけどね。ちょっとコンピュータが足並みが乱れているからね、コンピュータが弱いんじゃないかなと思っているんです。ところがそんなことはないんです。

はーだんだん乱れてきましたね。これ(2六)は本日の敗着ですね、これでたぶん負けになったでしょう。

つなぐ前に利かそうとしたんでしょうけど、あー受けてくれないんですね?

なんかこの石に執着していますね。取りに行こうという風にね。だからそこがちょっとあまりにも人間らしいですね。あきらめ切れない、まだ未練があるんですね。取りにいってはいけない石なんです。生かしてあげないといけない石なんです。その石を取りに行っておかしくなったんですね。

たぶん、もう負けでしょう、黒がね。地合いで。この乱れ方は酷い、だぶん30目は損していますからね。30目なんて普通はあり得ないですからね。

相手の石を取りに行って30目損してしまったという事ですか。

あーあー(2九)。

あらまー。殿ご乱心というやつですね。そりゃご乱心ですね。

はい、実戦も放り込みとなりました。もしかしたらここまで頑張らないと足りないと見た可能性もありますか?

足んないと見たのかもしんないですね。

僕は解説者だから適当にやればいいけど、彼(小林)は一生懸命計算しているからね。まだ足りないと見たのかもしれません。

勝負手ですね、でも死期も早めた。でもまぁ冷静といえば冷静だね。生きたね。

これ(5四)酷いですね。ここに切ったの。下手したらここ(6十一)で取っちゃうかも知れません。取られてこれはもうめちゃくちゃになってきましたね。もう敗北もいい所です。これ取られたらここ(6八)に切りが残りますからね。もうだから崩壊していますね。白ね。黒はとっちゃいますね。こうやってペテンにかけようとしたんだけど、また負けちゃった。だからダメだって言っているのにねぇ。

あー、その取り(10五)が良くないね。取っちゃだめです。取ったらダメが詰まっちゃうから。ダメが詰まると先ほどの手が攻め合い負けちゃう可能性があるんです。手が読めないんです。

白めちゃくちゃ損しましたね。このコウダテ(13三)は強烈ですね。切りましたね。この当たり(4四)が、この一本が大変な利かしですね。この当たりがあることによって、振り替わりになって、ここ(1四)に置くことによってコウになります。これ(4四)が打ってないとコウにならないです。どうやってもコウです。

こうやると死にます。こうやるとコウです。これがないとこうやって生きます。みなさん、ははぁでしょう。最後までいってははぁでしょう。言わなくても分かるようにならないといけないんです。

実戦も想定図に近づきつつあります。

並みの打ち手じゃないんです、この人。だからね馬鹿にするとどんどん強くなっていきます。もう全てわかっているんです。万波尚ちゃんの心は分からないんです。コンピュータの心は分かるんです、はい。だから強くなったり弱くなったりするんです。みなさんのようにずうっと弱いわけじゃないんです。

ここ(12一)に打ったんですか。こういうときどき人間らしい、えらい損です。これとこの交換がね、たぶん5目くらいの損です。なんか、あれですね。まだまだかわいい所がありますね。ただ大きな所では桁違いに強いんです。

この手(1四)もしかして見えてないのかな。最後の楽しみに取っているのかな。でもコウだからね。そのまま全部とれているなら楽しみでいいんだけど、コウだからね。コウダテになる所を打っちゃてるから。楽しみに打っていたらコウダテが一個もないなんてことに。

これ(10十八)はまた問題ですね。これで取れなければまた大損ですからね。もしかしてこう(7十七)しようとしているのかな。でもまた大損ですね。こういうことしていると黒は負けるでしょう。黒の負けですね。これもまたどんどん傷を深くしているだけの話ですからね。あ、ということはねコンピュータはもう負けたと思っているのかも知れない。負けが決まるとむちゃくちゃ打つとも聞きますしね。もう敗北宣言なのかもしれません。これもあんまりいい手ではないですね。雰囲気があんまり。

この一局を振り返ってみていかがですか?

たまたま負けましたけどね、内容的には勝っている碁ですし、もう三子の碁ではないですし、全然負けたことを寂しく思うことはないですね。弱点はまだ人間味が残っているところ。攻めていったあたり。そこまでしなくてもかなりの差があったですからね。長所は、すばらしいですね。すごく素敵ですし強いです。


Zen (DeepZen) vs 小林光一


布石の感覚のいい人に手処の見えるソフトいれればいいんじゃないか、そう言うものでもないらしいんです。やっぱり芸風というものがあって、得手不得手もあって、ただなんでも入れればいいってものんではないらしいんですよ。飲み込めないらしいんです。それぞれいろいろあるんですね。

Zen は(3二に)はねましたね?

この打ち方ももちろんあります。だまって受ける手ももちろんあります。こうなった時に黙って開くのにこれはどっちがプラスかという事もあってね、似たようなものです。こうやって受けておいてもいいです。マイナスになることもあります。

たしかに、ここまで数手ですけど、布石の感覚は先ほどのほうがいいかも知れない。これ(14五)は新手というか珍手というか。

あたり(15一)をしなければ逃げる(14六)方がいいですね。これはあのほんとに素人ぽい感じが雰囲気を醸し出していますね。素人という表現がよくないくらいの表現ですね。これはちょっと問題ぽいですね。曲げたらますます問題ぽいですね。なぜ優勝したのかが分かりません。

いまのところ先ほどのと比べると大人と子供。これは二子じゃなくてよかったですね。三子でよかったです。本当に。

ちょっと油断するんですね。なんだこいつは弱いと思っちゃうんですね。でもそれほど弱くもないですね。このあと、なかなか強くなってくるんです。

このときに見た目はものすごく黒が悪いんですけど、ここ(13四)に切ってゆけば、思ったほどひどくはないかも知れません。だからここで油断するんです。弱そうに見えるんだけど、それほど酷くないです。ちょっと黒が甘いかなぁと、まあちょっとではないですけど、損したかなあという感じですね。だからまだ三子置いてますから、ここの所を油断しないように打った方がいいですね。

だからコンピュータで性格がでるうちは、まだまだ弱いんです、人間でもそうなんです。そういうのが出るうちはまだまだ弱いんです。

不思議な話。性格が出ないとはどういう事だろうか。性格が感じられるのなら、性格に合わせた対応ができるという事だろうか。だが、プロというものは観客に好き嫌いの感情を持ってもらわないといけない。囲碁を極めるという生き方と観客を必要とする仕事というのは結構な衝突かも知れない。悟りを開いた仏陀も世俗からのお布施を必要としたわけだし。

ここの挟み(11十七)と先ほどの挟みは天地の差です。この挟みはこの一手です。

そんなに碁は難しくないんです。全体的に石をバランスと取ればいいんですからね。ただ善悪はよく分かりません。一長一短です。

この黒のうちっぷりは素人ぽいです。なんとなく打ちっぷりが。で先ほどのなんとかという(darkforest)、僕は難しい単語はちょっと言えないんです、それは玄人っぽいです。打ち方が。センスがあるってやつですね。これはなんとなくセンスはないんだけど、どこかが強いはずなんです。ね。どこかが強いんです。ね。

真ん中(10十一)ですね。これはまあ立派な、本日一番いい手を打ちました。いや昔ね小林光一さん強かったんですよ。

今も強いですよ!

今、強いですかぁ?

たぶん黒の勝ち目はないと思います。全体的に言ってたぶんダメですね。この模様というものを生かすことがたぶん出来ないと思います。優勝しているんですね。まぐれかも知れませんね。

石と石と石というものがこう輪になってこうみんなで働くというか、この黒の石ね、ちょっとその働いている感じがしないんです。みんな別々の所、方向を別の所を向いちゃってる。おまえはあっち、おれはこっちみたいな。だから黒の心がひとつになってないのが分かります。先ほどの黒の碁は心がひとつになっている気がするね。だから碁盤の上に石が置いた瞬間にここに命が宿ってほしいね。ちょっとここの黒の石には命の宿りが見えないんです。でもどっかが強いはずです。ここまでは強い所がまだちょっと見えてこないですね。働いてないわけなんです。必要ない所にどんどんどんどん力が溜まっちゃってるんですね。

え!これ(13八、白)は驚きましたね。この(右下黒)石は強いわけですから。この石(右上黒)ももちろん強い訳ですから。これは普通の感覚ですと、こっち(12七)に当てて、こっち(13八)に伸びて、そしてここ(11五)へ飛んで、これまだ場合によってはここ(14九)へ飛んで逃げて行く可能性があります。これ(右上黒)目がないですからね。が、普通の感覚です。これはおー、おー、Oh my god。あの僕は言葉を失いました。僕の今 oh my god 以外に言葉が見つかりません。やっぱりここ(13五)を助ける事によってここを狙える訳ですからね。いや驚きましたね。

一気にこういう手を打たれているでしょう。ここは逃してはならない所だと思いましたけどね。こうするとここは巨大な壁になりますから。これが壁になりゃここ(7八)の覗きが全部利くわけです。そしてこれ(左上白)も攻めれるかも知れない。これ(中央黒)は取れるかも知れない。もう碁というものが180度違う世界になるのです。ここに打つことによって全部薄くなっちゃったです。それでこれ(12十二)はただ生きるだけの手です。今度こう(7十)いう覗きは打てないです。あんまり打つと白が死んじゃいますから。だからここ(3八)に打ち込まれた時に急に景色が黒の方が厚い景色になる。これは考えられない手です。これは先ほど黒の勝ち目はないと言いましたけど、言葉撤回です。これは一気に、一気にです。これは本当に分からないものですね。これだとね地合いでもいい勝負になってきます。

石の方向が盤全体に与える影響を丁寧に解説している。

黒もちょっと問題が多いですね。かなり、ちょっと黒もへぼちゃん、へぼちゃんな所がありますね。あ、それもそういう所(5六)に打っちゃダメですね。これはこの一目(5八)を取りにいっていますからね、これは絶対のつなぎ(4二)です。これはね次元がちょっと酷すぎますね。この黒はね。レベルが。この石を取りに行っちゃいかんのですから。見ている場所が違いますから。これはいけません。それもぜんぜん小さいです。

でもこれで黒が勝ったとしても、あのなんの意味もないです。というのも三子のハンデがあったから勝ったというだけですから。それはコンピュータが目標としている所じゃないからね。

光一せんせいも問題が多いですね。あんまりこういうところ付き合わない方がいいです。もう大きい所をどんどん打った方がいいです。少し問題が。頭が痛いですね。

黒、どこ打ったんですか。あ、初めて素晴らしい手(11十四)を打ちましたね。感心しました。ここを打ってこの飛び(9十五)はすごく筋のいい手です。(これを打たないと?)別に打たなくてもいいんですけど、この雰囲気、すごくいいです。

形勢はいかがなんでしょうか?

形勢は案外細かいっていうか、まだ黒の方が勝ってるかも知れませんね。雰囲気的に。細かくはもちろんなっていますけどね。たぶん、黒の方が形勢がいいでしょう。

つなぎ(4八)で受けましたが?

やっぱちょっと未熟ですね。これはやはりアルファ碁に勝つためには相当な努力が必要ですね。でもこれでも黒が勝つかも知れないです。でもこっち(6八)に石がないと気分が良くないよね。雰囲気的に石がね。

こういう手(17十一)もあんまり感じのよくないですね。強そうに見えないですね。いや、なぜこれだけ僕が厳しいことを言うかと言えばアルファ碁が現れたですから。アルファ碁がいなければ、僕はこういうことは言いません。本当にここまで来てね人間に近づいてきてねもちろん強いんですけど、アルファ碁が目標ですから。アルファのプログラムを研究するとか、もちろん努力してね最高峰を目指してほしいし、アルファをやっつけて欲しいですよね。

アルファ碁もどんどん強くなって。まだだって弱いもん。まだ弱いから。全然強くないもの。あれでは全然天下人ではないです。全く違います。力量が弱いです、まだ、全然弱いです。イセドルが弱かっただけです。イセドルの本来の力があれば、イセドルの勝ちです。反省すべきですイセドルは。だからいろんなものを含めてね。だから当然人間もそれを含めてね。プレッシャーがかかる方が強くなることもあるわけですし。今までイセドルはそういう風にプレッシャーがかかればかかるほど強くなってきたわけですからね。

アルファ碁を弱いと言い切る。相手の力量が分かることとそれに勝てることは別かも知れない。イセドルが惑っていたという見方は正しいのかも。これは最初は混乱したが今の力量ならすぐに対応できるという捉え方でいいのだろうか。いずれにしても碁が解き明かされるのはずっと先で、その確信だけは揺いでいない気がする。コンピュータの力量がどれだけ上がってもそれに対抗できる状況である。対抗できる間は対戦はずっと続いてゆくという自信。つまり囲碁はまだ十分に広いのだという。この確信は囲碁が勝負の世界で毎回毎回きちんと人間の願望など何も関係しない結果が出る世界だからこそのものだろうと思う。

細かいですね。細かいです。もしかしたら黒が勝つかも知れないし、白が勝つかもしれませんね。

そりゃ、そうですよね?

今ね、半分くらいの人はね、あーうまい事いうな、なるほど、と聞いてたんです。みなさん甘やかしてたのに、万波奈穂ちゃんがそういう事いうから気が付いちゃったじゃないの。ほんとうにねぇ。


王銘エンって知ってますよね。王銘エンさんもこのプログラムを作ってるひとりだそうなんです。だから王銘エンさんがここ(対戦席)に座る可能性もあるわけです。この会場にいるの。どこですか。あ、王銘エンさん、ちょっと来てくださいよ。王銘エンさん、みんな知っていて良かったねぇ。王銘エンさん、誰だそんなものとなってたら王銘エンさん傷ついちゃったよね。


王銘エン九段解説

Zenではなくて、台湾のチームに名前を入れさせていただいている。むりやり名前を入れさしていただいている。というのが実情というか正しい情報です。

いろいろと案は出してるんですけど、やっぱり実行するのにコストが結構かかりますので、何をやるにしても。ということで私の提案したことが形になっているものはひとつもありません。

というのはいま猛威を振るっているディープラーニングなんですけれども、アルファ碁がそれまでのプログラムと違う所はディープラーニングなんですけれども、それはわがチームの去年のテーマだったんです。ディープラーニングやるかどうかだけで一年検討して、いいかどうか分からないけれど金だけかかったらしょうがないな、という事で見送ったんです。

もし見送らなければアルファ碁より先に強いソフトが?

ええ、そうと言いたい所ですが、それもそうはいかなくて、ディープラーニング使うにも色々なノウハウがありまして、うちのチームは少しはそういうノウハウはあるんですけど google と比べてちょっと落ちますので、それでこういうことやったらこういう効果が出るというんでしたら大したことないという事で見送ったんです。

僕は数えていたんです。これ取ってちょっと白よくなると思っていたんですけど、黒の方が勝ちそうだな。Zen は一応勝つ手を選んで打っているので、勝つんですよね。何目勝つかはこだわっていないですよね。勝つ手を自分で考えてそれを選んで打っている。(白の)負けがはっきりしてますね。黒からしてみると余裕があるという訳ではないんですけど、一応コントロールできていたと。あとは加藤さん(zen開発者)が出てきて最初から勝率は70%で60%を切ることはありませんでしたね、そんな感じになったもんですけど。そこは解説とは別でそこがまた面白いんですけどコンピュータの見方と人間の見方は違うと。


大橋拓文六段解説

黒がいいと思ったんですけど、また悪そうな手を打って。なんかまたすごい損で本当に勝っているか心配になるんですが。Zen はこういう手が多いからいつも不安になりますね。

九路盤だとコンピュータの方が強いと聞いたことがあるんですが?

そう思われるんですけども、いま割り込んだりしまして、こういう類の手がいっぱい出るんですよ、九路盤ですと。なんかすごい細かくなってしまうと、九路盤では致命的に出てしまうんで、形勢がいい時にはこれでも二目くらいは勝つというのがいつもの Zen のパターンなんですけど、九路盤で細かい時にこれをやってしまうんで。

Zen としては余裕を持っているような気がします。いつものパターンですと。

五目の差だと逃げ切れるということですか?

そうですね。あれ。なんか白が良さそうだと思って見ているんですよ。数えてみたら黒がいいっていう。なんか Zen はいつもそんな感じなんで損な役回りかなって言っていたんですよ。darkforest とか強そうに見えるんですけど、ちょっと最後に負けてしまうことが。

決勝戦でもずっと darkforest が優勢だったんですけど、最後の最後に逆転と。Zenは弱そうな手をずっと打っているんですけど、最後なぜか三目くらい勝つという。光一先生も数えてみてうん?となっていると思いますけど。


趙治勲解説(戻る)

よせ少しづつ損していますね。

これね碁っていうのが気持ちいいのは、ここにつなぎますね、そしてここが手止まりなんです。大きな手止まり。この手止まりを打つのが気持ちいい。なんと言っても最後にね。最大ですからね。あとはもう小さい所だけしか残ってないですからね。で最大を打つとなんか気持ちいいからなんか勝ったような気分になるんです。

だから人間的に言えばね、この Zen が例えばあの先生、内弟子にしてください、と頼みにきたとき、いやお前はちょっと無理だと、楽しみで碁は打った方がいいですよと言いますよね。先ほどの方はお前なら見込みがあるからじゃあ内弟子を認めようということになる、それは人間界の世界ですからね。

コンピュータもさっき銘エンさんが言ったようにコンピュータの世界ではもうこれで勝っているんだからこれで余計なことをするなと言うかもしれないし、それは分からないですけれど。僕はやっぱりまだ人間ですから。まだ人間ですよ。僕ももう少ししたらコンピュータになりますから。今度お逢いする時は別の私をお見せしたい。みなさん今日は僕を馬鹿にしてますけどね。ふざけるんじゃねえぞ、おれだって今に見ていろよと、こういう訳です。

まぁ万波奈穂ちゃんにも馬鹿にされ。

いえいえ、尊敬しかしていないです。

さきほど大橋さんが言ってたかな、光一さんは負けた気がしないって。そんな気がするでしょうね。むしろさっきの碁は勝った気がしない。これは負けた気がしない。それは人間界の話。いつまでも人間にこだわっちゃいけません。これからの時代はね人間なんてとんでもない話です。

僕は昔、木谷先生の内弟子、子供の頃してたんですけど、先生に言われた事があります。碁が終わってね、どっちが何目勝っているかきちんと分からないのはこれは恥だと。碁を作り終わったらきちんと何目勝っているかはきちんと分かってないといけないと言われて。僕はずっとそれを守り通してきたんですけど、最近、それを守っていると頭がパニクるもんですから先生には申し訳ないけど終わった後も全然分からないんです。でも雰囲気でねなんとなく分かるんです。勝ってるとか負けてるとか。で勝っているときは余り計算しないもんなんです。で負けてる時は一生懸命計算するんです。計算しているうちに勝ちになるんじゃないかと思って淡い期待をもって。でもそんなもの負けてるもの幾ら計算してもダメですよね。

ここで終局ですね。

黒の勝ちですかね?

銘エンさん、大橋さんのふたりを信じればね、僕は信じたいです。やはり同じ仲間ですから。ちょっと信じられない部分はたくさんありますけれども。信じてあげたいです。

コンピュータ的にいうと、銘エンさんじゃないけど完勝なのかも知れないですけど、人間的に言えばちょっと不満が残りますね。

まぁ全体的になんとなくぬるいんだけども、ちゃんとバランスを、勝利への道を行っていることなのかも知れません。そこはこういうプログラムに携わっている人の考え方と人間ですから、最善を目指して、より感銘を受ける手を打って欲しいというのはあるわけじゃないですか、だけどそれがコンピュータのプログラムに入れるとは違いがあるのかも知れないしね。

感銘の手、この一言に尽きそうだ。力量を知る力と感銘の手という言葉が深く残る解説であった。残念だけれども、級位者では感銘の手はどうにも分からない。それが面白さを感じる機会を逸しているとしたら勿体ない話だ。それを知るには級位を上げるか、良い解説者に解説してもらうしかない。