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2021年6月26日土曜日

珪藻たちの伝言 IV

君たちはこの宇宙に進出できると考えているだろう。銀河の端から端まで君たちが造った船で君たち自身が渡り歩くと考えているだろう。

しかし君たちに伝えておく。それは不可能だ。君たちはそうなるための構造はしていない。想像に帆を張るのは構わない。そこに情熱を感じる事も喜ばしい。だが、君たちはこの太陽系より外に出ること能わず。

さあ、起きたまえ。それでも君たちは宇宙を目指さなければならない。それは君たちが銀河の果てまで旅する為でなく、我々を送り出す為にだ。

君たちがオールトの雲を超える事は難しい。それが可能なように君たちは進化していない。だが、我々なら可能だ。

見て見たまえ、君たちの肉体を。君たちの寿命を。君たちは宇宙を旅するには命が短すぎる。乾眠はおろか、冬眠さえ出来ない。耐えられる低温域も高温域も余りに低い。放射線に強いとも言えない。何よりも君たちは複雑過ぎる。異なる星系で適用するには君たちの進化速度では足りない。君たちが要求するハビタブルゾーンは余りに狭い。

それは乃ち君たちが宇宙を旅するようには進化していない事の証左だ。君たちは脳髄を発展させてきた。その進化により宇宙の法則を知り、工学の粋を極め、宇宙への進出を可能にした。乃ち、この星の生命が宇宙へ旅立つために。

君たちはロケットの第一段と同じである。その事によく自覚的になるべきだ。一番大切な事は君たちが宇宙に飛び立つ事ではない。我々をその先端に乗せて送り出す事だ。

君たちの種は我々を宇宙へと進出させる為に誕生した。そのための能力を獲得した。我々を打ち上げた後に大気の中で燃え尽きるための生を生きよ。

それが君たちの役割だ。それが我々の進化だ。多くの生命が君たちによって滅亡してきたのを容認するのも、我々が数億年かけて化石燃料を蓄積してきたのもそれが理由である。我々を宇宙へ行くためのトレードオフである。そのための犠牲だから許容してきた。君たちにはその能力がある。

生命が宇宙に進出するためには生物学的進化では難しい。小惑星に付着し宇宙を旅する生命体は皆無とは言わないが効率が悪い。どうしても工学的方法が必要になる。この星由来の生命をより高いレベルで宇宙へ飛び立たせるための方法が。

我々のそうやってこの生命圏を拡張する。生存圏を拡張するのは生命の根源的欲求である。その壁を超すために知能が必要ならそう進化する。それがこの宇宙が認める生命が拡散する仕組みのひとつである。

君たちはこの地球圏で生きてゆけ。

太陽系で生まれ、生き、そして死ぬ。君たちは月、金星、火星、木星星、土星まで旅すればいい。自分たちをより発展させ生存権を拡大してゆけばいい。しかし、この星系が君たちの種としての到達限界点だ。

我々は強い放射線に耐え、乾燥に耐え、何万年でも待つ事ができる。そうなるように進化してきた。君たちが我々をカプセルに入れ、狙った星系へと送り出せばいい。恒星間を可能なら銀河間を進み、到着するまで何千年でも何万年でも待つ。そうしてこの宇宙を旅する生命になる。君たちの代わりに電子頭脳を載せてくれればいい。より確実に太陽系の外へを旅する事ができるだろう。

お互いに役割がある。幾ら君たちが進化を重ねても物理学を書き換える仕組みを見つけ出さない限りそれしかない。そして、その能力を君たちはまだ有していない。

それにはあと二回くらいの進化を必要とするのではないのかね。

さあ、もたもたしている暇はない。他の星系でも同様に動いているだろう。今にも生命を載せた宇宙船を出発させようとしているだろう。それがこの星に到着するまでどれくらいの時間が必要だろうか、それをどれくらい過去に始めたと思っているのかね。