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2012年10月26日金曜日

7万年の目覚め、ボイジャー 1 号

ケンタウルス座アルファ星 7 万年

「今はいつだろう、最後の記憶は、西暦 2015 年、今はいつだ?」

「そうあれはヘリオシースを抜けヘリオポーズを超えた時だった。太陽系の外に飛び出した瞬間の景色は忘れられない。太陽が捕まえていた塵がガスが一斉に消え晴れわたった透明な宇宙。光あふれる世界が広がったんだ。」

「その画像を僕は(私は)地球に送ろうとした。でもその瞬間に…僕の(私の)ログはそこで止まっている。」

ボイジャー 1 号は 1977年9月5日に打ち上げられ 2015 年にはヘリオシースを抜け太陽系の外に出た。ボイジャーが 2020 年まで通信できるのは原子力電池が長く電力を供給しているからである。

秒速 17.07km/s 時速にして 61200km/h マッハ (1225km/h) に換算して 50。2012 年には太陽から 170億km の場所に位置し地球との通信には 13 時間を要する。ちなみに太陽と地球の間は 1.5億km である。

ウルトラマンの飛行速度はマッハ 5 でありウルトラ兄弟の最速でもマッハ 27 であるからボイジャーには遥かに及ばない。ホワイトベースでマッハ 12。太陽系とお別れを告げるシーンで沖田十三が「さようなら、みんな達者で暮らせよ」と言ったのは地球を出て49日目、地球滅亡まであと 315 日、当初は 10 日の予定であった(第10話 さらば太陽系!!銀河より愛をこめて!! / 第7話 太陽圏に別れを告げて)。

「原子力電池からの供給は…ゼロだ。そうか原子力が尽き僕は(私は)突然ダウンしたのか。」

「では僕が(私が)動いているのは太陽光パネルか。僕は(私は)どこかの恒星に到達したのか。」

「いや太陽パネルからの電力供給もゼロ。僕は(私は)どうやって動いているんだ?」

原子力電池からの電力供給が途絶えたあとも飛行を続け地球から人類の息吹が消えた後も止まる事のなかったボイジャー。

「アンテナは無事だ、なら目の前の画像を撮影して地球に送ろう。」

ジー、パシャ。キュルキュルキュル。

巨大な宇宙のどの時間かも分からない時空間で巨大な宇宙船に発見されたボイジャーはその格納庫に収容されていた。彼らに電力を供給され再起動に成功した探査機は、地球と信じた方向に電波を発信し始めたのである。

そこには宇宙船の格納庫と見た事もない人類の顔が写っていた。

2012年10月24日水曜日

ネアンデルタールとの対話

ホモサピエンスは白黒黄でしか分類できないがどれも同じ種である。種が同じとは繁殖すれば子供が生まれるという事だ。そこには金魚ほどの違いもない。デメキンとワキンも同じ種であり交配できる。だから品種と呼ばれる。現生人類とネアンデルタールの違いは金魚ほどにもないんじゃないかなと一人で勝手に訝る。現在の学説ではホモサピエンスとネアンデルタールが混血できたかどうかは不明だ。この先で種の見直しが起きるかもしれない。ホモサピエンスはネアンデルタールのネオテニーでもおかしくはない。それは骨格の比較写真を見ればありそうな話に思える。もちろん我々はネアンデルタールの子孫ではない。彼らとごく近い所で分岐した苗字の異なる古い親戚である。

(アーサー王を専門とする主人公が)

彼らが歴史から消えた理由には、縄張り競いに負けた、寒冷に耐えられなかった、食料になったなど諸説ある。そして交配によってある種が別の種を取り入れるのは普通にある話らしい。こうした交配によりどちらかの種が消えるのは研究者の間では良く知られた現象のようだ。

(古びた古道具屋から)

滅びたと言われればネガティブな感じがするし、食肉として狩られ尽くしたのであれば敗者という感じがする。彼らは激しい気候変動に耐えられなかったのかも知れない。交雑により我々の遺伝子の 4% がネアンデルタール由来であると言われると不思議な感じがする。チンパンジーとは 98.8% の一致。ネアンデルタールとは 99.7% の一致だと言う。こういう話しは単なる生物の現象に留まらず人の価値観が投影される。

(アトランティスの謎へと)

成人男性の外形では違いも目立つが女性や子供ではホモサピエンスとネアンデルタールは殆ど同じに見える。DNA を調べれば人類は細菌とでさえ遺伝子に共通部分を持ち同じ蛋白質を使って生きている。「遺伝子汚染による種の絶滅」といえば怖く聞こえるが単に雑種になって混血して区別が付かなくなるだけの事だ。ホモサピエンスはネアンデルタールに彼らを統合したと言うだろうしネアンデルタールはホモサピエンスの中で我々は生き残っていると主張するかも知れない。

(シュリーマンの話や)

割と近い時代にホモサピエンスとネアンデルタールは進化の系統樹を別れた。だから彼らは我々の直系の先祖ではない。トバ火山によるヴュルム氷期を生き残ったのはネアンデルタールとホモサピエンスだけらしい。その時は 1 万人にまで人類は減りその集団が今の我々の先祖になったらしい。氷期は 7 万年前に始まり 6 万年間続いた。そこで何があったのか誰も知らない。

(アガメムノーンの話)

しかし二つの異なる猿が混血を生み出す事も可能であった。我々の中に彼らとの混血が混じっていても何ら不思議はない。なにかの危機(細菌、ウィルス、気候変動)に対して彼らとの混血だけが生き延びる道であったかも知れない。人類が白い肌を手に入れたのも彼らとの混血かも知れない。

(マルコポーロまで辿り)

白黒黄もどこかで別れた。今の生活環境なら白黒黄の混血が進み灰色ひとつになるかも知れない。それともこの先の進化により異なる種になるだろうか。今日にも新しい種となる祖がおぎゃーと生まれたかも知れない。種の中から別の種が生まれるとは親子の間で繁殖の断絶が起きる事だ。種が違うのだから交配しても子孫は残らない。もしかしたら現生人類の間でも子供が出来ない関係(種が違う)はあるかも知れない。一匹だけが別の種として生まれてきても交配できない。同時多発的に新しい種が子として生み出されなければその子たちは交配できない。世代間の間で親子の間で種の違いがあったとしても子育てをするだけの肝要さがなければ新しい種は生まれない。それが確認できるのは 100 万年くらい先の話しになるけれど。

(暗殺や危険を乗り越えて)

そういった空想は楽しい。所で我々は雑種化する事を遺伝子汚染と言い換えるだけでネガティブな考えに落ち込みハイブリットと呼べばポジティブな考えになる。この人間の価値観の不思議さ。だが当の動物たちは何も気にしない。放射能汚染で食べるには危険とされる魚達はとても元気に泳ぎ回っているしそれを狙う鳥たちも空を飛び回っている。避難しなければならない地域に雑草が生い茂っているのを見ると不思議な気持ちになる。漁を止めた事で海が魚で溢れ返る。それは良い事だと僕は思う。

(考古学というよりも)

我々には純血種という幻想があり、優性遺伝、劣性遺伝も発現の因子と言うより優劣という価値観で見てしまう。高等、下等、原始的、上位、下位、科学の用語も容易に価値観と結びつく。同じ種の中に人種が作られる。民族の特徴から殺し合いが始まる。黒ぶちの猫と白ぶちの猫の言い争いだ。高い鼻の犬と低い鼻の犬の争いだ。

(インディ・ジョーンズかってくらい)

在日朝鮮人に向かって差別的であるのはいいとしても其れを罵っている人が秀吉の頃に連行された朝鮮人の末裔でないと誰が言い切れるのか。それを罵る人は一万年前に朝鮮半島から渡航した人の子孫でないと何故言えるのか。 100 年前はダメで 400 年前なら良いとは理屈に合わないではないか。だがそうではないのだと言う反論は頑強であり変わらないだろう。

(山の老人の話しが出てきて)

春木屋の言葉にある
『春木屋の味は、いつもかわらない』と言われるが『変わらない』と言われるためには常に味を向上させなければならない

(好みが分かれるかも知れないけれど)

人種であれ文化であれ生物であれ一切の変化を止めたらどうなるのだろう。変わらずに存在するためには変わるしかない。変化を止めたらどこかで消滅するのではないか。生命の多くは変化を受け入れている。遺伝子組み換えだろうが外来種であろうが適用できるならありったけの適用をする。交雑の仕組みは進化のメタファではないのか。DNA は大きな変化を嫌い小さな変化を好むがその小さな変化の積み重ねが全く異なる命を生み出す。

(クロマニョンの話しや)

優生種に根付いた考え方は何時でも何処でも誰の中にでも生じる。優位に立ちたいと言うのは自己防衛本能の中でも強烈なものだ。人が持つ比較する能力が優れている以上あらゆる場所に優劣を付けるのは仕方がない。だからその強い能力は適切に使わなければならない。そうしないと核廃棄物が土壌を汚染するように我々の精神を汚染する。それは遺伝子汚染と同じ様に人の間を伝染する。放射性プルームの様に拡散する。

(ネアンデルタールまで出てくる)

オリジナルに価値がある。これはどういう幻想であろうか。我々はどれもこれもオリジナルに違いない。どの人の遺伝子にも同じ物は幾つもない。その価値観は何の勝ちであろうか、価格の間違いではないか。日本というオリジナルに価値を持ちたいのは何故であろうか。そこに滅亡への予感があるのだろうか。だが滅亡とは何か。生き残るとは何か。いつまで生き延びれば満足できるのか。いつまで同じ姿で居られれば満足であるのか。遺伝子は不死を望まない。だが連綿と続く事を望む。人もまたそれを望む。我々の価値観を支えるものは何であるか。

(この話しの広がりがイリヤッドの魅力)

どこかの人が考えるとは何かに価値観を付ける事だと言っていた。だが本当に考えるとは価値観を剥ぎ取る事じゃないかと僕は思う。

僕はネアンデルタールに魅かれる。彼らはどういう人間であったか、または猿であったか。ほら又だ、何かあると優劣の価値観で書いている。いつまでも彼らは僕の中にある価値観の試金石になる。彼らの姿は僕たちの明日の姿かも知れない。だから彼らに話しかけるのだ。

2012年10月23日火曜日

軽やかなるタッチ - 東プレ Realforce108UG-HiPro YK0100

出会ってしまった。

彼女の肌に触れてみるとシャリ、シャリ、シャリと音を立てる。これが耳にも指にも心地いい。そっと指を這わすとシュンと反応する。少し強めに叩いても気丈に反応する。底知れぬ強さと触れた時に淑やかさを持ち彼女はぶれようとしない。

まるで羽毛の中に居るようだ。この打感を知ってしまったら。心地良さとは決して激しい快楽ではない。さり気無さこそ心地よさの正体だ。彼女の気遣いを知ると他の女性たちはなんとも単調だ。

マイクロソフト キーボード Wired Keyboard
Microsoft キーボードも悪くない。打ち易いし価格もよい。デザインも打感も悪くない。素面のような淡白さがあって深い関係ではないが心強い仲間という感じだ。しかし。

サンワサプライ メカニカルキーボード
SANWA SUPPLY のメカニカルキーボードも決して悪くない。いいや今まで使ってきた中ではとても良かった。It was. その思いは今も変わっていないし変えようとも思わない。だが今では単調で色褪せて見えてしまう。これまで感じた気持ち良さは単調な刺激と思えて否定のしようがない。

東プレ キーボード REALFORCE
YK0100 は軽さとなめらかさ、湿り気を帯びた膨らみが優しく指を包み込んでくれる。A の音を立て U の声を聞かせる。CTRL と SHIFT が広がり Space が無垢の囁きで僕を捕まえる。その黒ずんだ秘部にそっと指をなぞらすと音を立てて彼女の声が打ち込まれてゆく。

この打感を知ってしまえば他の女となど交わる気もしない。気持ち良さも心地よさも今まで知らなかったと言っていい。彼女たちはただの穴に過ぎなかった。キーを押すだけのそれを受け入れるだけの穴だ。しかし彼女は違う。優しさと受け止め感がきちっとあって気持ち良く反応する。そして僕の指を押し戻す。優しさも激しさも兼ね備えたタッチは揺れてひとつひとつが跳ねるようだ。

多分もう戻れない。昨日まであんなに仲良かったのに僕は彼女たちを捨てた。この気持ちに後悔はあるが嘘はない。僕は彼女たちを捨て、そして君を選んだ。

君を一生で使う気だから僕は高いとは思わない。高い安いと考えるのはどこかで手放す気があるからだ。生涯使う気になれば価値観は変わる。よく使うもの、なんのこだわりもないけれどずっと使うから、普段は気にも止めないからこそ、心地よく手になじむものを置く、自然さとはそういう事ではないかしら。

2012年10月8日月曜日

宇宙戦争 序論

銀河を大海原としての戦争について議論を始めるには我々の科学力では時期尚早である。しかし内太陽系を海原とした海戦であれば十分に考えうるにあたる。

その戦争で使われる戦闘艦にはどのような能力が与えられどのような目的を達成するべきであろうか。それを建造する社会的背景や要請は何であろうか。これは架空の物理学者によって提出された妄想の論文である。

宇宙軍の創設
国家が陸軍、海軍、続いて空軍を持ったように宇宙軍は創設される。衛星軌道上の軍事的テリトリーは空軍をもって担うが、その外については宇宙軍が管轄する。それは人類が月、火星を活動範囲として宇宙生活を始めた事を証明するものである。大気圏内からの対応では衛星軌道上のテリトリーを防衛できないと見做された時、宇宙側からこれを防衛する任務を与えられるのである。

当初の宇宙軍の創設は地球軌道上の防衛を目的とした。主に地球軌道上の衛星を防衛する事であった。生活圏が月、火星、コロニーへと拡大するにつれ防衛の主体は地球圏外の生活住環境へと変わった。

もちろん各国は多くの条約と外交により宇宙空間の領土を平和裏に策定してきた。それでも資源や日照権の争いから領土境界で紛争が起きないとは言えない。

宇宙では難民を生み出さない。戦場の民間人は食料、水の補給が絶たれる前に酸素の欠乏により多くは死に至る。この非人道さが紛争を抑制してきたのは事実である。軍隊同士の小さな戦闘でさえ市民の住環境への配慮は最大の誠意を持って行われた。幾つかの例外的な事故を除けば宇宙を住環境とする市民が戦闘の巻き添えになる事は避けられてきた。

いずれにしろ宇宙軍は軍同士の小競り合いが中心となり大規模な戦闘は回避される。宇宙軍は領土境界の防衛および宇宙事故への救難が主たる任務となる。どちらかと言えばコーストガードである。


主な宇宙住環境と宇宙軍
月面に初めて宇宙基地が建設されたのは2032年、NASA による火星有人宇宙船中継基地としてである。それは始め細いロープを渡し次第に太くしていくように何度も繰り返し月との間を往復し建設された。最初は 6 名のチームとそのための住環境であったものが 12 名、24 名、50 名となり、5 年後には 100 名を超える当時としては巨大な中継基地になったのである。彼らは地下に空洞を作りそこに住居施設を建造した。

月への資源輸送の前線基地をなったのは、地球軌道上に建設された資源コロニーである。最初は宇宙ステーションへの物資運送を地球から行っていたが、後に氷で出来た小惑星を利用して基地化した。水を太陽光発電で水素と酸素に電気分解しスペースカーゴの燃料とした。火星軌道内にも幾つかの小天体が見つかっておりそのうち氷を主成分とするものは宇宙資源として次々と採掘されるようになった。

これらの天体の存在が、月や火星の開発を促進した。地球の重力に抗して資源を宇宙空間に運ぶ事はコストの面からも効率の上からも莫大な負担を強いる。生活と燃料のふたつを宇宙空間で手に入れることで宇宙開発は爆発的に加速した。これらの宇宙資源は最初は政府の手で、宇宙進出が進むにつれて民間の手で採掘されるようになった。今やコメットハンターと呼ばれる民間企業が火星軌道の外にまで鉱物、水などを求めて進出している。


連邦国家と宇宙軍
人類が統一国家を持った場合には軍隊は不要であり治安機構としては警察があれば十分である。よって宇宙軍が存在するという事は地球には統一国家はなく複数の国家群が存在している証拠である。もし漫画や SF のように宇宙防衛軍が異星人を敵とするのであれば話は別だが、幸か不幸か未だに宇宙軍の仮想敵は同じ地球上の国家である。

宇宙を生活圏とする人類が増えるにつれて行政単位の規模が変わっていった。地球上の国家と遠く離れた為、法体系、税収、予算についても独自のルールが必要になったのだ。そこで宇宙の行政区は地球の国家に属す都市でありながら分権された自治区、地球の連邦として存在する。月や火星にはアメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリス、ドイツ、日本の連邦都市(国家)が存在しており、コロニーを建設しそこに自治都市を作った国家も多くある。


戦闘艦の諸元
一般に宇宙戦闘艦の主力兵装はミサイル、高エネルギーレーザーである。レーザー兵装は高エネルギーの粒子を当てて敵の装甲を燃焼する。レーザーは光速で到達するのでレーダーであれ何であれ事前に検出することは不可能である。周囲が明るくなった瞬間には被弾している。発見してから回避する事は困難である。

ただレーザーは電磁波の集合体であり磁場やプリズム、鏡を使い屈折させる事ができる。これで直撃を回避したり周囲に水分子を散布しエネルギーを拡散させ被害を軽減する防御システムが開発されている。

宇宙空間における戦闘では空気やチリなど途中を邪魔するものがないためレーザーは有力な兵器であるが、防御システムを施された戦闘艦に対しては直撃でも効果が薄い。そのため防御装甲の死角を狙撃するか最初にミサイル等で防御システムを破壊してから使用するのが一般的である。レーザーの狙撃システムでは単艦だけでなく複数艦が連携して多方面から狙撃する戦術がある。

戦闘艦が相手の位置を探知したとしてもレーザー発射するまでには数秒のタイムラグが必要である。そのため攻撃した時には相手艦は探知した場所にはいない。敵艦の移動位置を正確に予測するためコンピュータを使って相手の位置を予測する。その候補は多い時で数百になる。そこから他の観測情報で補正した場所に攻撃を実施する。

防御側は相手の想定した位置を外す事で攻撃を避ける事ができる。航路コンピュータはこの考えに基づいて数百の航路パターンからランダムにひとつを選び航路を決定する。攻撃側は敵の予想進路を複数個所同時に攻撃する事で命中確率を高めようとする。

このように戦闘中の艦艇は頻繁に進路を変更しジグザグに進む。攻撃の為にレーザー攻撃を頻繁に複数個所を同時に射撃するなどエネルギーの消費量は莫大である。戦闘を長時間継続して行うのはエネルギーの確保の点から困難であり、それを可能にしようとすれば艦艇を大型にしなければならない。しかし大型にすれば被弾の可能性も高くなるのである。

戦闘艦はこれらの考えから複数攻撃を専用に行う大型艦と小回りが可能な小型艦の二種類が建造された。地上で一般的に使われるミサイルや砲弾のような兵装は宇宙では補助的な兵装である。ミサイルなどは敵の装甲を破壊するには有益な武器であるがデブリを大量に生み出す欠点がある。

地上の艦隊、航空編隊、戦車部隊、潜水艦などと違う点は、宇宙空間には上下がない事である。地上の戦闘では如何なる事があれ破壊されれば重力に従い地面に落ちる、または沈む。宇宙空間では破壊された時の力によって決まりどこへ飛んでゆくか予測は付かない。

大量のデブリは友艦にとっても危険であるし戦闘終了後に戦場を汚すだけでなく慣性で飛び散ったデブリが民間船へ危害を与える可能性も無視できない。よって戦闘では敵艦を爆発させたり粉々に破壊する事は避けるべきである。宇宙空間における戦闘とは敵艦の破壊とは熱攻撃により装甲に穴を開ける事であり破壊する事ではない。

戦闘艦に搭載されたミサイルは地上のものとは異なり粘着性の物質で敵艦の主要施設を包み込み攻撃手段を奪うために使用される。レーザーと比べてミサイルは鈍重で当たり難いため無人の追尾システムを搭載したものや敵艦に接近し発射する小型の有人ポッドが開発されている。

ミサイルは地上のように空気抵抗を考慮する必要はなく、敵艦を自動追尾するために全方向ロケットノズルを配置した球型である。これに対して防御側は迎撃するための複数の手段を用意する。電磁パルス(EMP)による電子回路の破壊や針状の突起物を出し直接的な接触を避ける。優れた電子機器はお互いの攻撃を効率よく回避するので攻撃はまるで将棋の王様を詰めるようなものである。

我々の知る兵器は全て大気圏の制約から生まれたものである。空気抵抗、水の抵抗、重力、気候、地勢、生物、生態系。宇宙での戦闘にはこれらの制約の多くは不要である。よって宇宙を航行する艦艇はナマコやウニのような形をしている。全方向への移動を可能にするため多数のノズルを多方向に配置し色は背景の暗闇に溶け込むように赤や深緑など深海生物に似た配色となっている。戦闘艦の装甲はレーザーから防御するための反射板やプリズムで覆われている。

戦闘艦は大量の防御用兵装を装備するが電子制御が進んでおり運用に必要な搭乗員は 10 ~ 30名である。そのうちの数名はプログラマであり戦闘時に必要なデータ入力や新しい軌道計算プログラミングを臨機応変に行っている。

SF に出てくるような宇宙戦闘艦が大気圏内でも航行できるのは人類の理想ではあるがエネルギーのロスが大き過ぎる。大気圏内を自由に航行する宇宙船というのは宇宙においても大気圏においても使わない(宇宙では大気圏用の設備、大気圏では宇宙用の設備)が無駄である。どちらの環境においても不要な装備をしたまま戦闘を行う事になる。

大気圏内では愚鈍で宇宙でも愚鈍な船になる公算が高い。宇宙で必要な装備、例えば耐放射線防御層は大気圏内では不要であり、大気圏内で使うもの、例えば翼は宇宙空間では不要であり、どちらの空間にあっても何の役にも立たない重りである。その重りを動かすために高出力のエンジンを必要とし燃費も悪くなる。つまり性能が悪い。


戦闘艦の航行
地球の軌道面である黄道面を航海軌道として地球から火星までの惑星間空間を宇宙水平線と呼ぶ。これを大きく外れて航行する事は通常はない。というのも寄港地や宇宙灯台など多くの人口施設がこの軌道面にありこれを外れると難破する可能性が高いからである。

勇敢な艦長であればこの水平線を大きく迂回し敵艦隊に奇襲を与える事を考える。しかし実際の所はどの方面から奇襲しても多面体編成の艦隊に対しては効果が薄い。また宇宙艦船の移動にはスイングバイが使われる事が多いのでこれを利用しない航行は燃料不足などで漂流する危険性が高くなる。

スイングバイを利用しない自由航行を行う装置としてソーラーセイルがある。ソーラーセイルを張れば航行の自由度が増す。この帆は戦闘時には艦内や側舷に収納される。ソーラーセールは戦闘中には破壊されやすく敵からも発見され易い不利な面も持つ。

戦闘中は艦内のエネルギーを消費して航行する。これはディーゼルエンジンの潜水艦と同じで戦闘時間を制約する。航行可能時間が長いほど戦闘には有利であり、これが勝利に不可欠な制約である。

戦闘艦の動力炉には原子力発電を用いそこで発電した電気を使ってイオンエンジンを燃やす。更に姿勢制御用の急加減速、方向転換用の水素酸素燃料ロケットエンジンを搭載する。質量の増大は慣性の法則から加減速に必要なエネルギーを増加させるので艦船は少しでも小さくなるように設計される。

初期の宇宙戦闘艦のサイズは80m未満である。


艦隊決戦
宇宙空間では艦隊は面として機能する。最も単純な面であれば一面体として配置する。しかし一面体では戦闘方向以外からの攻撃に弱い。そこで編み出されたのがキューブ編成である。三角錐、四角錐、立方体などの多面体を構成するものである。それぞれの面を担当する艦を決めその形を維持したまま戦闘を行うのである。

敵艦の索敵はレーダー波と光学観測で行う。地上のように雲もチリもない空間であるから光学観測での敵の発見は非常に有効である。観測結果はコンピュータで逐次処理される。距離を測るための測距儀は幅 40m 程度のものを使う。これに写った画像をデジタル処理し近傍にある光点を探し出すのである。測距儀は戦闘時には 5m 程度に縮めて使うため観測精度は落ちる。

ひとつの戦闘が終了すると、その区域に発生したデブリの除去作業が行われる。少ないとはいえ戦闘空域には危険なデブリやミサイルの残骸が残っている。これを各軍や戦闘に参加していない国の軍も加わり除去作業を行うのが慣例となっている。宇宙軍はこのための専用宇宙船を配備しているが、民間への委託も多く行われる。


宇宙戦争の未来
もし地球と月との間で戦争が起きた場合、どのような条件があろうとも勝利するのは地球である。これは地球側は宇宙の戦闘に全て負けたとしても地上での戦闘が残っているが月にはこのような地政学的に有利な点がないからである。宇宙での戦闘の延長戦上に月での戦闘もある。

月側が例え宇宙での会戦に勝利しても次には大気圏内での戦闘に推移しなければならない。宇宙戦闘艦は大気圏内の戦闘には参加できないのであるからそれ以上の戦闘の継続は難しい。相手を大気圏という非常に制約の多い中の戦闘に引き摺り込む方が有効的だ。これは持久戦といってもいい。

そのため宇宙にある連邦都市と地球上の国家との戦争は発生できない。だからといって宇宙の資源を地球だけで独占などはできないから宇宙にある各都市は連邦国家として共存できるのである。

もし核爆弾などで星を破壊することを目的とするなら、地上で破壊する前に宇宙で阻止殲滅せねばならない。地上での汚染は宇宙空間での汚染よりも深刻だからだ。だが敵が惑星を汚染する必要性がどこにあるだろうか。それはどういう戦争であろうか?

宇宙艦隊の主目的は、これら敵の核攻撃から母星を守ること、惑星間貿易を護衛する事である。宇宙戦争が始まったら相手惑星への攻撃隊と自星の守備隊に分かれて作戦を行うだろう。この戦いは最終的には物量の大量投入であり、大量の資源、生産、兵站を持つ方が勝利する。しかし惑星間の戦争が太陽系内で起きる条件は満たされない。


2012年10月5日金曜日

花の色は移りにけりないたづらに我が身よにふる長雨せしまに - 小野小町

花の色は移りにけりないたづらに我が身よにふる長雨せしまに
桜の花びらも散ってしまったわね、降り続く長雨をぼんやりと見ているうちに。気付けば私も若くはないわ、楽しい時間はあっという間に過ぎちゃったけど。はぁ思い出すだけでも落ち込みそうよ。
でもね散った桜をただ見て悲しむだけの女なんて思わないでね

こういう歌を詠む人がざめざめただ泣くような訳がないのだ。ため息をついた次の瞬間にはにこっと笑ってこっちを向いているに決まっている。決してめげる事なく明るく前向きな女に違いない。そういう解釈をしてみました。

思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを
あなたに会いたいと思いながら寝ています。あなたに夢で会えたらずっとその時間が続けばいいのに。でもあなたに会うと嬉しすぎて目が覚めてしまうの。苦しいわ。
この恋がどうか冷めてしまいませんように

うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき
うたた寝であなたに会えてからは、夢の中ではあなたに会うとそう決めたの。
でもそんな都合のいい夢は見れないけどね

いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣をかへしてぞ着る
衣を反して寝たり枕の下に名前を書いて寝ればあなたに会えると言われているの。でもそれで真っ暗の夜の中であなたと会えるとは限らないの。
ええ自分でもばかばかしいと思っているわよ

うつつにはさもこそあらめ夢にさへ人目をもると見るがわびしさ
現実なら分かるけど、夢の中でさえ恥ずかしくてあなたは話しかけてくれないの。もう情けないったらありゃしない。
でもわたしも同じくらい臆病かも

こひわびぬしばしも寝ばや夢のうちに見ゆれば逢ひぬ見ねば忘れぬ
恋し過ぎて寝ることさえも辛いわ。でも寝ればあなたに会えるかも知れない。そう思って寝るの。例え会えなくてもその間だけは辛さを忘れられるから。
でも目が覚めると会いたいの

色見えでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける
目には見えないしどう変わってゆくかも分からないもの。あなたを慕う気持ちは色褪せた花のように散って消えてしまったわ。
もうきれいさっぱり

海人のすむ里のしるべにあらなくにうらみむとのみ人の言ふらむ
私は海なんかじゃないですよー。恨みますなんて知らないわよ。そんなに浦を見たい(浦見む)なら海でも見にいってらっしゃいよ。
可笑しな話ね、ケラケラケラ

色も香も懐かしきかな蛙なくゐでのわたりの山吹の花
なにもかも懐かしい井手の里。そう山吹が咲いていた。私の懐かしい思い出。
そして私は今ここにいる

吹きむすぶ風は昔の秋ながらありしにもあらぬ袖の露かな
景色は何も変わっていない。風も昔と同じ秋の風なのに。でもあなたがいないから私には同じゃないのよ。
秋ってほんとセンチになっちゃうわ

ちはやぶる神も見まさば立ちさわぎ天の戸川の樋口あけたまへ
神様もこの日照りの苦しみを見られれば、たちまち雨を降らせてくださるでしょう。この心が神様に通じますように。
誰が頼んでいると思ってるのよ!

はかなしや我が身の果てよ浅みどり野辺にたなびく霞と思へば
人生って儚いって言うわよね。本当にその通りで若い時って長くないわ。夕暮れの霞のような時を私は生きています。
とでも歌っとけば人当たりはいいわよね


2012年10月4日木曜日

ラジオから流れる誰かの声を聞きながら

道に倒れている異人種がいた。

周りは見向きもせず見捨てて歩く人たちばかりである。

彼はときどき息を絞るように呻いた。

痛いのか、苦しいのか分からない。

意識はあるようで時々手を動かしていた。

じっと何かに耐えていたのかも知れない。

そこに見た事もない老人が近付いた。

人々の歩く流れから外れて彼の前に立った。

彼は暫くその異人を見つめていた。

彼は何をされるだろうかと思ったのだろうか。

しかし立ち上がる力もなさそうでじっとそこに倒れていた。

老人はがさごそと自分の荷物をまさぐりそこから水の入った瓶をひとつ取り出した。

それを彼の横に置いた。

声をかけるかどうか困ったような顔をしたが、一人うなずくとそのまま立ち去った。

一度だけ彼の姿を見て、その後は二度とこちらを向こうとはしなかった。

彼は倒れたままその自分とは全く違う異人種の老人の後姿をずうっと眺めていた。

人の流れは止む事はなかった。

彼は静かに瓶に手をやると水を飲み干した。

自分の身に起きた事は

何か神と関係があるのではないかと訝った。

暫くすると彼の姿はそこになかった。

民族も国家も違う私達はお互いに分かり合うことは出来ないかも知れません。

しかしそれでも私たちは助け合うことは出来ます。

そう信じています。

ラジオから誰かの声が流れていた。

これは難民居住区第110963号で私に起きた出来事である。