道に倒れている異人種がいた。
周りは見向きもせず見捨てて歩く人たちばかりである。
彼はときどき息を絞るように呻いた。
痛いのか、苦しいのか分からない。
意識はあるようで時々手を動かしていた。
じっと何かに耐えていたのかも知れない。
そこに見た事もない老人が近付いた。
人々の歩く流れから外れて彼の前に立った。
彼は暫くその異人を見つめていた。
彼は何をされるだろうかと思ったのだろうか。
しかし立ち上がる力もなさそうでじっとそこに倒れていた。
老人はがさごそと自分の荷物をまさぐりそこから水の入った瓶をひとつ取り出した。
それを彼の横に置いた。
声をかけるかどうか困ったような顔をしたが、一人うなずくとそのまま立ち去った。
一度だけ彼の姿を見て、その後は二度とこちらを向こうとはしなかった。
彼は倒れたままその自分とは全く違う異人種の老人の後姿をずうっと眺めていた。
人の流れは止む事はなかった。
彼は静かに瓶に手をやると水を飲み干した。
自分の身に起きた事は
何か神と関係があるのではないかと訝った。
暫くすると彼の姿はそこになかった。
民族も国家も違う私達はお互いに分かり合うことは出来ないかも知れません。
しかしそれでも私たちは助け合うことは出来ます。
そう信じています。
ラジオから誰かの声が流れていた。
これは難民居住区第110963号で私に起きた出来事である。
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