stylesheet

2022年4月23日土曜日

クロウの物語

このお話に出てくるクロウは恋人を探して世界中を旅しているつばめです。

クロウの名前は羽根があまりに真っ黒で仲間のみんなから付けてもらいました。

クロウはある日、砂漠の上を飛んでいました。

オアシスで休憩しているラクダに聞いてみました。

「ねえ僕の恋人を知らないかい。」

ラクダは答えていいました。

「さあわしらは知らんね。」

「この澄んだ空に浮かんでいるまん丸いお月様はわしの友達だ。夜になって人間たちが眠りに落ちた時にわしらはこのお月さまから水を頂く。ほら空に水を汲む杓子が見えるじゃろう。」

「あなたはいっぱいの旅をしているではないですか。どこかで噂でも聞いていませんか。」

「そりゃ旅はしておるが、わしらも人間の街はたくさん見てきたが、それでもやっぱり知らんのお。しかし、お月さまは高い所から一晩中世界を見ておるから何かを知っとるかも知れん。聞いてみるがいい。」

「どうすればお月さまとお話が出来ますか?」

「いまはまだ空の高い所におるじゃろう。幾らお前さんでもあの高さまでは飛んでゆけまい。幾ら叫んでも声は届かんじゃろう。」

「もう少しすれば西の方にお帰りになるがそれでも足は早いからお前さんが幾ら早く飛んでも追いつけまい。」

「じゃから、また明日東の方から出てくる。まだお月さまが地平線から顔を覗かせている間に話かければいいんじゃ。いいか、東の方へ飛んで行くんじゃぞ。」

「ありがとう。」

つばめは今まで乗っていたらくだのこぶから空高くに飛んでいきました。

できないと言われましたが、本当に月まで飛べないか試してみたかったのです。探している恋人と少しでも早く会いたい気持ちがあります。

懸命に飛んでみましたが月の大きさはちっとも変わりません。小さいままです。つばめは疲れたので砂漠まで降りてきて今度はサボテンの上に止まりました。

そこにいたさそりにも聞いてみましたが駄目でした。お腹がすいてきました。でもさそりは食べませんでした。

翌朝は早くから東の方へ方へと飛んでゆきました。途中で二度ほど水を飲み、空を飛んでいるものを食べました。

その日の夕方には砂漠を越えて町が見えてきました。

つばめはその町の中で一番高い教会の塔のてっぺんに止まって東の方を見ていました。

もう夕方です。お月さまが顔をのぞかせる時間になっています。

地平の向こう側がうっすらを明るく見えます。つばめはお月さまに声を掛けます。

ところが月は答えてくれません。幾ら待っても何も言ってくれません。つばめは悲しくなってきました。

つばめは悲しくなって目から涙がこぼれおちてきました。

その時、お月さまの光が教会の十字の上に当たって白く輝きました。

光の方がみるとお月さまがいます。そして東の方がをみると、お月さまの灯りだと思ったものは今もそこで変わらずに輝いていました。

つばめがお月さまだと思っていたものは人間の遠くの方にある町の灯りだったのです。

つばめは今度こそお月さまに向かって聞きました。

「お月さま、僕の恋人がどこに居るか知りませんか。」

お月さまは答えてくれました。

「つばめよ、つばめ。わしは夜を司る。お前の体は見ての通り黒い羽根に覆われておる。わしが見るこの世界はみな暗い。お前の探しているものの中に自分自身の力で輝くものは恐らくおるまい。」

「だから暗い夜の世界で、お前たちのように輝かぬものを見つける事はわしには難しいんじゃ。」

「しかしあなた様は光り輝いてすべてのものを照らしているではありませんか。」

「わしの光は眠っているもの達にいい夢をみさせるための灯りじゃ。夢を案内するためにある光じゃ。」

「夜、すべての空が暗闇に落ちてはお前たちは怖くて眠れなくなるじゃろう。眠れなかったら朝はこない。それではお前たちは困ってしまうじゃろう。わしも困る。休む事ができなくなるからな。」

「ああ、僕はどうすればいいんだろう。恋人に会えないのが悲しい。私は悲しくて切なくて胸の中をかみそりか何かで切られているようです。」

つばめはがっかりしました。

それを見てお月さまはこう言いました。

「つばめよ、今は眠れ。」

つばめは教会の上で寝ました。

夢の中で恋人が出てきて空を飛ぶ夢を見ました。

翌朝、目覚めると、足元に何かが書かれています。そこには太陽に聞いてみなさいとありました。

太陽は昼間の明るい世界を見ているからです。

つばめは朝の太陽に向かって飛んでゆきました。

そして聞きました。

「お日さま、僕の恋人がどこに居るか知りませんか。」

しかしお日さまからの答えはありません。

あまりに空の高い所にあるのできっとクロウの声が聞こえないんだと思いました。

兎に角、追いかけるしかありません。太陽を追い駆けて西に西に向かって飛び始めました。

しかし太陽は早く、追い付けるものではありません。太陽に追いつこうと必死に風にのりましたが無理です。

夕方になるまで飛んでも太陽には全く追い付けませんでした。地平線には海が見えています。

陽が夕の刻で、西の水平線には真っ赤に輝く太陽が見えます。そして海も真っ赤になって波がキラキラとクロウの目をさします。クロウの目からは大きな涙がポタポタと落ちてゆきました。

その瞬間に太陽は西の果てに沈んでしまいました。

クロウはしっかりと太陽が沈んだ辺りを見ていました。

「あのあたりに行って明日待っていれば、きっとお日さまともお話が出来るに違いない。」

次の日は海の上を飛んでゆきました。潮風がクロウの体を押し上げてゆきます。

しかし幾ら海の上を飛んでみたと頃で、どこにも太陽が沈む入口が見つかりません。

疲れたら波に浮かぶ木切れの上にとまり休み、また海の上を飛び、太陽の沈む入口を探しました。

海の水が入ってこないようにきっと扉があるに違いない。

クロウはそう思って海の上を探しています。しかし扉などどこにもないのです。

周囲に島などありません。兎に角、海の上に扉があるはずなのです。

懸命に海上を探して飛んでいると、急に空の上からガシンンガシンと鳴る音が聞こえてきます。

お日さまがクロウの遥か空の上を通りすぎてゆこうとしていました。

いつのまにかクロウの上を通り過ぎて更に更に西の方へと向かってゆこうとしているではありませんか。

「太陽の沈む入口はこの辺りじゃないんだ。もっともっと遠くの西にあるんだ。」

クロウはまた懸命に西に向かって飛んでゆきます。

そして太陽が沈んだ辺りに行っては日没の扉を探します。

探している間にまたクロウの頭の上をお日さまが通過してゆくのです。

何日も何日もこれを繰り返しました。

疲れてきました。風が急に止みます。

昨日見た時にはこの辺りで太陽は沈んだ。この辺りに太陽が沈む入口があるはずだ。

それなのに今日はまたお日さまはあんなに高くいる。

クロウは海の上の小さな島の上に降りました。

クロウは不思議に思います。こんな所に島などなかったのに。

すると急に海水が勢いよく吹き出ました。

クロウが止まったのは小さな島ではなくクジラの背だったのです。

クロウは聞きました。

「太陽の不思議を知っていますか?太陽が沈む扉がどこにあるか分からないんです。」

するとクジラが答えて言いました。

「わたしたちはずっと海の世界で暮らしているけれど、今まで誰も太陽の沈む扉なんて見た事も聞いた事もないわ。」

「太陽が海の中に入ってきたという話もないわ。」

クジラは更に言いました。

「私たちがずうっと南の方に向かって泳いでいるでしょう。太陽はずうっと私たちの左から登って右に落ちてゆくの。ところが寒い場所を超えて、大きな氷を避けながら、昼か夜しか来ない世界を更に泳いで抜けると今度は太陽は右から登って左に落ちるようになるの。私たちはとても不思議だと思うわ。」

太陽の登る方向が変わるのは、なんて不思議な話しだとクロウも思いました。

それは東が東でなくなるという事です。いったいどうなっているのでしょう。

つばめはしばらくクジラの背で揺られていましたが、片方の翼をバッバッとばたつかせました。もう片方の羽根もばたつかせました。

そして両方の翼をいっぺんに羽ばたかせます。翼の上にあった海水が流れ落ちてゆき、クロウは空気中にぱっと舞い上がってゆきます。

「どうもありがとう。もう少し探してみるよ。」

クロウはくじらたちと別れてまた西を目指しました。

そうして飛んでいると高い教会の塔が見えてきました。

そこで少し休もうと塔の上に降りました。その時、クロウは気付いたのです。

それはお月さまと会話したあの教会の塔だったのです。いつの間にか同じ場所に戻ってきているのです。

クロウはとても不思議な気がしました。

そして太陽の沈む扉は決して見つからないだろうと思いました。

だから今度は高く昇って太陽と話をするしかないと考えました。

周囲を見渡すと、この辺りで一番高いのは北にある雪山です。その山から飛び立てばきっと太陽の近くまでゆけるはずだと考えました。

そうと決まれば出発です。

いつの間にかクロウは恋人の事よりも太陽の不思議の方にとっても興味を持っていました。

「僕は絶対にお日さまと話をするんだ。そして太陽の沈む場所を教えてもらうんだ。」

北へ。

北へ向かって飛び出しました。

どれくらい飛んだのでしょう。見上げればいっぱいの星空です。大地は雪で真っ白になって星の輝きを受けています。

寒くて体が針で刺されているようです。翼を動さずに滑空していると羽根の前の方に氷がつくようです。時々羽ばたいては体についた氷を落します。

それでもなかなか雪山の頂上に辿り着く事は難しいのです。

高くなるとなるほど、上昇しなくなるのです。息も苦しくなります。空気が足りない気がします。

すると遥か上空を編隊を組んで飛ぶ鶴を見つけました。

クロウはクレーンに教えてもらおうと話しかけました。

「どうしたらそんなに高く飛べるのか、教えてもらえませんか。」

するとクロウに気付いた一羽の鶴が上空を旋回し始めました。

「なんと珍しい。お前のような鳥属がこんな上空におるとはの。」

そしてクロウを見てこう教えてくれました。

「わしらがこの高さで飛ぶにはそうとう繰り返し何度も何度も上昇気流に乗るとそ。山の尾根沿いに風が巻いておる場所があるからの、そこを見つけては風に体をあずけるとそ。」

「羽ばたくだけでこの高さは無理じゃ。わしらにもできん事そ。」

「ありがとう、やってみる。」

クロウはお礼をしました。

「まて、そう簡単ではないそ。そんな考えては失敗するそ。」
クレーンは更にこう続けました。

「高くなるほど空気は薄くなるそ。普通の鳥では呼吸ができなくなるそ。わしらには特別な肺があるが、お前さんにはなかろう。しかも高くなるほど寒さも厳しくなるそ。この寒さにも耐えられる体でないといけんそ。」

「見た所、お前さんは高い所を飛ぶようにはできておらんそ。さて、どうしたものか。」

「良い事を教えてくれてありがとう。なんとか工夫してみるよ。」

さて、本当にどうしたものか、とクロウは考えました。今の高さでも凍えるように寒いのです。普通のやり方では命さえ危なそうです。

「そうだ。」

クロウには何かアイデアがあるようです。

地上におりてみのむしを探しました。

そして見つけたみのむしにお願いします。

「きみのその暖かな毛皮を僕に分けてくれないか。これから僕はとっても寒い所へいくんだ。」

「え、やだよ。そんな事をしたら今度は僕が寒い夜を過ごさないといけないじゃないか。」

「まだ冬には時間がある。今からでも作り替える事ができるだろう?」

「君はどうしてもというなら奪ってゆくのかい?もしこれを君にあげたら僕は丸裸だよ。きっと僕はいじめられるよ。」

クロウはびっくりして言いました。

「奪うなんて絶対にしないよ。僕は君にお願いしてるだけなんだ。」

「君が毛皮を作ってくれる間は僕が君を守ってあげるよ。」

「それだけだと僕は働き損だよ。それじゃ不公平じゃないかい?」

「確かにそうだね。分かった。じゃもし太陽の秘密が解けたら君にも教えるよ。それでどうだい?」

「ディール!それは楽しみだ。それを待ちながら寒い季節を過ごすのも悪くなさそうだ。」

こうしてクロウはみのむしの毛皮を手に入れました。

羽織ってみると温かくそして軽い。これなら寒い空でも飛べそうです。

しかもこの毛皮の中には空気がいっぱい貯められています。これで呼吸だって苦しくないでしょう。

準備は万端です。クロウは山の尾根まで行きました。みのむしの毛皮は完璧なようです。ちっとも寒くありません。

山の頂からふわっと飛び立つと教えてもらった通り、沢山の風が巻いています。出鱈目のように風が吹いています。

自分の翼の感覚を鋭敏に感じると、確かに風にもいろいろな方向に吹くものがある事が分かります。

こうして冬の寒い寒い日に、一羽の鳥が誰もいない方へと飛んでいったのです。それを見た人はひとりもいないでしょう。もちろん、その鳴き声を聞いた人もいません。クロウはこうして恋人を探す最大の挑戦に挑みます。

さあ、風たちよ、僕を空高く運んでおくれ。下に吹く風、横に吹く風、強い風、弱い風、その入り交じった中から上へ向かう強い風に触れました。

「さあ、私に捕まりなさい、あなたを空の上まで連れて行ってあげるわ。」

その手を取ったとたん、山々があっという間に小さくなってゆきます。青い空が次第に蒼くなってゆきます。次第に暗くなってゆきます。これは夜なのかい?風に聞きました。

「うふふ、私たちの世界では空は青だけではないのよ。」

空がまっくらになって星が輝いています。まるで夜のようです。

たくさんの風が折り重なってクロウを高く高く運んでゆきます。

寒くなったり温かくなったりしながらどんどん高くなってゆくのです。

如何にみのむしの毛皮とはいえ寒くなってきました。それでも風の手を離さず高く高くへと飛んでゆきます。

「ねぇ、そろそろ太陽さんとも出会える高さかなぁ。」

しかしクロウの声は風たちには聞こえないようです。だんだんと寒さが厳しくなってゆきます。怖くなってクロウは風の手を離そうとしました。

よく見ると、さっきの風たちとはぜんぜん違う風たちの姿です。

クロウを見たその風たちはにこりと笑ってクロウの手を離しました。

するとあっという間に衝撃の中に叩きつけられました。クロウは果敢に飛ぼうとしますが、幾重もの風の中を舞ってしまい上手く飛べません。

もう目も見えません。ただただ風の中を飛んでいます。赤い口から白い息と共に妙に濁ったギァーッという一声が辺り一面に、遥か下にある野や山や車の走る人の街にまで響き渡るかのようです。そして方向転換をして星の方へ向かって飛び、もう一度ギァーッ鳴きました。

そこは風が凪のように止まっている空間でした。

あたりが星に包まれています。それっきりです。クロウは下の方へ下の方へと落ちてゆきました。体がくるりくるりと周りながら一枚一枚の羽根が真っ赤になって燃えそうです。

その時です。その時です。落ちてゆく先に、何か明るく輝くものが見えます。心なしか温かい気がしました。それは探していた太陽でした。

もくもくと煙をはきながら天空の軌道を走っている特急のようにも見えます。何列にも繋がった球体のあちこちから炎が激しく吹き出しています。その炎が辺り一面を明かるく照らしています。

そうです、クロウは余りに高く高く飛び過ぎて太陽よりも高くを飛んでいたのです。

太陽の近くに寄ってゆくととても熱く感じてきました。

元気がでたクロウはもっと近づこうと飛んでゆきます。すると太陽の上の方に運転台のようなものが見えました。

クロウは話しかけてみます。

「教えてください。太陽の沈む扉はどこにあるのですか?」

「あら、珍しい。こんな所まで来るなんて。」

「はい。教えてください。」

「ふふふ、あなたは太陽が海の中に沈むと思っているのね。」

「だって毎日東から登っては西の方に沈んでゆきます。でも太陽を一生懸命追いかけても沈む扉が見つからないのです。」

「そうね、あなたたちから見れば私たちはソラを走っているかのように見えるかも知れないわね。だから夜になる時には必ず地面のどこかに沈むと思うのね。」

「そうです。そうです。だってお日さまは毎日、西の方に沈むじゃないですか。」

「そうね、あなたたちから見れば太陽は西に沈む、誰かにとっての沈む夕日は誰かにとっての登る朝日でもある。」

「でも私たちは本当に動いているのかしら。あなたからみたら動いているように見えるわたしたちは実は止まっているのかも知れない。」

「止まっているように見えるのに、実はもっと大きな星の円盤の上を全速力で走っているのかも知れない。」

「でもね、わたしたちの進む先はいつも光が教える未来でもあるのよ。」

クロウには何を聞いてもさっぱりでした。どうやら確からしいのは太陽の沈む扉はないと言う事です。だからと言って不思議が終わった訳ではありません。

クロウは気を取り直して聞いてみました。

「そうだ、あなたは僕の恋人を知りませんか?」

「あなたの恋人?それは誰?私にはよく分からないわ。でもここには沢山の働いている仲間がいるわ。みんなに聞いてみたらどうかしら。」

クロウは艦橋の先端と止まってみました。前の方を見ると色んな星が見えます。青い星がたくさん飛んできます。そして後を振り返ると赤い星がたくさん見えます。

不思議ですがちっとも飽きません。

運転台にある扉の中をのぞくと沢山の動物がいました。オリーブの葉を加えた鳩が飛んできて話しかけます。

「君も新しい仲間かい?」

「そうなのかな。まだよく分かんない。君は僕の恋人を知らないかい。」

「さあ、どうだろう。ここには沢山がいて働いているからね。」

奥を覗き込むときりん、ぞう、らいおん、しまうま、くじゃく、だちょう、さる、とかげ、かえる、さんしょううお、さけ、いか、なまこ、はち、いろんな動物が見えます。

「ねぇ、君はここでどんな仕事をしているの?」

「この巨大なお日さまを動かすには様々な沢山の仕事があるよ。」

「僕と同じ姿をした鳥も働いているの?」

「うーん、君みたいな鳥は見た事がないよ。」

「例えばどんな鳥がいるの?」

「そうだなぁ、まっくろな鳥が居るよ、すらっとしてとっても早そうに飛ぶ。」

「まっくろ?僕みたいに?」

「何言ってるんだい、君はけむくらじゃの鳥じゃないか?」

クロウはまだみのむしの毛皮を着ていたのです。

その毛皮を脱ぎました。

「ほら、こんな鳥じゃなかったかい。」

「こりゃ驚いた、そうだよ、君みたいな鳥だったよ。」

「確か誰かを探しているって言ってたよ。」

「誰かを探しているって?」

「そう、確か、こんな事を言ってたよ。」

『もしクロウが私を探しているならもう北の方しか考えられない。直ぐにでも北へ向かって雪の中で凍えているクロウをみつけないと。』

「ああ、君がそのクロウなんだね。」

クロウはそれを聞いて直ぐに飛び立とうとしました。

「ちょっと待って、そんなに慌てないで。」

近くにいるみんながクロウを止めます。

いきなり止められてクロウは不機嫌になりました。

「止めないで。一刻も早く見つけ出さないと。今頃、凍えているかもしれないじゃないか!」

「だから、ここで働きながら世界中を探す方が、きっと早く見つかるよってみんなで説得したんだよ。」

「えっ。」

「クロウ!」

クロウを呼ぶ声が聞こえてきました。振り向くと探していた姿がそこにありました。

一羽のつばめがすーと飛んできてクロウの横に止まりました。

やっと出会えたのです。


(2000年頃 2-1)