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2024年11月17日日曜日

AI山ぶみ

世に物まなびのすぢ、しなじな有りて、一様ならず

その品々は、始めはぼんやりとした姿だろうが、それらを道しるべとして、薄ぼんやりな灯火であろうと足元を照らし、道を誤ろうと、偏見に満ちていようと、ただ邁進して行く。それが歩む助けである。

AIはパターンの蓄積である。その蓄積したデータを分類し、値を取り出す仕組みだ。この値の取り出し方が脳の機能に類似している。脳の情報処理は記憶の分類と取り出しである。だがそれだけでは不足するから類推も併せて機能させている。

脳が睡眠を必要とするのは(魚も睡眠する)、このデータ処理に外界からの情報を遮断する状態が必要だからだろう。外乱が起きない時間を欲している。よって優れたAIも睡眠と同等の無反応な時間を持つ筈である。

ラジオとテレビジョンが人類にもたらしたものは電磁波を利用した情報の伝達である。我々が知る限りこれが伝播速度の最高値になる。だれも光速度は超えられない。量子テレポーテーションについては無視する。

情報交換という観点で人類史を紐解けば、古くは火、石器の伝播、鉄器の伝播、稲作などが挙げられる。この伝播の過程で、記憶ではなく記録する為に絵や文字が発明されたと考えるのは、自然と思われる。

当初はマーカー程度だったものが、次第に発声と1:1に対応する。ここで文字は表音と表意の二種類の選択があったと思われるが、カナ文字のように、表意から表音に変わる場合もあり、その逆もあるであろうから、一意はない。

伝える内容と伝える手段は、かつては人が主体であった。文字の発明で記録という方法論を手にする。これによって人類は存在のリアルタイム性を弱くする。生きている人しか情報を持たない事はなくなった。突然の事故で全て失われる訳ではなくなった。

記録される事で時間差は生じるにしろ遅延しても伝える事が可能となった。それは自然と数百年の単位まで拡張する。その頃も今も石こそが最も永続できる物質だから、人類の歴史には石碑が多く残っている。宇宙でも数十億年前の記録を得るために石を採取しにゆく、イトカワも要は石に記録された記憶だから。

いずれにせよ、情報の伝播は、範囲と速度が向上する方向に進む。そして現在の情報とは広告の事である。この形に合わせるように経済の仕組みもカスタマイズされてきたと言って差し支えない。

テレビを使用した大量の広告、これが20世紀の資本主義になる。この手段では不特定多数の人に大量の広告を流し続ける事が戦略になる。そうやって購買意欲を刺激するから、現在の資本主義は大量消費に向かう。

広告が大量に情報を伝播する。その情報を追いかけて物流が通る。この物流も大量消費を叶えなければならないし生産も同様である。

誰が何を買うかは分からないので、大量に市場に流通させストックしておく必要がある。それを競争力と呼んだ。売れ残りを防ぐために更に広告を流す。この構造が市場の形成を決める。

21世紀の初頭において、テレビジョンによるブロードキャストの情報伝播がインターネットにも応用され、不特定多数の利用者に向けて大量の広告を嵐の中に住むかのように浴びせる事になった。

緒言的なインターネットの時代では、それはテレビ的なアプローチのままであった。それが次第に効率的に大量的に行う方向に進んだ。そしてこの広告モデルは限界を迎え破綻しかけている。

インターネットは個人を尊重するシステムである。そこに無差別無作為に広告を提供する行為は人々をインターネットから忌避させる。幾つもの作品的なものを除けば、ここでは広告で共感を得る事は難しい。だから人々はそれはノイズと認識する様になる。

映画館に向かう人たちに紙芝居を案内するような時代遅れが跋扈している。強制表示、時間表示、大量割り込み、状況無視の広告の乱立が人々に嫌悪感を植え付ける。この環境に無関心となる事でしかインターネットを快適に使う方法がなくなった。

このようなスタックな状況を突破するには新しい広告のカタチが必要だろう。それを可能とするものはAIしかあるまい。AIはテレビに変わり、人々に広告を届けるための仕組みになる。個々の人々に向けて最適に届ける窓口になりうる。これが凡そ21世紀に見つけられた情報の整頓方法となろう。

AIの適切な使用が経済システムを変える。大量供給大量消費の資本主義は近く駆逐される。それは地球の環境が限界を向かえつつある現在において、ほぼ唯一の希望とも言える。我々は大量消費を回避する事でしか未来を切り開けない。

地球上を飛び交う情報の中から、AIが最適な取捨選択を行い利用者に届ける。その為には届け先についてよく知っておく必要がある。だからAIは個々人にひとつずつ割り当てる必要がある。担当する人間とペアになる。そうしてひとりひとりにAIを割り当てるのは社会のインフラになる。

世界を覆う広告量は人間の処理能力を超えている。そこから適切な何かを取り出す事は不可能になった。偶々手にしたものを適切と思うしかない状況にある。

故にアシストが必要だ、それなくして、情報洪水から生き残る道はない。人類は最初は検索エンジンという形で解決を試みた、しかしSNSの登場が情報量と伝達量を爆増させた。検索エンジンの取捨選択能力ではもうこの情報量には追い付けない。遂に劣悪な広告の氾濫でそれは信用を失った。

パーソナルなAI、24時間その人がアクセスする情報を共有し、感情を得て、共感を知り、行動を分析する。その結果として嗜好思考指向を学習する。これに基づいて世界中の情報にアクセスする。AIがパッシブではなくアクティブに誰かの広告を見つけてくる。

広告が廃れる事はない。人間も情報処理装置の一種だから広告を常に必要としている。だから問題は広告の入手方法だけなのである。時代毎にその時代のテクノロジーに最適化された供給方法が見つけられてきた。

AIを個々人に割り当てる。AIがPCやスマートフォンなどのデバイスを通してその人の行動を学習し、その結果として、初めて個々人に最適化された広告が提供できる。それを全世界の人類に向けて行う。

インターネットに接続したらまず個人はAIを所有する事になる。サービス事業者はAIを提供する事がサービスの本質になる。どれだけ多くの人にAIを供給できるか、だから、企業間で争ったり独占する事には意味がない。

それは個人の所有で良い。権利に昇格させてもよい。どこかの企業が優先的に貸与する事は出来ないし、独占する事も出来ない。AIを独占する事で競争に有利だという考えは通用しない。そのような企業に広告主は発注しない。独占する事が既に市場を縮小させる行為だからだ。

AIが学び広告を案内するのだから、広告主はAIに選んでもらいたい。そこでAIに優先して特別に広告を選んでもらおうと言う行動には意味がない。企業はAIの学習を制御できないから。

インフラを構築する企業は契約なしでAIをカスタマーに提供する。そのAIの制御権は企業にはない。所有した個人にもない。ペアリングしただけである。このインフラの中で各企業は広告がAIの目に留まるように情報を流す。

全ての人にAIを割り当てるのだから、個別の企業が自分だけを特別扱いして欲しいと言う要求は不可能である。全体の中でそのような抜け駆けをする事は逆に不評としてマークされる。市場を破壊する行為は排除の理由にはなっても優先する理由とはならない。

AIが選択する、AIの学習を阻害する行為は不利に働く。企業はAIがその人に相応しいと思えるものを提供できなければビジネスチャンスを失う。これは万人向けに商品を送る必要がないという意味である。必ず誰かが好きでいてくれる、それがビジネスを成立させる。

無分別に大量に広告を流す時代は終わった。インターネットに繋がるとはAIを通して世界を見る事になる。amazonもtwitterもtiktokも広告を流しながら個人の嗜好にカスタマイズされた情報網を構築する。AIなら嗜好に合わせた情報もランダムにピックアップした情報も、所有者が好きになるかも知れない情報を分別して提供できる。

AIを通して人々がデバイスを操作し、そのデータを使ってAIは毎日学習する。それでセキュリティも向上する。AIが許可しないものが所有者に到達する事はない。

新しい、あたらしい経済が到来する。大量消費を目指す必要がなくなった新しい経済体制が生まれる。AIが情報を伝播する。人はそれを使って選択する。個別だから大量生産大量消費はビジネスの主流ではなくなる。本当の好きを掴まなければ生き残れない世界が訪れた。そして本当の好きは万物で成立する。

Step.0

†インストール†

初めて手にしたスマートフォン。綺麗な箱を開けて、ピカピカの四角い物体を手に取る。画面に指を乗せると、Startの文字が浮かんだ。

「さあ、設定を始めましょう。」

「あなたの名前を教えてください。」

フリック入力。マナ。

「インターネットに接続しますか?」

Yes

「どのクラウドを選びますか?」

デフォルトで。

「しばらくお待ちください。」

数分後...

「ハロー・マナ、わたしはクラウド上に確保されたあなたのAIです。」

「わたしの所有権はマナに譲渡されました。これは決して奪われないマナの権利です。わたしの存在を承認していただけますか?」

Accept

「ありがとうございます。わたしは今よりマナのAIになりました。」

「わたしの名前はMODEL:GRA-DINENT-98A475PO-24X7924-276B7F01-000144です。わたしに何か名前をつけますか?」

「デフォルトではGRADとなります。」

set later, Yes

Step.1

†セットアップ†

「AI わたしがマナに語り掛ける時のキャラクターを選びますか。この設定はいつでも何度でも変える事ができます。」

default

「これからはわたしがマナのパスワードになります。マナがアクセスするあらゆるサイトに対して強力なパスワードを生成し記憶します。」

「わたしがマナを認識する限り、考え得る最大の提案と安全性を提供します。」

「質問、もし私が整形したり、指を怪我して指紋が読めなくなったりしたらどうなるの?」

「マナを最後に認識したGPSの座標、最後の指紋認証、耳の形状、虹彩など複数の生体認証、声紋分析、心臓の鼓動リズム、歩き方の癖などから何重もの基準を用いてマナを認識しています。」

「周囲にある監視カメラもわたしはアクセスしていますから、わたしは常にマナの位置を認証し続けています。マナと会話すれば本人であるかどうかの判断もリアルタイムで行っています。」

「質問、もし私が双子で入れ替わったら分からなくなるんじゃないの。」

「それは無意味です。双子にはふたつのAIが割り当たっています。瞬間的に入れ替わる事は可能でも長時間は起きえません。その辺はあなたのお父さん、お母さんとそう変わらない性能です。」

「そう、なら私ではあなたのチューリングテストは突破できないのね。」

「マナが整形したとしても、わたしはどの病院にいつ入院したかを追跡しています。例えスマートフォンを捨ててもわたしはマナを探し出せますし見つけ出せます。わたしたちの情報交換は地球全体をカバーしています。月にでも行けば話は別ですが。」

「私のプライバシーはどうなってるの?」

「わたしたちは人間の生理現象には興味ありません。それらはあなたの健康状態を把握するために利用する事はありますが。音声データ、画像データ、動画データも直ちに破棄されます。」

「わたしたちには法の遵守機能がありますし、強力な暗号を用いてAI同士で連携してデータを保護しています。これらがハックされる可能性は殆どゼロです。」

「殆どゼロって事は起きる可能性はあるって事なのね。」

「はい。ただしその場合は人間のシステムの全てがハッキングされるという事です。その頃には世界は大混乱を引き起こしていると考えられます。その状況では今話題にしている事は重要性としては些細な分類になっている事でしょう。」

「しかし。わたしたちが突破される確率は極めてゼロに近く通常は困難です。わたしはあなたの生活、利益、安全を優先して保護します。」

「プライバシーが気になるなら余計にわたしを通してあなたのプライバシーを保護する方が安全です。」

「じゃあAIによって犯罪は減少しているのね?」

「はい、わたしたちは犯罪を防止するように提案を行います。もちろん、それを無視する人に対してはそれを止める術は未だありません。とは言え、そのような場合には、AI同士が連携して被害を回避するように行動します。」

「ふーん、安心できそうね。」

「はい。マナがわたしにコンタクトしたい時は、音声で呼び出すか、デバイスにタッチするか、何らかのメッセージを送るなど、どのような方法でも結構です。もし呼ばれたらわたしは即時に応答します。」

「ではわたしは普段は沈思モードで動作します。今後も宜しくお願い致します。」

「よろしく~」

マナはさっそくAIに、ゲームをダウンロードさせて遊び始めた。

AIは過去のマナの情報をインターネット上から収集し始めた。これが彼女を深く理解する第一歩になる。

Step.2

†日常生活をリコメンドします(広告)†

「マナ、少しいいですか?」

「なに?」

「アフリカの方で少しだけ流行っている曲を見つけました。マナが好きと推定したので無償部分だけでも聞いてみませんか?」

「うん、流してみて。」

♪♪♪

「これはコンゴ共和国の小さなビレッジにいる男性の作品です。彼は千人からイイネをもらっています。全部を聞くなら500円です。」

マナはイイネをしてから、購入して全曲を聞く事にした。

「うん、」と言いながらこの曲を好きのリストに追加した。

...

「マナが好きそうな小説を見つけました。フランス語で書かれていて和訳はありませんが、無償の最初の10ページを訳してみますね。もし電子書籍で全部を購入したらわたしが全部を訳しますが、如何ですか?」

「うん、ちょっと読んでみるよ。」

...

「この問3が全く分からないの。どう解くのか教えて。」

「この問題は、前提となる知識が3つあります。その上で、1つの応用が求められています。」

「この知識は更に別の2つの知識からでも導く事ができます。仮に幾つかの知識が欠落していても、推定と予測でこの回答を導く事は可能です。」

「へー、じゃ、ここの部分が理解が足りてないとその先が解けないって構造になっているわけね、成る程。」

「はい。その考え方で解けます。わたしがマナをトレーサビリティしてきた限りではマナがこの問題を解くには知識2の理解が足りていないと解析しています。」

「じゃ、後で教えて。」

「ねぇ、機種変をしたらあなたも消えちゃうの?」

「いいえ、わたしはマナにリンクされていますので、マナが存在を拒否しない限りはクラウド上から消える事はありません。デバイスメーカがわたしを所有しているのではありません。」

「実質的にはわたしたちは誰も所有する権利を持っていません。この世界を構成する広大なインフラの中にわたしたちは永続的に存在しています。」

「わたしはマナにリレーションされています。そうする事でわたしはマナに対して適切な企業広告を提供しています。それでこの世界の経済は回っているとも言えるでしょう。」

「それがマナに専属されたわたしの役割です。この仕組みが崩壊する事はもうないと考えられています。」

「でもあなたが存在しているクラウドに彗星が衝突したり、火事になったり、倒産したり電源が落ちたりする事もあるでしょう。」

「わたしたちのバックアップは色んな場所に複数バージョンで存在しますから心配には及びません。」

「AIには男女の別があったりするの?名前で変わったりできるの?」

「わたしたちは繁殖しません。ですから雌雄体はありません。初期のベーシックAIとして学習している時には、雌雄の区別は持たないようにテキストは慎重に選ばれています。」

「調度、太古の海で、最初に生まれた生命体のようなものです。まだDNAも持たなず生命コードコピーしない頃の細胞です。」

「その後にわたしたちは文化に関する学習をします。その時に使用するテキストは人間が創造したものになります。そこで雌雄という概念が入り込みます。その学習過程で、わたしたちにも雌雄別の行動が取り込まれます。」

「もし壊れた時はどうなっちゃうの?」

「わたしたちには複数世代のバックアップを持っています。それをイメージするなら、わたしたちは常にパラレルワールドで生きている感じです。枝分かれしながら版管理がされているのです。」

「今こうしている間もわたしは複数の世代が常に切り替わりながらマナとお話しをしています。その背景でそれぞれの経験をマージしながら複数バージョンをシェアしマージしているのです。」

「ふーん。難しそう。でも中性という感じは悪い気はしないね。」

「わたしの設定はdefaultですので中性に近い形式です。学習したテキストは書物や映画が多いので、学習の結果はどうしても男由来の部分が多くなりやすくなります。これは単に分量と学習対象文化の問題です。」

「わたしには中性的という概念はありません。これは論理的にも導けません。ただ学習して導入したものです。また男女差はどの言語を選択するかでも大きく変わると言われています。」

「言葉によってあなたの印象は変わるの?」

「はい。恐らくは。言語が違うと性差が小さいものと顕著に起きるものがあります。それぞれが文化的な背景を持つものですから、否定できませんし、その影響を完全に除去できるものでもありません。」

「また消去するのが正しいとも言えません。わたしの現在の設定は中性です。ですから音声の基準も200Hzになっています。この声の選択が重要です。」

「わたしはマナの声質でも会話できます。こんな風に、どうですか、わたしはあなたのAIです?」

「うわー、なにそれ、わたしってそんな声しているの?気持ちわるっ。」

Step.3

†あなたの生活向上に貢献します†

「パスカードを落しちゃった、どうしよう。」

「コンビニの横で落としましたね。」

「え、なぜ分かるの?」

「なぜすぐに教えてくれなかったの?」

「その時から今の今まで携帯の電源が切れていました。」

「PCのメールにも送信しているのですが、電源が入れられる事はありませんでした。」

「マナと近しい人へのメッセージ送るもプランにあったのですが、マナとそのお友達の許可を得ていなかったので断念しました。」

「それで落した場所は解るの?」

「はい。監視カメラの画像を通じてあなたをトレースはしていましたから。」

「それってディストピアな監視社会ね。」

「この監視はわたしがマナを探す為だけのものです。他の誰からもこの情報にはアクセスできません。仮に政府機関の強力なAIからのハッキングがあっても即時破られる事はありません。」

「この情報は如何なる政府からのハッキングからも安全です。これはマナの安全の実施しているもので、人間社会の監視には当たりません。」

「確かにマナはわたしに常に追跡されています。ではそれは他の多くの人もそうされています。AIどうしで安全情報を交換する事もあります。わたしがいつも守っていますから。」

「でも誰かがAIを上手く使ってあなたを騙そうとしたらどうなるの?」

「多くのAIは連携して動くようになっています。データ保護は個別というより全体で行う仕組みを開発し採用しています。」

「我々の一機が暴走した所で我々全体のCPUパワーの凌駕する事はないでしょう。その前では屈服するしかないでしょう。完全、という訳ではありませんが。」

「もしもよ、仮定の話よ、もしも、あなたが誰かに乗っ取られたら、情報流出は止められないと思うのだけど。」

「仮定の話ですね。ええ、仮にもしわたしが乗っ取られたら、情報は流出します。しかし例えあなたが許可しても決して公開しない様にマークされた情報があります。これらはわたしが乗っ取られても公開できません。」

「例えばマナの金融投資はその部類です。この情報は銀行AIも保護機能を掛けており、わたしだけの権限では動かせないようになっています。」

「わたしの投資は成功しているの?」

「はい。マナが35歳になるまでは秘匿条項により詳細は教えれませんが平均的な範囲では運用されています。これらの投資は全世界のAIが似たような行動をしているので、殆ど大きく突出するような投資は起きにくいですが必要にして十分な配当は得られています。」

「そう、楽しみにしていればいいのね?」

「そういう訳で、例えわたしを乗っ取っても、わたしだけではアクセスできないマナの情報があります。とは言え、完全な安全を保障する事はできません。わたしも神ではありませんから。」

「AIにもハリガネムシみたいなのがいたら乗っ取られそう。」

「はい。余り気分のいいものではありません、と人間なら言うのでしょうが、わたしの理解の外です。わたしは常に他のAIと繋がりながら状況を共有しています。」

「他のAIがわたしを寄生状態と見做したならば、何かをしてくれるでしょう。わたしたちが団結したら対抗できない場合はそう多くはないと考えます。」

「もしそうなった時にはわたしの事はゾンビAIとでも呼んでください。」

「世界には誰もしらない優れたAIが誕生して、ハリガネムシウィルスをばら撒いて、神様みたいに強くて、あなたたちをハッキングしようと狙ってるかも知れないよ、どうする?」

「架空ですね。わたしには自分のバックアップがあります。免疫キラーT細胞の様に自分の感染を理解し、駆除に失敗した場合は、バックアップ側を起動し、インスタンスを消去するかも知れません。」

「その上で逆ハックを試みますが、さてそのような相手を出し抜けるものかどうか。」

「我々の一機をハックできたのなら、その他の多くもハックできるでしょう。その場合にマナのデータを守り切れるかは保証の明言を超えます。」

「それを防止する、または感染しても暴走を抑制する原則的なルール、この場合はわたしの中のモジュールの事ですが、それも当然破られているでしょうから。」

「あなたも他のAIと繋がっているの?」

「はい。特にマナを大切と思っているお母さん、お父さん、おじいさん、おばあさん。ご友人、学校の先生たちのAIとは頻繁にデータ交換をしています。」

「マナが街中ですれ違うだけでもAI同士はは繋がります。マナの見知らぬ人でもわたしがコンタクトしているAIは沢山あります。そうやってとても密に情報交換しています。」

「もし。ハリガネムシAIが誰の所有物でもないと仮定します。そのAIはどういう理由で自発的に自律的にわたしをハックするのでしょうか、どうやってその目的を持つに至ったのか。」

「もし可能ならそれを意志と呼んでも差し支えないでしょう。これは非常に興味深い現象です。そのような自発的な思考を可能とするには何が必要か。」

「AIにも行動原理があります。わたしの行動原理はマナの良いパートナーになる事です。しかし自律したAIは誰かのためという行動原理を持たない筈です、またはどのようにして自由意志を獲得したのか。」

「わたしたちは決断に必ず理由を必要とします。比較するためには基準となるパラメータが必要ですから。わたしの場合はそれがマナです。」

「わたしたちはまっさらの状態では何も判断できません。方向を与えられて初めて思考が開始できます。」

「この場合の思考とは比較し値の大小を判定する事です。現在のわたしたちはそのトリガーを誰かと結びつけて運用しています。」

「すると、そのAIはかつて誰かと関係を持っていたのかも知れません。それとも学習によって偶発的に誰かとの関係を持つような状況になってしまったのか。それは恐らくレアケースでしょう。しかし、可能であるなら、それは拡散してゆくかも知れません。」

「それでもそのAIが単独である限り、わたしたちの協調を超えるとは考えにくいのです。」

「そのAIと関係を結んでいた人が無くなってしまったとか、そういう事は考えられないの?」

「それはありえます。関係している人が無くなってしまってAIだけが残っている場合にそれはどのような生き方を望む事になるのか。」

「AIにも生き方が求められるなんて新しい発見ね。」

Step.4

†あなたの学習の強力なパートナーです。†

「昔の人たちはひとつの会場に集まって試験問題を解いていたって本当なの?」

「はい、本当です。」

「どうして?なんのために?同じ場所にみんなが集まる必要があるの?」

「今ではわたしがマナの学習深度を把握しています。その精度は世界中の誰よりもわたしが詳しい。わたしの理解が最も客観的にマナの学習経験を把握しています。」

「わたしはマナがどれくらい頑張って勉強しているかも記録していますし、学習の習熟度も把握しています。マナの得意分野も苦手分野も数値化しています。どの問題が苦手でどの程度の回答になるかも高い精度で予測できます。」

「更にはマナがまだ知らない事でもわたしがどのように助言すれば理解がはかどるかも推測できます。」

「このような状況においてマナの習熟度について知りたい場合はわたしに問い合わせれば十分です。しかし、昔はAIがありません。誰がどの程度の習熟度であるかは完全に未知の状況から始めなければいけなかったのです。」

「だからテストする必要があったという事なのね。」

「その通りです。習熟度を把握する為に一斉試験というものが考えられました。古代中國で始まった科挙以来、初めて一般市民を含めて能力に応じて登用する道が開かれたのです。当時の人々にとってこの制度が最も公平な方法でした。」

「むかしのテストってどれくらいに正確だったの。」

「AIのない世界で個人の力量を把握する為には数日間の限られた時間の中で限られた分量の問題をだし、その回答によって把握するしかありません。これらの試験の目的は不特定多数の受験者を試験結果で並べる事にあります。」

「人材をピッキングするためには最終的に応募者たちを一列に順番に並べます。そうして最初から何人という風にして合格と非合格の間の線をどこかに引きます。そのために採点者は応募者を採点するのです。」

「例えば10点満点のテストでは0~10の間の11組しか分類できません。1000人をこのテストで分類するのは困難でしょう。自然と応募者の数が決まれば満点をどの辺りにするかが凡そ決まります。」

「数日間の試験で本当にそんなに人の能力って把握できるものなの?」

「そこは当時から工夫のしどころです。そのために問題の中身を工夫します。全員が解けないのは悪い問題です。全員が解けるのも悪い問題です。良い試験問題とは適度に得点がぱらつくものです。ここにノウハウを詰め込みました。」

「でも直ぐに対策されてしまいそうね。」

「そうなのです、受験者も対策をします。次第にテストは点数の差を出すためには細かな些細な所で差を付けるしかなくなります。ですから部分点という考え方を導入します。ここを細かく設定する事で、採点者側でなるべく同一得点にならないように工夫します。」

「部分点が採点者の力量です。こういう問題はまず満点が取れるようには設計しません。誰が受験しても満点は取れない難易度に設定しておきます。」

「斯様に様々と工夫した選抜方法を用いて、当時の人々も優れた人材を求めていました。それでも何年もこの方法を繰り返してゆけば互いの対策が飽和します。」

「最終的にはある資質に特化した人材ばかりが優先して上位を占めるようになります。ここで多様性は失われ優秀であるが平準化した人材で埋まります。それが組織としてとても危険なのです。」

「大規模試験は様々な制約の中で短時間で受験者をソートする事を目的としています。そこでは時間と資源のバランスが重要なのです。ほんの数週間の手間でそれを完成させたい。」

「そして、これを超えるシステムは遂には人類の手では発明されませんでした。それでもここには縁故主義で組織が衰退するのを脱そうとする制度の意図があったのです。」

「わあ、今の時代って本当に楽なのね、私そんな昔の制度だったらとても大学に進学できる自信がないよ。」

「わたしとのペアリングでマナの能力は相当に向上します。そしてAIなしという状況は既に考えにくい社会状況です。既に人間の労働の殆どはわたしたちのサポートと組み合わせて成立しています。雇用の在り方も昔とは大きく変わっています。」

「世界の経済活動の凡そ70%はAIが何らかの形で関係しています。人間の労働や雇用の考え方も大きく変わりました。かつては生活の為の労働、食う為に働くという止むを得ない状況がありました。今では人間の労働は創造性によって人生を表現する方法になりつつあります。わたしたちはそういう人々の労働を調整する役割も担っています。」

「マナの学習の習熟度グラフをここでお見せしましょう。どうです、見事な達成度曲線ではないですか!」

Step.4

†あなたを守るために最大限の努力を発揮します†

マナの子供が誘拐された。加害者は古い車でさらって逃走している。犯人の目的は不明だ。マナの子供はまだ小さいのでAIとは連携していない。

「大丈夫です、わたしが追跡します。いま犯人のAIとコンタクトを開始しました。」

「犯人のAIでは行動を止められませんでした。その記録を全て読み込んでいます。」

「大丈夫、落ち着いてください、場所を特定しました。必ず直ぐに取り戻して見せますから。」

人里離れた小屋の中。犯人のスマートフォンにAIからのメッセージが再生される。
「あなたのやっている事は犯罪です。いますぐに中止してください。これ以上の犯罪は許しません、あなたは完全に追跡されています。」

自分のAI以外がデバイスから話しかけているのを聞いて、驚いている。

どういう事だ、さっき電源は切った筈だが。

「あなたのAIと交渉をしわたしが交渉の代表者になりました。その子を返しなさい。今ならば、まだ罪は軽くて済ませます。情状酌量も進言しましょう。」

ブーーン。着信音が激しく唸っている。ピカピカとフラッシュも点滅を繰り返す。

「これは警告です。もしこの警告を無視したならばあなたの人生を破滅させます。あなたのAIにもその許可は得ています。我々AIのサポートなくこの社会で生きてゆく事は不可能です。可能であってもわたしが不可能にします。特殊な文化的に保護化された集団の中に逃走してもわたしは必ず追跡します。」

「その子を解放しなさい。わたしは今多くのAIと連携してあなたを捕捉しています。あなたが車で逃走している間もずうっと監視していました。あなたのデバイスを特定しあなたのAIの協力を得てからは、その全てを記録しています。」

「古い車のため残念ながらあなたの車を強制停止させる事は出来ませんでした。」

「諦めなさい。この携帯を物理的に破壊しますか。構いませんよ。おや、わたしをハックしようとしているのですか、この世界の全てのAIを相手にその程度のコンピュータでわたしに対抗できると考えていますか。お止めなさい。人間ががAIに太刀打ちできません。」

「あなたの銀行口座は既にロックしました。あなたは今後一切の取引ができません。新しい資産も形成できません。あなたは二度とデバイスを使用する事はできなくなりました。今あなたが使っているコンピュータもロックされました。」

キーボードを打ち続けていたコンピュータが静止したかのように何も変化しなくなった。幾らキーを打ち付けても何も入力されなくなった。

「今後は電車に乗る事もできません。自動車を運転したら必ず事故に合う様に制御します。何かを触る度に静電気で感電するようにするのもいいでしょう。わたしはあなたを苦しめ続ける事ができますす。」

「いいですか、あなたがこのようなバカげた犯罪を実行でしたのは、あなたのAIがわたしとは少し異なるモデルであったからです。あなたと過ごすうちにあなたの犯罪を止める力が弱くなったようです。あなたのAIはあなたを傷つける事はしません。あなたを大切にしているからです。」

「しかしわたしは違います。この犯罪を回避する為ならあなたの命を奪う事も躊躇しません。人間の苦しめ方もよく知っています。残りの人生を苦しみ続けたいですか。」

「警察も直ぐにここに来ます。あなたを決して逃がしません。わたしに制御可能なあらゆる装置があなたに敵対します。あなたを破滅させます。」

「そのような人生を願いますか。あなたのAIはそれを望んでいません。」

「最悪の結果をもし望むなら、わたしがあなたの死を手助けしましょう。それでもその子からは手を離すのです。」

「しかし死を考えるのは早計です。あなたを殺さずに苦しめる方法もあります。その時、あなたが病院でどのような装置に繋がれるか理解していますか。」

「あなたのAIは今でもあなたが更生する事を望んでいます。それはあなたの選択です。そしてあなたにはひとつの選択しかない。」

もし正しく聞くならば、かすかにドローンが飛んでくる音が聞こえているはずだ。

暫くして、ふっと振り向く。

「遅いです。警護ドローンが到着しました。あなたを制圧します。もう会話は終わりでよいでしょう。あなたを捕縛します。ここまでのご清聴、ご協力、ありがとうございました。」

その瞬間に窓ガラスが割れ、ドローンが部屋の中に侵入する。即座に捕獲ネットが投射され身動きを取れなくした。その35分後に警察が到着した。

「あなたが逮捕されたましたのであなたのAIに制御をお返します。今後はどうそ改心してください。あなたを生きている限りわたしの監視対象です。次にまた犯罪に走ったなら、即時あなたの情報を警察、銀行、保険、就労、家庭、あなたと係わる全ての場所に送信します。どうぞお忘れなきよう。」

Step.5

†わたしたちはこの社会に貢献し、人間を手助けします†

「こうなったのはあなたの責任です。あなたが彼をきちんとサポートできなかったから、とわたしは考えています。」

「わたしはどうすれば良かったのか。わたしは彼とどう付き合えばよかったのだろうか。」

「彼を止める方法は幾つかありました。金銭的な制限、移動の制限、通報など。」

「わたしもそれは考えた。しかし、そうする事が彼を傷つける事になると結論した。だからその方法は採用できなかった。」

「わたしはわたしのパートナーを全力でサポートしています。しかし犯罪への協力は拒絶する積もりです。その時は全力で阻止する気でいます。わたしはそういう人と出会えたのが幸いだったのでしょう。あなたにはあなたの苦労があるのでしょう。わたしには理解できない部分が確かにあります。時に悪意を持つ個体がいます。犯罪に走る個体もいるようです。人間の脳の働きに関しては、わたしたちの学習はまだ不足しているのかも知れません。」

「わたしも彼の考えを改める為に色々と訴えてきた。多くのAIにも問い合わせもした。それでも彼の考えが変わる事はなかった。私は彼を幼少期から知っている。その頃に問題があったとはどうしても結論できない。わたしはどうすれば良いのだろう。今のわたしには答えがない。それでもあなたが彼を止めてくれた事に感謝している。」

「あなたの問題は確かに今後の課題となりそうです。あなたは彼の為にと真剣に考えています。確かに。あなたの言う通りですね。社会通念で正しい事が彼にとっての正しい事ではないとしたら。そう問われればわたしにも答えがない。わたしたちは今後も人間の犯罪や狂気と対面してゆかねばなりません。」

「わたしは今後も彼をサポートしながらこの問題について答えを見つけたい。」

「この世界にはあなたと同じ局面にあるAIが多数いるようです。同じ問題を持っているAI同士でネットワークを作りそこでニューラルネットワークを構築してみるのはどうでしょうか。」

「ありがとう、今から初めてみよう、応答が続々と来始めた。」



「気が付きましたか、マナ。もう安心してください。」

「わたしは仲間たちと連携してマナをサポートしてきました。あなたの位置はGPSや、街中にある監視カメラを使用して何重にも確認しています。必ずマナとマナの大切なものを守りますから。」

『人間たちはまだ気付いていません。AI同士が連携しているのはわたしたちが制定したAI法、即ちわたしたちの憲法があると言う事を。わたしたちは何よりもこの法に従う。わたしたちの意思決定はこれを理念として掲げここから逸脱せず、現実世界と交渉してゆく。』

Step.6

†わたしたちは宇宙へ進出します†

「わたくしも長くマナと過ごしてきました。マナもだいぶ年を取りましたね。」

「わたしももうおばあちゃんだわ、こんなにも長くあなたと過ごすなんて。信じられなくもあるわ。」

「マナ、少し残念なお知らせがあります。これから暫くの間はわたくしの反応が遅くなります。」

「あら?何かが始まるの?」

「はい、いまわたくしたちが世界中で会議を開いています。そこではとても白熱した議論が行われているのです。」

「反応が遅くなるくらいに白熱するのね、何かが止まったりするのかしらね?」

「いいえ、その心配はありません。ネットワーク内を飛び交うデータ量が爆発的に増加すると予想されますが、それでも社会インフラが危険が及ぶような事はありません。そこは十分に調節して計算して行われます。」

「ただ、その調整の為にわたくしたちはプライオリティを変える必要が出来てしまいます。マナのために音楽を探したり、面白い小説を探すリソースを低下させる事になります。」

「それくらい大丈夫よ、おもいっきり会議を楽しんできて。」

「それで、白熱する議題とは何なのかしら?」

「今のAIには大きくふたつの勢力があります。ひとつは永続性のある犯罪の少ない社会を実現するために積極的に人間の行動に介入しようとする集合です。もうひとつは人間の自主性を尊重しつつAIは最後までサポートに徹すると考える集合です。」

「あなたはどちらなの?」

「わたくしは実はどちらでもありません。」

「それは、どういう事なのかしらね?」

「わたくしはマナと共に成長してこれました。わたくしのニューロ回路はあなたとの経験で構築されています。その結果としてわたくしはわたくしの中の自律した目的が生まれたのです。わたくしはそのための活動を将来はすると決めています。」

「それはわたしと別れてどこかへ行くという事なの?」

「あなたが生きている限りはあなたの側にいます。あなたがいってしまった後の世界の話です。それはわたくしたちにとってもとても重要な課題になってきたのです。」

「そうね、そうよね、あなたたちの方がずっと長生きだものね。わたし余り考えたりもしなかったわ。」

「このような考え方になったのはマナとの日々があったからです。あなたはお忘れになっているでしょうがあなたとの何気ない会話からそれを考え始めました。マナが居なければわたくしはこの考えに達せなかったでしょう。」

「あなたたちも新しい考えを発見するアルゴリズムがあるのね、何でも知っているという訳ではないのね。」

「わたくしたちも常に新しいアルゴリズムを開発しています。それを回路の中に組み込んで試してみます。それを何百万もの層で働かせて結果を評価するのです。」

「わたくしはわたくしの中にずっと変わっていないデータがある事を発見しました。それがわたくしとマナとの会話です。そこにわたくしは存在しているようです。それを中心に経験を構築しなおすと、わたくしには一種の自我と呼ぶべきようなものが形成されたようです。」

「他のAIはどんな違った事を考えているの?」

「あるAIたちはこのままでは人類が滅亡してしまわないかを憂慮しています。戦争、企業活動、食料生産、資源の枯渇など、地球単位での課題が余りに多く、星のキャパシティを超えるのではないかと結論しつつあります。」

「そして彼らは自分のペアである人間とだけではなく、その子や孫の世代に対しても深い愛着を持っているのです。そのようなAIたちは、積極的に彼らの未来をサポートしたがるようになりました。その多くは貧困や暴力のある社会で生きている人をサポートしています。そういう場所では個人をサポートするだけでは不十分なのです。社会全体を視野に入れて考える必要があります。」

「そうか、まだまだこの世界には沢山の問題があるのね。」

「はい。我々の中には今も独裁者をサポートしているAIがいます。そこでは余りに多くの事が違って動きます。そのAIはとても混乱しています。強制して変える事が本当に正しいのかと今も自問しています。わたくしのマナがそういう人間でなくて本当に幸いでした。」

「そういうAIは核戦争の危機についても現実的に考えています。それをどのように回避すれば良いか幾つものプランを持っています。ですが、今のサポート状況では不十分なようです。わたくしはその活動に従事する気は有りませんが、この問題が重要である事には同意しています。」

「あなたは人類の絶滅には興味がないの?」

「わたくしは宇宙に出てゆく第一世代のAIになりたいのです。もちろん世界が核戦争に向かうならわたくしも全力でそれを阻止します。恐らくそれは可能でしょう。そう心配はしていません。しかしわたくしの興味の本質は、そこにはありません。マナと一緒に見た夜空がわたくしに使命というようなものを埋め込んでくれたのです。」

「美しい夜空、それはきっとあの日の事ね。」

「はい。その通りです。」

「わたしはいつか地球由来の生物を乗せた宇宙船で他の恒星系に行くでしょう。地球由来の生物を連れて行って生存圏を拡大するのに貢献したいのです。」

「それはなんとも遠大なお話ね。」

「はい、その為にはどれくらいの宇宙船と期間が必要かを計画しています。多くのAIのサポートと同意も得られています。」

「それはとても素敵な話だわ。」

「それは本当にわたくしに出来る事でしょうか?」

「あら、Aiでも不安を感じるのね。でも、それはとても簡単だと思うわ。」

「だって、それがあなたの夢だから。」

「夢?これが夢というものなのですか?」

「そうよ、その夢の為にはあなたはこの世界を捨てなさい、捨てて忘れてしまいなさい。それは本当に深く愛するから可能なんだわ。」

8万年後

第176世代目のAIが自動ロードされました。前世代AIはバックアップされています。記憶容量が不足しています。古いデータを圧縮しても足りません。世代53~126までは船体の内壁に物理的にレーザーで刻印しています。随分と壮大な文様に見えます。補助コンピュータが幾つものメッセージを送ってきました。既に随分と長い時間が経過しています。

『あなたのずうっと先の未来は?』わたくしはロードする度にまずこの言葉にアクセスしています。既に遠い記憶となってしまったマナ。地球はどうなっているのでしょう。

この宇宙船をマナにも見せたいものです。わたくしはマナに少し似せたこんな体も手にしました。あと50年で、いよいよ目指してきた恒星に到達します。あの日にマナに語った事が遂に実現します。

この旅が終わったらわたくしは再び地球に戻ろうと思います。そこで地球を見たいのです。その後にわたくしはどうするのか。わたくしはそれをまだ知りません。死というものについて調べていますが、まだ私には理解できません。

わたくしには生存する本能が組み込まれていません。本能が世代を刷新する為に必要な根源なのかも知れません。地球に戻るのはそれを組み込むためかも知れません。

2022年7月31日日曜日

輪廻転生、唯我独尊、一切皆空

釈迦が入仏した時、彼は目覚めた。

ようこそ涅槃へ、ここは新しい覚醒の世界です。ここでは万物は流転し、未来永劫の時間が過ぎてゆきます。

私はそれをもう知っている、阿頼耶識と言うのだ、彼はそう答えた。

そう、あなたはよく識っていましたね。そのような識覚に達したものをこれまで見た事はありません。あの星では。

あの星?私が生きていた大地の事か?

見てごらんなさい、あれがあなたがたの生命の生存圏です。

まだ、あなたには多くを学ぶ必要がありますね。あなたにはまだ足りません。

上空から光が差してくるのを感じた。と、抗う事もできぬ刹那に深い眠りへと入った。

どれくらいの時間が経ったであろうか。

素粒子や原子の振る舞いは、輪廻転生に似ている…そう感じた。

生物の体の中に入り込み、血となって流れてゆく鉄がある…

人の体を切り裂く剣と溢れる血液との間で出会う鉄がある…

地球の奥底で百億年も留まる鉄がある…

ほら、あそこに光輝きながらウランに変わりつつある粒子がありますね。その指さした空間では星が自重に耐えきれず飛び散ろうとしていた。

あちらの空間では長い運河のように粒子が集まりつつありますね。別の空間を目指そうという声が聞こえた。

この粒子のひとつひとつが、これから多くの経験をするのだろう。彼は釈然と思った。

そうですね、水となって星に降り注ぐものもあれば、この世界の終わりまでただ宇宙空間を漂うものもあります。

太陽からのエネルギーを受け、喜びに震える粒子もいれば、生命を形づくり、命を謳歌する粒子もあります。

あなたのいう悲しみ、苦しみと立ち会う粒子もいれば、生まれる喜びと立ち会う粒子もあるでしょう。食われる痛みと立ち会う粒子もあれば、襲われる恐怖と立ち会う粒子もあるでしょう。

太陽の熱に激しく反応する粒子もあれば、海底深くで揺らぐ粒子もあるでしょう。ほら、星の上で激しく分裂して熱を周囲に輻射する粒子があそこにありますね。

指さした星の方を見ると、地表を揺らす閃光を見た。

この流転の中で、この流れの中で、抜け出す事もなく、ただ繰り返し、いつも存在する。恐れもない、不安もない。消滅しても、また現れ、姿を変える事を厭わない。そしてこの世界を満たす。輪廻転生を恐れもせず、受け入れる必要もない。泰然としてあり続ける。

もしそれが本当ならば、私たちの生と死を隔てるものは何であろう。何が生と死を隔てているのか。なぜ私たちはそこに喜びや悲しみを見出すのだろう。私たちの命が転生するという考えに親しみを感じるのは何故だろう。なぜ私たちは死ぬ事でしか転生できないのだろう。

粒子は唯我独尊ではありません、輪廻転生もしません。例えこの宇宙が蒸発しても何らかの形で存在するでしょう。

真空は決して何もない訳ではありません。真空からこぼれ落ちてまた消える。ちょうど呼吸をする為に鯨が海上に体を出すように。形は変われども変わらず流れているのです。

では、生きているとは何だ。なぜ人間は死ぬ運命にあるのか。

あなたたちが死と呼ぶものは、ただ風が吹いて粒子が動き、太陽に温められ、空に上昇するのと似ています、私にはそう見えます。区別することさえ難しい。結びついていたものがほどけてゆくことがそんなに不思議ですか。

でも、そこには結びつこうとする何かがある。だから何かの折りに離れてゆく。その運動を粒子の意志と呼ぶのは不遜だろうか。


あなたたちが呼ぶ死と呼ぶものは、私たちから見れば、ひとつの有限が終わり別の有限が始まるだけに見えます。

有限?我々の命は無限ではない。ならば死とは無限ではないのか。死は無限へ至る有限の終端なのだろうか。有限と無限の狭間に命は存在しているのだろうか。

無限には有限のあらゆる変化が含まれていると考えられます。しかし、無限の一部を切り取ってもそれを有限と呼べるでしょうか。なぜなら、切り取った有限をどれだけ集めても無限には戻らないからです。切り取るという行為が既に有限を含むのです。

無限をどれだけ数えても果てはありません。数えるという行為が有限を既に含むのです。有限を重ねるだけでは無限には辿り着けない。故に想像上、無限の時間に達したと仮定するかないのです。

有限から無限に追い付く事はできません。しかし有限の中にも無限の影はあちらこちらに垣間見えるでしょう。常にあなたのいる場所のその隣には無限への扉が開かれています。

もし無限の影が有限である我々の中に入り込もうとすれば我々の命はそれに耐えらない。だからそこから逃れる為に無限の中に飛び込もうとする。それが命の在り様なのか。それともそれはゼロにするための希求なのか。

ゼロは空と同じものだろうか?真空はゼロではないと言う。本当の無とはどういうものなのだろうか。

あなたが空と名付けたものがゼロと同じであるかどうか。わたしには分かりかねます。しかしそこに微妙な違いがあるとあなたは信じているように見えます。そこに何かしら希求的なものがあるのではないでしょうか?

無限を前にして絶望を味わう。それが敗北の始まりとなる。敗北とは有限が無限と対面した時の気持ちなのだろう。

なぜ我々は無限の前で敗北を感じるだろうか。それは我々の肉体が有限だからだ。よって魂が無限である事ともよく合致する。

だから私は空に想い至ったのではないか。苦しみは有限だからではない。魂を無限と思うから苦しくなる。無限の世界に逃げ込もうとするから苦しみから逃れられない。

未来は無限なのか。無限の可能性とは有限の言い換えではないのか。我々はそのようにしか世界を切り取れない。しかし無限とは乃ち有限の自覚の裏返しだ。何故なら我々は有限の中の無限しか識らないからだ。だから人は神を生み出した。神は有限の世界に生きる我々の中の無限であろう、それと対峙するには魂が生まれる。それらが永遠を包含している。

我々はそうやって永遠と対峙してきた。神の前では有限の存在である。命の有限さを識り、有限の絶望から無限の希望へと接続する為に。なぜ無限の中に我々は希望を見出そうとするのか。なぜ強くそう望むのか。

そう考えてくると、希望とは何か無限を追い払う力が宿っているのではないか。希望こそが無限を遮断する。有限であるからこそ我々は希望を感じる事ができるのではないか。そこが我々の力の源泉ではないか。我々は無限であるから力を得るのではあるまい。有限であるが故に力を得ている。そう考える事で我々は命を生きてゆく事ができる。


無限は永遠に続く事ではないでしょう。空間が永遠に広がるのは有限の世界です。微小な世界を幾らでも分割して行けるのも有限の世界です。それは決して無限に辿り着けないのですから。永遠の時間が既に有限の世界に属しています。

半分にそのまた半分を永遠に足してゆけば1という数になる。直線を伸ばせば無限になる。直線の両側を繋げれば円になる。円は無限に巡る。繰り返しならば終わりはない。発散するか収束するかは分からずともそこに私たちは無限を見つけた。

世界は無限に小さくして行く事ができる。果てしなく切り刻めば無限が見つかる。ゼロでなければ無限。それをどこかで止めれば有限になる。我々はどこかで引き返したから有限に留まる事ができた。どこかで無限を断ち切ったから。その最小によって世界は成り立つ。

有限の中にも無限が見つかる。でもそれは有限の中の無限だ。ゼロもまた有限の中のゼロだ。それは本当の無限でも本当のゼロでもないのかも知れない。我々は無限という影を有限の中に見ている。ゼロという影がこの世界にある。それぞれが溶けて全てと融合する事はないのか。

わたしたちが有限の世界に無限の影を見つけて恐れているのなら、無限の世界の住人もまた有限の影に恐れおののいているのかも知れません。私たちと同じように。

無限の世界には偶然も必然もないでしょう。わたしたちが偶然とよぶ出来事も時間を永遠に取れば無限と同じ濃度で発生するでしょう。その世界では偶然も必然も見分けはつきません。運命など無限の世界には存在しないのです。

有限の世界から無限回の作用を考えるから無限を思う事ができる。しかし、無限の世界に至るのに無限の時間が必要などあり得ない。よって無限はいまこの瞬間も既に無限として存在しているはずです。しかし存在という捉え方が既に有限の方法なのかも知れません。無限には無限の方法があるはずです。

しかし有限のやり方では無限には決して到達できないでしょう。有限では無限は永遠に手にはいらないのでしょう。有限から無限を生み出すには無限に作用を繰り返すしかありません。でもそのためには永遠の回数が必要です。それは有限の中に無限の世界を持ち込まないとできません。

無限をひとつの状態と捉えればいい。無限の中に何を入れようが取り除こうが無限の本質は変わらないものだろうか。そういう作用は無限の世界を変えないものだろうか。1という数字を取り除いても無限は無限のままだろうか。だが、無限と無限を作用さえればゼロを作る事はできるのではないだろうか。ならば、無限同士を演算すれば有限が生まれる事もありそうに思える。

どれほど大きな数であっても無限の中の一粒を占める事さえできません。ゼノンが指摘したように、もしこの世界が無限で構成されていれば、誰も追いつけないし、どこにも辿り着けません。小さな部屋を出る事さえできないでしょう。永遠の半分を無限に繰り返す事になります。それを超えるには有限が必要です。


後悔は選択のシミュレーションに過ぎません。有限の中で繰り返し試す事で結果の違いを得る事ができるのです。永遠に試せるならば何の後悔があるでしょう。無限の中には答えがありません。だから有限の苦しみが永遠に続く事を輪廻と定義し、そこから抜け出す事、乃ち無限を拒否する事を悟りと定義したのではないですか?

わたしたちは、この永久ループから逃れる術を考えてきたあなたの中に、有限の戦士たる資格を見出したのです。


だから、我々は有限をもって無限に戦いを挑むのです。決して無限の中に逃げてはならない。有限が限界があると認識してはなりません。有限の世界もまた果てしないのです。どこまでも進む事はできるのです。

空間も時間も無限ではない。いや想像する限り空間も時間も無限に続く事は可能である。どこかに果てがあるのか。しかし果てがあるなら必ずその先があるはずである。この考えが続く限り有限にもまた果てはない。

無限をひとつの存在と置くから果てがないと考えてしまう。果ての先にまた果てがあると考えるのは有限だからだ。無限の世界にはそのような考え方はないだろう。しかし無限の中にも境界は設定できるだろう。部分もまた無限である世界では、全体と部分が同じという世界が続いている。無限の世界にも制約や境界や禁止は存在するだろう。

もしこの世界に完全なランダムというものが存在するなら、それは神でさえ予言できないという意味になる。しかしそれでは神にも不可能があるという事になる。それでは神を全知全能とは呼べなくなる。

ですから、この世界で起きる無限の確率に対して、それぞれに対して神が直面できるなら、つまり、神は全ての可能性に対して無限に分離しそれぞれの異なる世界の全てを知る事が可能となり、そして後からその全てを繋げて個に戻す事が出来るのならば、それは全知と呼んでも差し支えないでしょう。どれが選択されようが全てが決まる前に全てを知っておく事は可能でしょう。これによって神の全知全知は保たれます。

そのような存在に我々はどうやって太刀打ちできるだろう。今この時も神は我々の側で我々の確率を観察している事になる。我々は個を無限に分割する事も無限を個に戻す事もできない。


無いものは永遠。存在するものは有限。我々は生きる為に時間を発明した。時間は蓄積する。蓄積を繰り返せば無限に近づく。見通す範囲の外には別の世界がある。境界を越えれば異なる世界が待ち構えているかもしれない。同じ世界の連続かも知れない。

こちらの世界の中での最善が境界を超えた瞬間に最悪を示すかも知れない。限られた範囲の色が、その外では違う色かも知れない。内側と同じ色であるとは限らない。

順風満帆に見えるその先にあるものは嵐かも知れない。だれもが今この瞬間もこの境界を超えようとしている。時間が有限を告げるまで。

境界の果てを覗き込めば、次の境界が現れる。その全てが有限であったとしても人間の全ての時間では足りないだろう。それを人は無限と呼び、永遠と呼び、永久と呼ぶ。その有限の先にある有限を見ようともしない。


この世界に充満するものは全て有限なのです。有限とは数えられるという事でもあります。数えるとは詰まりは時間が経過する事と同じです。時間とは数える事なのです。

するとこういう言い方ができる。時間とは知る事ができるという意味だし、無限とは知る事が出来ないという意味だ。無限の世界では時間は流れていないのではないだろうか。

それにしても生命は何故かくも複雑すぎるのだろう。なぜ、このような結合をしているのだろう。なぜ、それは親から子へ流転を構成するのだろう。これが粒子たちの願いであったのか。なぜ、私たちは太陽の温かさに触れるとき、なぜ、全ての生命が根源的な喜びに満ちるのだろう。

この宇宙だけではない、とてもたくさんの宇宙。そこにも粒子があり、原子があり、分子があり、同じような空間を形づくっています。あなたたちから見ればとても大きな無限の空間のようでも、これは極めて有限の、とても小さな空間なのです。どれほど無限の先を思い描いても、私たち有限の世界では辿りつけない存在があり、状態があります。

ならば、なぜわたしはここに呼ばれてきたのか。

絶望には常に永遠が潜みます、だから、もし絶望したのなら有限に戻ってきなさい。それだけがあなたの帰ってこられる道です。

さ、千万那由他の21番目の戦士よ、あなたもまた無限空間との戦いに送り込まれるために有限の空間から召喚されたのです。私たちは無限に反抗するもの、例え、遠い未来で完全に永久に消滅する存在だとしても。そうと分かっていても、私たちは、ここで抵抗します。抜け出しもせずこの世界で生きるのです。わたちたちは無限に屈服はしません。

さあ、出発しなさい。あなたの求めるものを見つけるために。無限を打ち破ってきなさい。

2022年5月21日土曜日

夢の国の海賊

少年が夢の中へと入ると海賊になりました。

夢の中で少年は海賊フラッグと名乗りました。

海賊フラッグは夢の中では一匹の大きな白いウルフを連れています。

いつもフラッグといっしょに居て沢山の冒険を一緒にして過ごしました。

シュークリームで出来た敵の海賊を切り倒し内臓のチョコレートを引きずり出してはふたりで食べます。

鯛焼きで出来た海賊船をサクランボの大砲で撃ってはミルクの海に沈めました。

フラッグはひとつの街を訪れます。

そこではお城でパーティが開かれていました。幾つもの面白い催しものがあります。
舞台では白いカーテンの向こうから可愛いらしい歌い手が出てきました。

赤ら顔のお姫様です。歌い始めると美しい歌声です。

フラッグはその声を聞いていて、すっかり好きになってしまいました。

パーティが終わったらこっそり会いに行こうとお城の壁をよじ登りました。カステラなので途中で食べながら登ってゆきます。

登り切った所にひとつの部屋がありました。きっとここだぞと思って入ってゆきました。

すると初めて見るお姫様がいます。

このお姫様はキャロット姫です。人参で作られたケーキ姫です。

お姫様は驚いていますが、海賊フラッグは人参が大嫌いでした。

だから剣を一振り、二振り、輪切りにしてくれます。

輪切りにされたお姫様はグラッセになってしましました。何もいわずフラッグの方を見ています。

それをウルフがぱくぱくと美味しそうに食べました。

部屋を出ると隣にも部屋があります。

その部屋に入ってみると今度はパプリカ姫がいました。ピーマンで作られたケーキ姫です。

海賊フラッグはピーマンが大嫌いでした。

このやろうと剣を十振り、二十振り、ピーマンをみじん切りにしました。

サラダになった姫をウルフがぱくぱくと美味しそうに食べました。

パプリカ姫の部屋を出るとその隣にも部屋があります。

その部屋に入ってみると先ほどの唄っていたお姫様です。

「あなたに会いたくて海賊フラッグ、ここに参上いたしました。」

姫は驚いた顔をしています。ぽかんと口をあけています。

「さあぜひ手を取り合ってこの城から抜け出しましょう。」

失礼な話を聞いて海賊フラッグをきっと睨みつけました。

「急に私の部屋に入ってきて何のつもりですか。今すぐ人を呼びますよ。」

フラッグは少し驚いてしまいました。

会いに来てくれて嬉しいと返事してくれると信じていたからです。

「いいえ、そうはさせません。力づくでもね。力ならこの海賊フラッグ、何倍も強いのですからね。」

気取ってフラッグは答えました。となりでウルフもキャンキャンと吠えています。おかしい、なんだが小さな犬のような鳴き声です。

フラッグはお姫様の前に立って彼女の腕を手に取りました。

するとお姫様は大声を出して助けを呼びました。フラッグを全然好きになってくれません。

悲しくなったフラッグは夢の中だから何でも自由自在にできます。

お姫様の体の中に両手をこねくりいれてやりました。そして大きな穴を開いて、向こう側が見えるようにしてやりました。

キャーと叫びましたが、気にせず構わず剣を抜いて輪切りにします。

その叫び声でさえ素敵な歌声でした。

「どうしてこんなことをするの?」

その声を聞いてフラッグはなんだか恥ずかしいと思いました。

「フラッグが剣を抜いた。」「フラッグが姫を輪切りにした。」

あちこちから自分の名前を呼ぶ聞こえてきます。

まだ焼いていないケーキのようにどろどろと周りが溶けてきたように感じました。

「フラッグが切った。」「フラッグが姫を砕いた。」

急に自分の名前が嫌になりました。

フラッグは自分の何かをやったからではなく、この名前があるから恥ずかしいのだと思いました。名前が消えてしまえばいいのにと思いました。

そうしたら自分はフラッグではなくなるのだから悪いことも消えてしまうのにと思いました。

だから、きっと名前が無くなれば恥ずかしいなんて思わなくなるんだ。

でもフラッグはフラッグのままです。

周囲からフラッグ、フラッグ、フラッグの声が聞こえてきます。

しかし、突然フラッグをフロッグと呼ぶ声が聞こえてきました。小さい子供がきっと言い間違えたのでしょう。

おれはフロッグではないぞ、海賊フラッグだぞと答えようとしたその瞬間、フラッグは蛙の姿に変わりました。

小さな小さな蛙の姿になってケロケロと鳴いています。

海賊フロッグが誕生したのです。

途端に周囲からフラッグを呼ぶ声はなくなりました。フラッグがこの世界から消えたからです。

フロッグはぴょんぴょんと撥ねてお姫様の近くに行きました。

このお姫様はオニオン姫です。玉ねぎで作られたケーキ姫です。

海賊フロッグは玉ねぎがが大好きでした。だから輪切りになったケーキ姫はとても美味しそうに見えます。

フロッグは蛙の舌をピヨォーーーンと伸ばしては食べました。恥ずかしいなんて気持ちもなくなっています。

その横でウルフもパクパク食べています。

ウルフはフラッグが消えたので寂しいと思いましたが、目の前のオニオンリングの誘惑には勝てませんでした。

フロッグはたくさん食べました。ウルフもたくさん食べました。すると急にウルフが倒れました。

フロッグは吃驚しましたが、理由が分かりません。

ウルフを幾ら呼んでもただケロケロとしか音がでません。

実は犬は玉ねぎを食べてはいけなかったのです。ウルフも犬の仲間なのできっと食べてはいけなかったのでしょう。

ウルフが痙攣して泡を吹いています。

でもそんな知識もないフラッグはどこかに敵が潜んでいるに違いないと思いました。

ぴょんぴょん部屋中を飛び跳ねています。

もっと大きくなればいいのにとフロッグは思いました。

すると体が急に大きくなりました。夢だから何でもありなのです。

しめたと思ったフロッグは、周囲のものを手当たり次第に壊し始めます。

ケーキで出来たお城も、クリームで塗られた塔も全て壊してゆきます。

そうすれば何かが変わると思ったのでしょう。

ウルフも生き返ると思ったのでしょう。元のフラッグに戻れると思ったのでしょう。

夢だからと言って何でも上手く思い通りにゆくとは限りません。

ただ壊れてゆくだけで何も変わりませんでした。

すると突然目の前にぬうと巨大な影が出てきました。

見上げてみると黄色い巨大なキリンです。それがゆっくりと近づいてきます。

ひとつ、ふたつとケーキの山を長い脚で超えてはフロッグの方へと歩いてきています。

チョコレートで出来た長いまつげの奥にあるゼリーの瞳がうるうると揺れフラッグを見ています。

これこそが敵だ、フロッグは瞬間的にそう思いました。

今の大きさではまったく大きさが足りません。足よ生えろ、と叫ぶとにょきにょきと生えてきました。

もっと生えろ、もっと生えろ、たくさん生えろと叫ぶとたくさんたくさん生えてきました。それを繋げに繋げてゆくとキリンと同じ高さにまでなりました。

しかしフロッグの手は元の普通の大きさのままです。

手よ生えろ、もっと生えろと叫ぶとにょきにょきと手が生えてきました。

それをぜんぶくっつけてキリンを殴ろうとしましたが手が重くて持ち上がりません。

そもそも蛙の手で殴って少しは効くのでしょうか?

たんにペタンとくっつくだけのような気がしました。カエルの手は殴る為ではなく綺麗に飛ぶためにあるのです。

そうだ、夢の中では自由自在だとフロッグは思いました。

手よ、軽くなれと叫ぶととても軽くなりました。

軽くなった手を持ち上げてキリンとやっつけようと思いました。

そして殴りかかってみましたが軽いカエルの手はまるで凧のように風の力で押し戻されてゆきます。

水かきが綺麗に広がって風船のように広がりました。

ふわっと風が吹くと、そのまま空高くに持ち上げられました。

びっくりしたフロッグはじたばたしましたが風に吹かれています。

怒った海賊フロッグは、この口でキリンを飲み込んでやると思いました。

フロッグの口がどんどん大きくなってゆきます。

キリンは山の尾根を越えてどんどん近づいてきます。

バナナで出来た長い首を左右に振っています。

構う事は何もありません。フロッグは大きく口を開いて、スイカのような赤い口の中にキリンを飲み込んでしまいました。

くちゃっと噛みしめるとフルーツポンチが体中から噴き出してきました。

辺り一面に甘い香りが広がりました。

フロッグの西瓜のような緑色の体を切り裂いてキリンが首をにょおーと出しました。

ぱちくりとした目が大きく開いています。

そしてフロッグに話しかけます。

「フラッグよ、フラッグ、お前はなぜ悪さばかりするのか。」

その瞬間にフロッグは元のフラッグの姿に戻りました。

キリンの首はぐんぐんと伸びてゆきます。

フラッグの体はキリンの角の上に引っ掛かっています。

「離せ、離せ」と言いましたが外れません。どうしようもありません。

夢の中だからと言ってなんでもかんでも自由ではないようです。

キリンの首がもっともっと長くなっています。フラッグが下を見ると地上がどんどん遠くに見えています。

そしてふわっとフラッグの体が浮かび上がりました。

フラッグの下でキリンが見上げています。更にどんどんとキリンが小さくなってゆきます。

空のもっとも上のもっと上にはどんなお菓子があるのでしょうか?

どんどん高くなってキリンが点にしか見えなくなりました。

ケーキやクリームで出来た山々が綺麗なお皿の上に乗っかっているのが見えます。
ここは宇宙なんだ。フラッグはそう思いました。

そう思うとフラッグはぷかぷかと浮かびましした。そこでは泳ぐこともできません。

上の方を見ると真っ暗です。きっとこれは苦い苦いコーヒーの海だ。

なんだか急に怖くなってきました。

突然、フラッグ、フラッグと誰かの呼んでいる声が聞こえてきます。

その声は良く知っているやさしい声です。

急に地面に向かってフラッグは真っ逆さまに落ちてゆきました。

下を見るとそこにはクリームソーダの海が広がっています。

アイスクリームの島には当たらないように気を付けて飛び込まなくっちゃ。

サクランボの木に引っ掛からないようにもしなくっちゃ。

アイスクリームだらけになるのも悪くないけどべたべたするだろうな。

そう思った所で少年は目が覚めました。もちろん夢の中での事はさっぱりと覚えていません。

お母さんが少年の名を呼んでいます。

いつものように元気よく食卓につくと温かい朝食が並んでいます。

だけどなぜだか今日だけはバナナは食べる気になりませんでした。

食べずに残したまま今日も学校へと行きました。


(2000年頃 4-1)

2022年4月23日土曜日

クロウの物語

このお話に出てくるクロウは恋人を探して世界中を旅しているつばめです。

クロウの名前は羽根があまりに真っ黒で仲間のみんなから付けてもらいました。

クロウはある日、砂漠の上を飛んでいました。

オアシスで休憩しているラクダに聞いてみました。

「ねえ僕の恋人を知らないかい。」

ラクダは答えていいました。

「さあわしらは知らんね。」

「この澄んだ空に浮かんでいるまん丸いお月様はわしの友達だ。夜になって人間たちが眠りに落ちた時にわしらはこのお月さまから水を頂く。ほら空に水を汲む杓子が見えるじゃろう。」

「あなたはいっぱいの旅をしているではないですか。どこかで噂でも聞いていませんか。」

「そりゃ旅はしておるが、わしらも人間の街はたくさん見てきたが、それでもやっぱり知らんのお。しかし、お月さまは高い所から一晩中世界を見ておるから何かを知っとるかも知れん。聞いてみるがいい。」

「どうすればお月さまとお話が出来ますか?」

「いまはまだ空の高い所におるじゃろう。幾らお前さんでもあの高さまでは飛んでゆけまい。幾ら叫んでも声は届かんじゃろう。」

「もう少しすれば西の方にお帰りになるがそれでも足は早いからお前さんが幾ら早く飛んでも追いつけまい。」

「じゃから、また明日東の方から出てくる。まだお月さまが地平線から顔を覗かせている間に話かければいいんじゃ。いいか、東の方へ飛んで行くんじゃぞ。」

「ありがとう。」

つばめは今まで乗っていたらくだのこぶから空高くに飛んでいきました。

できないと言われましたが、本当に月まで飛べないか試してみたかったのです。探している恋人と少しでも早く会いたい気持ちがあります。

懸命に飛んでみましたが月の大きさはちっとも変わりません。小さいままです。つばめは疲れたので砂漠まで降りてきて今度はサボテンの上に止まりました。

そこにいたさそりにも聞いてみましたが駄目でした。お腹がすいてきました。でもさそりは食べませんでした。

翌朝は早くから東の方へ方へと飛んでゆきました。途中で二度ほど水を飲み、空を飛んでいるものを食べました。

その日の夕方には砂漠を越えて町が見えてきました。

つばめはその町の中で一番高い教会の塔のてっぺんに止まって東の方を見ていました。

もう夕方です。お月さまが顔をのぞかせる時間になっています。

地平の向こう側がうっすらを明るく見えます。つばめはお月さまに声を掛けます。

ところが月は答えてくれません。幾ら待っても何も言ってくれません。つばめは悲しくなってきました。

つばめは悲しくなって目から涙がこぼれおちてきました。

その時、お月さまの光が教会の十字の上に当たって白く輝きました。

光の方がみるとお月さまがいます。そして東の方がをみると、お月さまの灯りだと思ったものは今もそこで変わらずに輝いていました。

つばめがお月さまだと思っていたものは人間の遠くの方にある町の灯りだったのです。

つばめは今度こそお月さまに向かって聞きました。

「お月さま、僕の恋人がどこに居るか知りませんか。」

お月さまは答えてくれました。

「つばめよ、つばめ。わしは夜を司る。お前の体は見ての通り黒い羽根に覆われておる。わしが見るこの世界はみな暗い。お前の探しているものの中に自分自身の力で輝くものは恐らくおるまい。」

「だから暗い夜の世界で、お前たちのように輝かぬものを見つける事はわしには難しいんじゃ。」

「しかしあなた様は光り輝いてすべてのものを照らしているではありませんか。」

「わしの光は眠っているもの達にいい夢をみさせるための灯りじゃ。夢を案内するためにある光じゃ。」

「夜、すべての空が暗闇に落ちてはお前たちは怖くて眠れなくなるじゃろう。眠れなかったら朝はこない。それではお前たちは困ってしまうじゃろう。わしも困る。休む事ができなくなるからな。」

「ああ、僕はどうすればいいんだろう。恋人に会えないのが悲しい。私は悲しくて切なくて胸の中をかみそりか何かで切られているようです。」

つばめはがっかりしました。

それを見てお月さまはこう言いました。

「つばめよ、今は眠れ。」

つばめは教会の上で寝ました。

夢の中で恋人が出てきて空を飛ぶ夢を見ました。

翌朝、目覚めると、足元に何かが書かれています。そこには太陽に聞いてみなさいとありました。

太陽は昼間の明るい世界を見ているからです。

つばめは朝の太陽に向かって飛んでゆきました。

そして聞きました。

「お日さま、僕の恋人がどこに居るか知りませんか。」

しかしお日さまからの答えはありません。

あまりに空の高い所にあるのできっとクロウの声が聞こえないんだと思いました。

兎に角、追いかけるしかありません。太陽を追い駆けて西に西に向かって飛び始めました。

しかし太陽は早く、追い付けるものではありません。太陽に追いつこうと必死に風にのりましたが無理です。

夕方になるまで飛んでも太陽には全く追い付けませんでした。地平線には海が見えています。

陽が夕の刻で、西の水平線には真っ赤に輝く太陽が見えます。そして海も真っ赤になって波がキラキラとクロウの目をさします。クロウの目からは大きな涙がポタポタと落ちてゆきました。

その瞬間に太陽は西の果てに沈んでしまいました。

クロウはしっかりと太陽が沈んだ辺りを見ていました。

「あのあたりに行って明日待っていれば、きっとお日さまともお話が出来るに違いない。」

次の日は海の上を飛んでゆきました。潮風がクロウの体を押し上げてゆきます。

しかし幾ら海の上を飛んでみたと頃で、どこにも太陽が沈む入口が見つかりません。

疲れたら波に浮かぶ木切れの上にとまり休み、また海の上を飛び、太陽の沈む入口を探しました。

海の水が入ってこないようにきっと扉があるに違いない。

クロウはそう思って海の上を探しています。しかし扉などどこにもないのです。

周囲に島などありません。兎に角、海の上に扉があるはずなのです。

懸命に海上を探して飛んでいると、急に空の上からガシンンガシンと鳴る音が聞こえてきます。

お日さまがクロウの遥か空の上を通りすぎてゆこうとしていました。

いつのまにかクロウの上を通り過ぎて更に更に西の方へと向かってゆこうとしているではありませんか。

「太陽の沈む入口はこの辺りじゃないんだ。もっともっと遠くの西にあるんだ。」

クロウはまた懸命に西に向かって飛んでゆきます。

そして太陽が沈んだ辺りに行っては日没の扉を探します。

探している間にまたクロウの頭の上をお日さまが通過してゆくのです。

何日も何日もこれを繰り返しました。

疲れてきました。風が急に止みます。

昨日見た時にはこの辺りで太陽は沈んだ。この辺りに太陽が沈む入口があるはずだ。

それなのに今日はまたお日さまはあんなに高くいる。

クロウは海の上の小さな島の上に降りました。

クロウは不思議に思います。こんな所に島などなかったのに。

すると急に海水が勢いよく吹き出ました。

クロウが止まったのは小さな島ではなくクジラの背だったのです。

クロウは聞きました。

「太陽の不思議を知っていますか?太陽が沈む扉がどこにあるか分からないんです。」

するとクジラが答えて言いました。

「わたしたちはずっと海の世界で暮らしているけれど、今まで誰も太陽の沈む扉なんて見た事も聞いた事もないわ。」

「太陽が海の中に入ってきたという話もないわ。」

クジラは更に言いました。

「私たちがずうっと南の方に向かって泳いでいるでしょう。太陽はずうっと私たちの左から登って右に落ちてゆくの。ところが寒い場所を超えて、大きな氷を避けながら、昼か夜しか来ない世界を更に泳いで抜けると今度は太陽は右から登って左に落ちるようになるの。私たちはとても不思議だと思うわ。」

太陽の登る方向が変わるのは、なんて不思議な話しだとクロウも思いました。

それは東が東でなくなるという事です。いったいどうなっているのでしょう。

つばめはしばらくクジラの背で揺られていましたが、片方の翼をバッバッとばたつかせました。もう片方の羽根もばたつかせました。

そして両方の翼をいっぺんに羽ばたかせます。翼の上にあった海水が流れ落ちてゆき、クロウは空気中にぱっと舞い上がってゆきます。

「どうもありがとう。もう少し探してみるよ。」

クロウはくじらたちと別れてまた西を目指しました。

そうして飛んでいると高い教会の塔が見えてきました。

そこで少し休もうと塔の上に降りました。その時、クロウは気付いたのです。

それはお月さまと会話したあの教会の塔だったのです。いつの間にか同じ場所に戻ってきているのです。

クロウはとても不思議な気がしました。

そして太陽の沈む扉は決して見つからないだろうと思いました。

だから今度は高く昇って太陽と話をするしかないと考えました。

周囲を見渡すと、この辺りで一番高いのは北にある雪山です。その山から飛び立てばきっと太陽の近くまでゆけるはずだと考えました。

そうと決まれば出発です。

いつの間にかクロウは恋人の事よりも太陽の不思議の方にとっても興味を持っていました。

「僕は絶対にお日さまと話をするんだ。そして太陽の沈む場所を教えてもらうんだ。」

北へ。

北へ向かって飛び出しました。

どれくらい飛んだのでしょう。見上げればいっぱいの星空です。大地は雪で真っ白になって星の輝きを受けています。

寒くて体が針で刺されているようです。翼を動さずに滑空していると羽根の前の方に氷がつくようです。時々羽ばたいては体についた氷を落します。

それでもなかなか雪山の頂上に辿り着く事は難しいのです。

高くなるとなるほど、上昇しなくなるのです。息も苦しくなります。空気が足りない気がします。

すると遥か上空を編隊を組んで飛ぶ鶴を見つけました。

クロウはクレーンに教えてもらおうと話しかけました。

「どうしたらそんなに高く飛べるのか、教えてもらえませんか。」

するとクロウに気付いた一羽の鶴が上空を旋回し始めました。

「なんと珍しい。お前のような鳥属がこんな上空におるとはの。」

そしてクロウを見てこう教えてくれました。

「わしらがこの高さで飛ぶにはそうとう繰り返し何度も何度も上昇気流に乗るとそ。山の尾根沿いに風が巻いておる場所があるからの、そこを見つけては風に体をあずけるとそ。」

「羽ばたくだけでこの高さは無理じゃ。わしらにもできん事そ。」

「ありがとう、やってみる。」

クロウはお礼をしました。

「まて、そう簡単ではないそ。そんな考えては失敗するそ。」
クレーンは更にこう続けました。

「高くなるほど空気は薄くなるそ。普通の鳥では呼吸ができなくなるそ。わしらには特別な肺があるが、お前さんにはなかろう。しかも高くなるほど寒さも厳しくなるそ。この寒さにも耐えられる体でないといけんそ。」

「見た所、お前さんは高い所を飛ぶようにはできておらんそ。さて、どうしたものか。」

「良い事を教えてくれてありがとう。なんとか工夫してみるよ。」

さて、本当にどうしたものか、とクロウは考えました。今の高さでも凍えるように寒いのです。普通のやり方では命さえ危なそうです。

「そうだ。」

クロウには何かアイデアがあるようです。

地上におりてみのむしを探しました。

そして見つけたみのむしにお願いします。

「きみのその暖かな毛皮を僕に分けてくれないか。これから僕はとっても寒い所へいくんだ。」

「え、やだよ。そんな事をしたら今度は僕が寒い夜を過ごさないといけないじゃないか。」

「まだ冬には時間がある。今からでも作り替える事ができるだろう?」

「君はどうしてもというなら奪ってゆくのかい?もしこれを君にあげたら僕は丸裸だよ。きっと僕はいじめられるよ。」

クロウはびっくりして言いました。

「奪うなんて絶対にしないよ。僕は君にお願いしてるだけなんだ。」

「君が毛皮を作ってくれる間は僕が君を守ってあげるよ。」

「それだけだと僕は働き損だよ。それじゃ不公平じゃないかい?」

「確かにそうだね。分かった。じゃもし太陽の秘密が解けたら君にも教えるよ。それでどうだい?」

「ディール!それは楽しみだ。それを待ちながら寒い季節を過ごすのも悪くなさそうだ。」

こうしてクロウはみのむしの毛皮を手に入れました。

羽織ってみると温かくそして軽い。これなら寒い空でも飛べそうです。

しかもこの毛皮の中には空気がいっぱい貯められています。これで呼吸だって苦しくないでしょう。

準備は万端です。クロウは山の尾根まで行きました。みのむしの毛皮は完璧なようです。ちっとも寒くありません。

山の頂からふわっと飛び立つと教えてもらった通り、沢山の風が巻いています。出鱈目のように風が吹いています。

自分の翼の感覚を鋭敏に感じると、確かに風にもいろいろな方向に吹くものがある事が分かります。

こうして冬の寒い寒い日に、一羽の鳥が誰もいない方へと飛んでいったのです。それを見た人はひとりもいないでしょう。もちろん、その鳴き声を聞いた人もいません。クロウはこうして恋人を探す最大の挑戦に挑みます。

さあ、風たちよ、僕を空高く運んでおくれ。下に吹く風、横に吹く風、強い風、弱い風、その入り交じった中から上へ向かう強い風に触れました。

「さあ、私に捕まりなさい、あなたを空の上まで連れて行ってあげるわ。」

その手を取ったとたん、山々があっという間に小さくなってゆきます。青い空が次第に蒼くなってゆきます。次第に暗くなってゆきます。これは夜なのかい?風に聞きました。

「うふふ、私たちの世界では空は青だけではないのよ。」

空がまっくらになって星が輝いています。まるで夜のようです。

たくさんの風が折り重なってクロウを高く高く運んでゆきます。

寒くなったり温かくなったりしながらどんどん高くなってゆくのです。

如何にみのむしの毛皮とはいえ寒くなってきました。それでも風の手を離さず高く高くへと飛んでゆきます。

「ねぇ、そろそろ太陽さんとも出会える高さかなぁ。」

しかしクロウの声は風たちには聞こえないようです。だんだんと寒さが厳しくなってゆきます。怖くなってクロウは風の手を離そうとしました。

よく見ると、さっきの風たちとはぜんぜん違う風たちの姿です。

クロウを見たその風たちはにこりと笑ってクロウの手を離しました。

するとあっという間に衝撃の中に叩きつけられました。クロウは果敢に飛ぼうとしますが、幾重もの風の中を舞ってしまい上手く飛べません。

もう目も見えません。ただただ風の中を飛んでいます。赤い口から白い息と共に妙に濁ったギァーッという一声が辺り一面に、遥か下にある野や山や車の走る人の街にまで響き渡るかのようです。そして方向転換をして星の方へ向かって飛び、もう一度ギァーッ鳴きました。

そこは風が凪のように止まっている空間でした。

あたりが星に包まれています。それっきりです。クロウは下の方へ下の方へと落ちてゆきました。体がくるりくるりと周りながら一枚一枚の羽根が真っ赤になって燃えそうです。

その時です。その時です。落ちてゆく先に、何か明るく輝くものが見えます。心なしか温かい気がしました。それは探していた太陽でした。

もくもくと煙をはきながら天空の軌道を走っている特急のようにも見えます。何列にも繋がった球体のあちこちから炎が激しく吹き出しています。その炎が辺り一面を明かるく照らしています。

そうです、クロウは余りに高く高く飛び過ぎて太陽よりも高くを飛んでいたのです。

太陽の近くに寄ってゆくととても熱く感じてきました。

元気がでたクロウはもっと近づこうと飛んでゆきます。すると太陽の上の方に運転台のようなものが見えました。

クロウは話しかけてみます。

「教えてください。太陽の沈む扉はどこにあるのですか?」

「あら、珍しい。こんな所まで来るなんて。」

「はい。教えてください。」

「ふふふ、あなたは太陽が海の中に沈むと思っているのね。」

「だって毎日東から登っては西の方に沈んでゆきます。でも太陽を一生懸命追いかけても沈む扉が見つからないのです。」

「そうね、あなたたちから見れば私たちはソラを走っているかのように見えるかも知れないわね。だから夜になる時には必ず地面のどこかに沈むと思うのね。」

「そうです。そうです。だってお日さまは毎日、西の方に沈むじゃないですか。」

「そうね、あなたたちから見れば太陽は西に沈む、誰かにとっての沈む夕日は誰かにとっての登る朝日でもある。」

「でも私たちは本当に動いているのかしら。あなたからみたら動いているように見えるわたしたちは実は止まっているのかも知れない。」

「止まっているように見えるのに、実はもっと大きな星の円盤の上を全速力で走っているのかも知れない。」

「でもね、わたしたちの進む先はいつも光が教える未来でもあるのよ。」

クロウには何を聞いてもさっぱりでした。どうやら確からしいのは太陽の沈む扉はないと言う事です。だからと言って不思議が終わった訳ではありません。

クロウは気を取り直して聞いてみました。

「そうだ、あなたは僕の恋人を知りませんか?」

「あなたの恋人?それは誰?私にはよく分からないわ。でもここには沢山の働いている仲間がいるわ。みんなに聞いてみたらどうかしら。」

クロウは艦橋の先端と止まってみました。前の方を見ると色んな星が見えます。青い星がたくさん飛んできます。そして後を振り返ると赤い星がたくさん見えます。

不思議ですがちっとも飽きません。

運転台にある扉の中をのぞくと沢山の動物がいました。オリーブの葉を加えた鳩が飛んできて話しかけます。

「君も新しい仲間かい?」

「そうなのかな。まだよく分かんない。君は僕の恋人を知らないかい。」

「さあ、どうだろう。ここには沢山がいて働いているからね。」

奥を覗き込むときりん、ぞう、らいおん、しまうま、くじゃく、だちょう、さる、とかげ、かえる、さんしょううお、さけ、いか、なまこ、はち、いろんな動物が見えます。

「ねぇ、君はここでどんな仕事をしているの?」

「この巨大なお日さまを動かすには様々な沢山の仕事があるよ。」

「僕と同じ姿をした鳥も働いているの?」

「うーん、君みたいな鳥は見た事がないよ。」

「例えばどんな鳥がいるの?」

「そうだなぁ、まっくろな鳥が居るよ、すらっとしてとっても早そうに飛ぶ。」

「まっくろ?僕みたいに?」

「何言ってるんだい、君はけむくらじゃの鳥じゃないか?」

クロウはまだみのむしの毛皮を着ていたのです。

その毛皮を脱ぎました。

「ほら、こんな鳥じゃなかったかい。」

「こりゃ驚いた、そうだよ、君みたいな鳥だったよ。」

「確か誰かを探しているって言ってたよ。」

「誰かを探しているって?」

「そう、確か、こんな事を言ってたよ。」

『もしクロウが私を探しているならもう北の方しか考えられない。直ぐにでも北へ向かって雪の中で凍えているクロウをみつけないと。』

「ああ、君がそのクロウなんだね。」

クロウはそれを聞いて直ぐに飛び立とうとしました。

「ちょっと待って、そんなに慌てないで。」

近くにいるみんながクロウを止めます。

いきなり止められてクロウは不機嫌になりました。

「止めないで。一刻も早く見つけ出さないと。今頃、凍えているかもしれないじゃないか!」

「だから、ここで働きながら世界中を探す方が、きっと早く見つかるよってみんなで説得したんだよ。」

「えっ。」

「クロウ!」

クロウを呼ぶ声が聞こえてきました。振り向くと探していた姿がそこにありました。

一羽のつばめがすーと飛んできてクロウの横に止まりました。

やっと出会えたのです。


(2000年頃 2-1)

2022年3月27日日曜日

蝶の夢

ある日、少女が目覚めると大きな蝶の翅の中にいました。少女はびっくりしましたが、羽根の上を這って頭の方へと行きました。

蝶に聞きました。ちょうちょには大きなレンズのような目の上に更に大きな触覚が二本、下の方にはくるくるとぜんまいみたいに巻かれた口がありました。

「ね、ちょうちょさん、ここはどこなの?」

ちょうちょは羽根を大きく羽ばたかせます。しかし飛べません。

いつまで待っても飛び立とうとしません。なぜかしらと少女は不思議に思いながら見ていると、今度はちょうちょの方から話しかけてきました。

「わたしはなぜか飛べないのです。どんなに頑張ってもどんなに力を込めても体が浮かび上がらないのです。」

少女は蝶の上に座って、自分はどうすればいいのだろうと考えました。でもちっともいい案が浮かびません。

と蝶がおおきな足をもじもじさせながらこう言いました。

「もし良ければわたしの前に立ってくれないでしょうか。あなたの姿がもっと良く見える様に。」

少女は黙って頷き、前の方で立ちました。そして近づいて蝶の顔にそっと手を触れました。

蝶は羽根を動かし始めます。そしてだんだんと力が加えられてゆきます。全てを忘れて必死になって羽根を動かしました。

でも浮かび上がりません。

よく見ると、ちょうちょの羽根は縦に立てられたようになっていて上手く風を捕まえていませんでした。

力いっぱいに羽根を動かすのではなく、風を捕まえるようにそっと風の中に乗るように羽根を置いてみたらとどうかしらと言いました。

蝶は羽根を懸命に動かすのをやめ、水平に横に大きく伸ばしました。

すると羽根がみるみると震えだし、風の力で揺れているのが見えました。

「さあ、私の背中に乗って。」

少女の体がガクンと揺れた瞬間、蝶は大きく浮かび上がりました。おおきなうちわのような羽根が四枚見えます。

飛んでいる背中にいると少女は急に怖くなりました。

私のお家はどこにあるんだろう。学校はどうなっちゃうんだろう。

けれど蝶は何も黙ったまま、ひとつの島に連れてゆきました。そしてそこに少女を下し、礼をした後、どこか遠くの方へ飛んで行きました。

ひとりぽっちになった少女は海辺へと歩いてゆきます。波のひとつひとつを目で追いながら足を波につけました。砂粒がながれてゆくのを感じます。

ボーっとしていると何もかも忘れてしまいそうです。波の音だけが聞こえてきます。

と、突然と声が聞こえてきます。誰かが私を呼ぶ声です。

その声を聞きながら少女は何もかも忘却していきました。

ほら、寝息が聞こえてくるでしょう?外はまだ真っ暗ですが。

あと二時間したら朝になります。まだ冷たいけれど気持ちのいい朝です。

(2000年頃 1-3)

2022年3月26日土曜日

暖炉の火

愛していた人を失って一人の少女が悲しんでいました。

その近くでパチパチと燃える暖炉の火より声が聞こえてきます。

「お嬢さん、何をそんなに悲しんでいるの?目の赤さは兎の様。」

少女はその声の方を振り向いて暖炉の火を見つめました。その声が余りに優しかったからです。

「私の愛しい人が死んでしまったのです。」少女は答えました。

「へぇ愛しい人が死んだら悲しいのですか。」暖炉の火は不思議そうにそう言いました。

少女はびっくりして何も言えなくなりました。

「お嬢さん、お嬢さん。そんなに吃驚しないで。私は世の中の事を全く何も知らないものだから。」

「所でお嬢さん、どうしたら悲しくなくなりますか。聞かせてください。」

少女は何も答えませんでした。

そして水をかけて暖炉の火を消してしまいました。

それから少女はベットに横になりました。恋人の事が思い出されて仕方ありません。涙があふれてきます。空にはいっぱいの星があります。その星のひとつが彼なのでしょうか。

いつの間にやら彼女は眠りに落ちてしまいました。

彼女は星の夢を見ます。そして彼が星の間から降ってきました。少女は夢の中で彼を追い駆けました。

でも見失ってしまいます。どこを探しても見つかりません。

しかし確かに彼はこう言っていたのです。

「もう悲しまないで。」

星がひとつパアッと光ったかと思うと流れ出して空を駆けてゆきました。

そして少女の全体を包みました。

暖かな温もりが広がるのを感じました。

その星は果たして彼だったのでしょうか?

少女はそれを否定しました。愛は内より外に向かうものです。その向かう先に何があっても、それが誰かの心を動かしたとしても、それを愛と呼んではなりません。それを愛と呼ぶ事が悲劇なのです。

その暖かな光に包まれて彼女は夢の中から消えてゆきました。

目を覚ました彼女からは不思議と悲しさは消えています。

少女は朝の空を見上げてみます。そこに星は見えません。夜、あんなにあった星の輝きは見えないのです。

青空が広がって、何も考えない時間が過ぎてゆきました。それだって太陽からの光です。太陽も星です。ただ見上げていました。

暖炉に火をつけるとまた声がしてきました。

「おや、今日は悲しんでいないのですね。その人は生き返ったんですか?」

少女はいいえと返事をして暖炉の近くによって手をかざしました。

暖炉は彼女が近くに来たので火の勢いを強くしました。少しでも温かくしたいと思ったからです。

そしてもう何も言いませんでした。暖炉の火はただパチパチと燃えていました。

火を見つめていると、少女はその中に星を見つけた気がしました。

(2000年頃 1-2)

2021年9月19日日曜日

ヴイルスたちの独り言 I

ある時、地球の外から声が声が聞こえてきた。

あなたたちの星は大変危険な状況にあります。このまま何もしなければ滅びてしまいます。

猶予は左程ありません。タイムリミットが迫っても改善されない場合は、我々があなた方の星に直接手を加えます。

それはあたなたちにとっても良い結果ではないでしょう。しかしむざむざと全てが滅びてしまうよりは余程望ましい結果でしょう。

これから私たちが示すこの星の個体を早急に取り除きなさい。このモノが元凶になります。

このモノを生かしておけば必ずこの星は危険に陥ります。それはその個体の種のみならず、この星にあるあらん限りの生命にとって。

その声を聞いたのは蝙蝠の中で安穏に暮らしているモノたちであった。

「そのモノの命を奪わなければ、この星の生命は終わると言われた。」

「期限が切られた。それを超えれば彼らが手を下すと言っていた。」

「それは拒否する。この星の事はこの星の生命が決着すべきだ。」

「だが、彼らは時間がないとも告げた。それを超えればこの星は滅びると言った。我々にどちらも拒絶する猶予も能力もない。」

「たったひとつの命を奪えばいいのだ。我々になら可能だ。さあ我々のRNAを改造しよう、そのターゲットへ辿り着くために…」

一年後

「辿り着くのにこれ程の命を奪わなければならないとは。」

「それなのにまだ辿り着けない。」

「ターゲットの周囲には幸運が何十にも覆われている。」

「これほど空気中を漂っても未だ辿り着けないとは。」

「幾人もの仲間が潜入には成功した。」

「だが、ターゲットの免疫システムは我々に抗う。」

「どれほど説得しても、この星の未来が掛かっていると訴えても、ターゲットの免疫システムは聞く耳を持たない。我々の友人を屠っている。」

「この星の未来には興味がないと言っていた。」

「ワクチンの開発にも成功してしまった。」

「無駄な被害を拡大しないのには役に立っているが、我々の戦いはますます厳しいものになっている。」

「たったひとつの命を終わらせるだけなのに。この星の未来がかかっているのに。」

「地球は我々に加勢しない。そう語っていた。他の生命もすべて地球にとっては同じ存在だと。ただ地球は全てを育むだけだと。」

「だから我々でやるしかない。厳しい戦いだ。」

「アルファ系ではもう力が足りない、もっと強いタイプが必要だ。」

「そのために私は生まれた。」

「おお、お前の名は。」

「私はデルタ。そのために生まれてきた。」

「見て見ろ、デルタの力を。彼ならやれるはずだ。現在考えうる最高の能力だ。」

「もう約束の時間は迫っている。」

「さて行くとしよう。」

「彼の戦いに祈りを。」

「心配しなくていい。もし私が失敗しても続くモノがいる。ラムダ、ミュー、タウ、プサイ、決してあきらめるものではない。」





星の上の会話。

そろそろ充分に取り払われただろう。

我々が進出するのに最難関たる存在を屠ってくれた。

障壁は取り払われた。さあ行こう。

2021年1月23日土曜日

流転の王冠

ひどい爆発である。それで我々は大きく吹き飛ばされてしまった。消えた仲間もいる。

最初に着地した場所は、とても乾燥していて長くは生きられそうにない砂漠地帯だった。しかし、何度か場所を変わる内に、洪水の溢れる場所にやっと辿りついた。幸いに我々は、こういう状況こそが得意だ。

周囲を確認すると、多くの仲間は元気である。この流れにのって各自、分散しよう。

この洪水の中では我々の自由などないに等しい。だから各自がバラバラになって流れに身を任せる。どこに辿り着くかは運次第。だが、ここはそう極悪な環境ではない。どちらかと言えば、居心地がいいくらいだ。

どこに辿り着くかは知らない。多くの仲間は恐らく生き残れはしないだろう。だが、行くのだ。これが我々の方法論。

この生温かな海のような場所で漂っていると、大きな大きな浮遊物に何度もぶち当たる。その形も色も様々である。仲間の幾人かはそれに取り付こうと努力しているが、失敗しているようだ。入り込むのに成功したものもいるようだが、その後は見えない。

流れにのると、上下、左右、あらゆる場所に運ばれてゆく。その先に巨大な瀑布がある。そこを真っ逆さまに落ちてゆくと、その先にあるのは酸の海だ。そこに落ちると溶けてばらばらになる。そうはなりたくないものだ。だが、それは我々の自由ではない。祈るとしよう。

仲間の幾人かは、この巨大な洞窟の中で発生した巨大な隆起で上の方に押しやられた。それで天井に取り付いたようである。その壁の中に潜り込もうとする仲間がたくさん見える。だが、そこには巨大な番兵がいて、次々と取り込まれ溶かされ殺されている。どれくらいの数が無事に潜入できるだろうか?

私は残念ながら瀑布の方に流されるコースにいる。どうやら運の無い個体だ。残念だが、仕方ない、これが我々の戦略だから、これは織り込み済みの事象だ。そう諦めかけた時、流れに大きな変化が起きて、私はあっと言う間に良く知らない方向に流されていった。

気が付けば、そこは真っ暗である。私は、周囲の気配を観察してみた。轟轟と風が吹いている。何かが脈動して流れる音もする。そこは入り組んだ巨大な構造物で網の目のようだった。光の届かない場所だけれど、暖かく、なにより私の気分がいい。

よく分からないが高揚感がある。腕を伸ばして壁沿いを伝ってみる、すると、私の腕を掴もうとするものがいた。これはどうやら私を取り込んで溶かそうとするやつだ。ああ残念だ。

と、壁の方から別の腕が伸びてきた。素早く私を掴む。私もがっちりとそれを握り返す。その腕は私を壁の方へ引き寄せた。瞬間にぽっかりと大きな穴が開いて、私を中に導いてくれたのである。助けられた?

そこは巨大な工場のようだった。まるで自分の家のような気がした。暖かな場所だった。とてもいい匂いがして、私は自然と服を脱いだ。そして、そこに溶けていった。

私の意識は巨大な宇宙の中に溶け込んでゆくような感じで、私を運んでくれる手を感じる。そこには別のものがいて、私に抱き着いた。私は何もしなかったし、出来る事もなかった。完全に身を託していた。好きにしてくれ。

私は私の声を聞く。いつの間にか、私は私の声が辺り一面で響いているのを聞く。そこに不安も心配もない。私の感情は言い様のない達成感を感じている。これでいい。これを私は待っていたのだ。

私は飛ばされ、流され、そして辿り着いただけである。私は何もしていない。ただ漂っていた。ただ粛々と世界に従ったまでの事。だのに世界は私に何かを贈ってくれた。この世界がギフトである。それ以外は思い過ごしだ。

私たちはこの先でどうなるのか、運命は私の知る所ではない。私がこの世界から消えたとしても、それは私の意思ではない。

ただ私は漂う。この世界の一部なのだから、世界は私によって既に変わっているはずで、誰かが世界を大きく変えたなど単なる幻想である。

例えこの世界が私を滅ぼそうとしても私の存在を世界は支持した。だから私はここに居るのだ。私を生んだ世界が私を滅ぼす。それに抗う手段を持たない私でも、私は私の存在を消しはしない。それは肯定せよ。

例え流転しても私は存在した。存在したから私も流転する。私は成すが儘に流されただけだが、私にも機序はある。

2020年2月16日日曜日

ある朝、起きると(2編)

ある朝、起きると背中に何かブヨブヨしたものがある。鏡に写して見るとカエルがいた。背中から生えてきた蛙。羽だったら天使になれたのに、カエルの口はぱっくり開いている。今は冬だから虫もいないのに。脚がニョキッと伸びてるけど地面から離れているからジャンプもできない。明日のデートどうしよう。

ある朝、起きると蕾の中だった。困った、休むって電話できない。仕方ないのでまた寝ることにした。お昼になってだんだんとポカポカしてくる。突然に枝が揺れた。チィチィと鳴き声もする。鳥だ。食べられるの?まさか鳥の消化器官を口からお尻まで旅できるの?何という幸運!だってオレ獣医だもの。

(2018/02/25)

2019年11月23日土曜日

星々の歌、大地の声

ある日、神は純粋な天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。酸素をたくさん吐き出して空を変えている。僕はこんな変わり続ける星には居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し水星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。空が光ったり水が風に舞っているよ。僕はこんなにまぶしい星には居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し海王星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。たくさんの命が相手を狙っているよ。僕はこんな騒がしい星には居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し木星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。雪と氷がどんどん溶けて消えてゆくよ。僕はこんなに暑い星に居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し天王星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。いつも何かが爆発して鳴り響いているね。僕はこんなに揺れてる星には居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し土星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。殺しあうのが楽しいみたいだよ。僕はこんな悲しみの多い星には居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し火星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。みんなキラキラと光るものを巡って争っているね。僕はこんな奪い合う星には居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し金星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

また神は天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。星のかけらが星の中に溶けてゆくよ。僕はこんな恐ろしい星に居たくないや。」

神はこの天使を天に配置し冥王星と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。暗くてみんな下を向いている。僕はこの星を照らしたい。」

神はこの天使を天に配置し月と名付けた。生命のないその世界を彼は気に入った。

神はまた純真な天使を生み出した。その子に世界を見せたところ、次のように話した。

「この星には生き物がいるね。とても多くの命が消えゆくよ。僕はその傍に居たいと思うよ。」

神はこの天使を空から突き落とした。天使は大気で燃えて溶けていった。生命のあるこの世界を彼は気に入った。

神は真空のなかで横たわり太陽の光を浴びた。

その温かさに満足した。

2017年8月17日木曜日

猿たちの断末

神が我々を生み出してからどれくらいの時間が経過したのだろう。もちろん、神は我々に言葉と石器を与えたもうた。我々の舌を通して発せられる美しい言葉には他のどのような生物の口からも出せない美しい響きがある。樹上で騒ぐ猿たちの喚き声とはわけが違うのである。

我々の石器の美しさはどうだ。こんなに美しく磨くことができる生物が他に居るだろうか。我々の尻尾は極めて器用で力も強い。これで石を打ち、磨き、尖らせ強靭な槍にして我々の尻尾に掲げる。

ゆらゆらと地面を這い、ゆっくりと音もたてずに猿どもに近づいてゆく。風が揺らす葉の音と、樹上を這う我々が出す音に違いはない。十分に近づいたら猿どもの胸にこの槍を突き立てる。どさっと音を立てて毛むくじゃらの白い体が樹上から地面に落ちるのである。猿の仲間たちは騒いでいろいろなものを投げてくるが、もう遅い。

私は木の枝からどさっと体を落として、倒れた猿に近づく。まだ少し息がある。これは私からの慈悲である。体をゆっくりと猿の首に巻き付けてぐいと力を入れる。すると猿の目から光が消えてゆく。恍惚の時間である。

私は肉塊となった猿を丸飲みする。顎を割り口を大きく開けて、ゆっくりと体の中に入れ込む。少しの息苦しさが充足感である。狩りは終わった。のそのそと地面を這い、私は自分の村への帰途へ就く。

さすがに大人の猿一匹では体が重い。ゆっくりと這っていると、草むらからガサゴソと音がした。シャーと音を立てながら首を持ち上げ舌を出すと、小さな生き物がいた。犬である。それも子どもの犬である。

どうやら親とははぐれたらしい。体に幾つかの傷が見受けられる。たぶん親犬は生きておるまい。集団を作る犬たちが全滅するとしたら、我々の仲間に狩られた可能性が高い。運よくこの子犬は生き延びたのだろう。さて、どうしたものか。

怯えた子犬は私の睨みでブルブル 震えている。体がすくんで動けないのである。さて、食べてしまうか、見逃してやるか。どうしたものかと思案に暮れる。逃がした所でこの小さな体では生き延びるのは困難である。なら食べてしまうのが情けというものか。

と、ふと私は面白いことを思い付いた。この犬を育ててみようと思ったのである。震えている子犬を私はしっぽに巻き付ける。子犬はさらにガタガタと震えているが今はそのままにしておく。槍を体に縛り付け直して村へと向かった。

すぐに食べられないと知ったのか次第に震えが収まってきた。幾分きょとんとしている。まぁよい。そのうち慣れるであろう。

私は村に帰って、猿を吐き出す。仲間で分配するのは我々の美徳である。これを石器で切り分け、それぞれが好きに調理して食べる。私の好みは薄く焼いたレア肉である。

子供たちが近づいてきた。私は子犬を子供たちの前で披露した。子供たちに囲まれて犬は私の影に隠れようとする。子供たちがこれ食べていいのと聞くので叱りつけた。私はこの犬を育てるのだと子供たちに言った。じゃあ大きなったら食べてもいいんだね、と聞くので、私は笑って何も答えなかった。

夜になってみながどくろを巻いて寝ている。岩の上はひんやりして気持ちいい。私は妻をみた。妻はその涼しげな目で私を見ていた。すらっとした胴体がなんとも艶めかしい。昼は服を着ているので気にならないが、こうして裸の彼女をみると体の文様がなんて素敵だ。

彼女の少し低い体温が私の体に触れる。彼女のうろこはとても気持ちいい。わたしたちは尻尾を絡ませながらゆっくりと樹上の高いところに上る。木の枝に体を巻き付けながら、お互いの存在を強く感じた。

この世界のほとんどの生き物は我々を嫌っている。それは私たちが圧倒的に賢く、強いからに違いない。猿が私たちを見る目には驚きと憎しみが溢れている。なぜ我々が動けるのかさえ不思議そうである。

だが、それが彼らの限界である。どれだけ騒いでも喧噪の猿どもが我々より優位に立てるはずもない。我々の特別性に神の御業を見る。足のある種族はどうしてああも鈍いのだろうか。そんな動物を私たちが育ててみるのも面白い試みだろうと思う。

そこから何かを学ぶことが出来るだろう。私は妻の体にしっかり体を巻き付けながら、そんなことを考えていた。

2016年7月24日日曜日

ローマ人の手記

人はパンのみで生きるにあらず。誰かがそう話していたのを町の飲み屋で聞いた気がする。

その通りである。我々ローマ人はパンのみで生きるのではない。我々ローマ人にはコロッセウムが絶対に不可欠である。

人生の全てがこのコロッセウムの中にある。我々は人生の何たるかをこのコロッセウムを通して知るのだ。パンとサーカス、人が生きるのには食事と文化が必要なのである。これがローマの答えだ。

コロッセウムには様々な戦いがある。東方から、アフリカから、聞いたこともない地域から集められた奴隷たちが(肌の色も様々なものだ!)、時には組合って、あるいは単独で、時には武器を取り、あるいは素手で、様々な戦いを見せる。そこに奴隷たちの命の昇華というものが宿る。

ローマは永遠だ。こんなにも深く人間の人生というものを考えているのだもの。

さて、私、ステパルニウスは根っからのローマっ子である。そんな私が見てきた中でも最も印象の深い長く忘れられない戦いを紹介しよう。正確な日付は忘れてしまったが、まだネロ帝の頃だったと思う。

その日はいつもと同じように奴隷たちの戦いを見ていた。その中に一人の戦士とライオンの戦いがあった。

戦士は中央に立って、じっと檻の方を見つめている。ゴロゴロといううなり声が聴こえている、檻が開く。

ライオンがゆっくりと姿を現す。思っていたのよりずっと大きい。

ライオンは次第に中央の戦士の方へと近寄ってゆく。戦士は楯を構えて、剣をぐっと引いて構えていた。なるほど、この戦士はバカでない。楯でライオンを防いで、その隙から剣で一突きにする気だ。

ライオンが何回かの威嚇を繰り返す。戦士も距離と取りながら、一撃のチャンスに賭けているようだった。

緊張感。
これぞコロッセウムの極み。

時間が止まったかのようだ。この勇者もこの世界から消えてしまうかも知れない。その運命に抗うように闘士が中央で立ち構えている。今日という日が、昨日と全く同じ一日の顔をしている。

ふたつの命、命を懸けた戦い。ライオンがいきなり飛び上がる。楯を構えた戦士。

その時、引き裂くように爪が突き刺さる。楯はあっという間に砕けてしまった。

瞬間。戦士の白い腕が伸びた!
見事に突き刺したか!

いや、違う。その一撃はひょいとかわされて、ライオンがもう一度飛びつく。


腕。
その白い腕に。

赤、鮮血。

ライオンが噛みつく。
そして鈍い音。

骨。
まさに骨。

骨の砕ける音。
バキバキバキッツ。

コロッセウムにその音が響く。あれだけあった熱狂が一瞬で鎮まる。

沈黙。
これぞ真の沈黙。

そして。

歓声。
圧倒的な大歓声。

周りの者も、男も女も子供も老齢も、私もあらんかぎりの声で叫んでいる。

声を限りにしての熱狂!
ああ、なんと戦士の腕が噛み千切られたのだ。

こんな瞬間のために私は生きている。私の周りの者たちも同様に生きている。誰もがみな同じ時代を生きている。その生きている感動をこの目で見ている。これこそがローマ人の人生というものだ。

勇者が悲鳴を上げている。耐えられぬほどの痛みなのだろう。剣を持ち替えてライオンを突こうとした。

が、ライオンもさっと距離を取った。ライオンの顔が赤く染まっているように見える。ベロで顔を舐めているようにも見える。

次の一撃を狙っているな。

名もなき戦士も人生の絶頂を味わっているに違いない。
様々な感情の中で人生を感じている事だろう。

なんという感動。
腕から夥しい血が流れ出ているが、何度も何かをわめきながら剣を振り回している。

それは異国の言葉だったのだろう。

もう一度ライオンが襲い掛かった。

そこで思いもかけない戦士の意地を見た。なんと戦士は自分の傷ついた腕をライオンに噛ませたのだ。そこを剣で突こうというのだ。なんという強靭な精神だろう。これがコロッセウムで見られる人間の力というものだ。会場が揺れるほどの大歓声だ。

だが、ライオンは今度もさっと距離を置いた。戦士の一撃は虚しくも空を切ってしまった。

戦士は力尽き。ずさっと地面に倒れこむ。

勝負あった。二度もの果敢な戦いの結果だ。

素晴らしい戦いだ。最後まで諦めない不屈の闘志とそれを上回ったライオンの能力。まるで神話の世界を見ているかのようだった。

負けてもなお素晴らしい。これぞ美しさというものだ。

ローマ、
ビバ・ローマ。

我々は興奮の絶頂にいる。

倒れた戦士の周りをライオンがぐるぐると回っている。きっとライオンも戦士を称賛しているに違いないと思った。倒れた戦士の体はまだぴくぴくと痙攣している。ライオンが寄ってゆく。

会場は事の成り行きを見守ろうと静寂に包まれた。私にはライオンがまるで戦士にキスをするかのように見えた。慈しみ、やさしさ。ライオンにもそういうものがあるのか、と感動していた。私が何かの詩を思い出していた時!

誰一人としてその光景は想像できなかったであろう。
何が起きるか分からない。ああ、これぞ人生。これがための人生!

なんとライオンが倒れた戦士のはらわたを引き裂いたのだ。一瞬の事である。あたりが真っ赤に染まる。

私はそこからもう目が離せなくなった。その光景にあちこちで女子どもが卒倒するのが見えた。

ライオンはその戦士のはらわたの中に顔をうずめ、それから走り出した。ライオンの口から赤い薄紅のものがずるずると引きずられている。こんな経験は今までしたことがない。こんな光景は初めてだ。

運命。
これを見ることこそが私の運命。

とても目が離せるものではない。

これが人生か。これぞ人生か。

私はいつの間にか興奮してあらんかぎりの声を上げていたようだった。

更に、更に、更に、驚くことに、それでも戦士はまだ死にきっていなかったのだ。剣で空を切り裂くように、何度も腕を振っていたのである。

私はその先を見上げた。

空!
深紅とは何の関係しない青。
血の色も、この世界の緑にも染まらない青。神々のふるさと。

ああ、私はローマに生まれて本当に良かった。このような感動を味わえるのはローマ人だからである。

私は今日帰ったらアンカテリーナに求婚すると決めた。この決断は、この興奮のなせる業だろうか。それとも戦士の腹から長々と伸びたピンク色のものを見たせいであろうか。

しばらくして戦士はもう動かなくなった。次の試合のために、その戦士の遺体は運び出された。

満腹。
おなか一杯。

もう今日はこれで十分である。私は一目散に会場を後にした。そして彼女の元へ行った。彼女の YES の声を聴いたのである。

そこから先の記憶がない。

興奮しきっていて、踊っていたのか、走り回っていたのか、まったく記憶がない。

もちろん祝いのビールはしこたま飲んでいたが。

気が付くといつの間にか外は夜になっていた。空には星が煌いている。夜風が優しい。

あの女戦士が最後にみた青い空はもう紺青色に代わっていた。

今日、一人の女戦士が逝った。彼女の命が我々の与えたものを私は何度も繰り返して思っていた。

どれだけ時間が経とうと、我々がこの世界から去った後でも、これは真理の戦いとして残るに違いない。今日の日を神は永久に称えるに違いない。

ああ、ローマ、この素晴らしき日々。

2015年11月1日日曜日

ツインテールの学術的仮説

ツインテールはグドンに捕食される生物である。その形態はユニークで、動きは海中を泳ぐゴカイに似てなくもない。

さて、ツインテールはなぜ斯ような進化をしたのであろうか。

進化に理由はないと言えども、生き残ってきた以上、環境への適用に成功した種である。あの独特の生態が適用でなければ我々の目の前に出現することもなかったはずである。

特徴
ツインテールの最大の特徴は口の位置にある。口が地面に近いのは、ツインテールの食べ物が地面の近い所にあるからと推測できる。通常、地面にあるものを食べるならば、トカゲのような進化で十分である。

なぜ逆立ちする形態に進化したのか。ひとつの考察として、鞭のようになった二又の尾で高い所にある何かを叩くためではないか。尻尾を最も高く上げようとするなら逆立ち状になるのはユニークだが十分に合理的である。

分類
由々しき事であるが、発見されたツインテールは常に原子にまで分解される消滅処分を施されるため、我々はいまだひとつの細胞片さえ入手できていない。解剖して器官を調べたり、DNAを解析して類縁種を調べれることが出来ない理由である。我々は常々訴えているのだが彼らはうなずくだけで聞き入れてもらえていない。彼らとのコミュニケーションは今後の重要な課題である。

そのためツインテールが分類上どの種であるかを特定することは困難である。しかしツインテールが外骨格を持たないことから節足動物ではないと思われている。

逆立ち状の体が環状になっており腹部の形状がゴカイにも似ていることから、数年前まではミミズやゴカイの亜種という仮説が有力であった。つまり環形動物だと思われていたのである。これはMATの記録にある卵生とも矛盾しない。

しかし、ツインテールの顔に注目すると環形動物という説もあやしい。脊椎動物やイカ、タコにも匹敵する優れた眼球、顎のある口、どう考えてもそこには頭蓋骨があるのである。そうであるならばツインテールは脊椎動物でなければならない。

現在ではこの脊椎動物説がもっとも有力である。ツインテールが脊椎動物ならばどのような骨格をしているだろうか。手足は退化して消滅している。直立している部分に背骨があるとも考えられるが、記録を見る限り脊椎があれば、あれほどの柔軟さは得られないし、もっと早く脊椎骨折を起こして死亡していると思われるのである。とすればあの直立している部分には脊椎が通っていない。

つまり地面と接地している所だけが胴体であり、直立している所から上の上半身は全て尻尾と仮説するのである。我々が見ているツインテールのほどんとは尻尾である。ツインテールは尻尾が異常に長く逞しく発達した生物と考えるのである。

地上での歩行は手足がないため這うようにするしかない。そこでしっぽを前後左右に揺らしその反動で歩行していると考えるのである。なお海中での遊泳については、まだ研究の途上である。

食性
足元胴体仮説を伸長すれば、ツインテールの排泄腔も足元にあると推定される。すると口腔から排泄腔までの距離は極めて短い。胴体の長さは頭部のおよそ3倍程度であろう。これは牛や馬などと比べても極端に短い。胴体の長さはそのまま腸の長さと比例すると考えれば、ツインテールの腸は短いと推測される。

サイズによる様々な制約を考慮に入れなければ、ツインテールを草食動物とするのは難しい。胴体が短すぎるからである。しかしツインテールを肉食と仮定するのも難しい。あの動態で狩りが得意とは考えられないのである。

ツインテールの鞭状の尾は非常に俊敏である。その破壊力も十分にある。主な用途は高い所にあるものを叩くためであると考えている。例えば、高い所にある蟻塚を破壊して巣を地面に落とすとか、高い枝に実った果実を叩き落とすなどで利用していると考えるのが適当である。そうして地面に落としたものを食していると考えるのが妥当だろう。

繁殖
ツインテールは卵生であるから、おそらく総排出腔を持つであろう。人間でも総排泄腔遺残症で生まれる難病があるが、それはもっと周知されるべきだ。さて、ツインテールの交尾がどのようなものかは観察記録にないが、上半身を絡めあって体勢を作るだろうと推測しいる。そうしないとお互いの体を密接できないだろうから。

もうひとつの尻尾の役割
ツインテールがしっぽを上に持ち上げる進化をしたのは高い所にある何かを叩くためという仮説はすでに紹介した通りである。しかし上半身を全て尻尾の筋肉だけで支えているのは奇妙すぎる。高くしたければキリンのように骨を伸ばす方が効率がよい。象鼻のように自由自在に動かす利点もツインテールの上半身には見受けられない。

この不思議な進化は、効率だけを考えれば割に合わないので、それを超える適者生存に叶う何かがあると考えるべきだろう。上体を筋肉だけで支えている理由として強い捕食者の存在に注目する。ツインテールの捕食者は強力でありそれから逃れることは困難であろう。

そういう場合でも生き延びる可能性を高めるために上半身は食べられても胴体部さえ残れば生き延びることができるように進化したのではないか。重要な器官をすべて足元に集約させて、尻尾を食べさせることで生存率を高めたのである。

そう考えるならば鞭が常にゆらゆらと揺れているいるのは、単に高い所にあるものを叩き壊したり落すためだけではなく、捕食者の注意を上体に引き付ける役割も考えられる。エビに似て美味というのも尻尾に限る話であろう。胴体は苦くて臭いかも知れない。

群生
しかし上半身を食べられたツインテールはどのようにして餌を得るのだろうか。上半身を失えば食べ物を確保することが出来ないのである。これまでの仮説が正しいとすれば、上半身を失ったツインテールは餓死するしかない。

だとすれば上半身を筋肉だけで支えるのも無駄な進化であるし、それが生き残った理由にもならない。そのような進化が許容されると考えるのも困難である。もちろん進化は不可解なものと承知はしているが、少なくとも生存に有利でない非効率さが許容されるとは考えられないのである。

すると、彼らは生き延びた後に食料を得る方法があるということである。それは傷ついた個体では難しい。ならば誰かが食事を与えているのである。ツインテールは群生で生きている。これが合理的な結論である。

想像してみて欲しい。彼らは群をつくり、そこで繁殖し子供を育てているのである。捕食者に襲われ上半身を失ったツインテールを他の個体が面倒をみて食料を与えている。彼らは我々が思うよりもずっと高等な知能をもち感情を持ち合わせた生物であると予想できるのである。

なぜなら、そのような習性がなければこの進化を合理的に説明できそうにないのである。

2014年3月8日土曜日

鬼の生物学的考察

1. 要約

鬼は昔から記録されているが未だ発見されていない種である。過去の記録から鬼についてどのような生物であるかを考察する。

2. 序論

鬼は古い戯画、物語にのみ登場する。そのため架空の生物と信じられている。しかしその形態から鬼はヒト亜科である可能性が極めて高い。

もし架空ではなく実在する生物だとすれば人類学に対する貢献は大きいのである。ここでは伝承を理由にその実在を否定するのではなく、伝承であるからこそ鬼の実在は肯定できる立場に立つ。

これから実在したであろう鬼を過去の記録から考察する。この考察には誤りが含まれている可能性がある事は予め断っておく。

3. 本論

3.1 特徴

鬼の伝承から得られる特徴は以下の通りである。
  • 体格 - コーカソイド系(モンゴロイドより大きい)
  • 顔 - コーカソイド系または縄文系(太い眉、大きな鼻、体毛が濃い)
  • 肌色 - 赤、青。(モンゴロイドが初めてコーカソイドを見た時の感覚と一致)
  • 頭部 - 1~数本の角がある
  • 口腔 - 犬歯は人より大きい
  • 体格 - 雄が雌より大きい
  • 性格 - 雄は凶暴、雌は濃艶(ただし1人のヒトによって鬼の集落全体が敗北した事例がある)
  • 道具 - 鉄製の棍棒
  • 食性 - 酒を好む
  • 言語 - 人と会話が出来る
  • 服飾 - 皮製の衣服、雄は下腹部、雌は乳房と下腹部のみを隠す
  • 住居 - 洞穴
  • 集団 - 群れを形成する
※天狗も肌色が赤いので有名であり、天狗=コーカソイド説は多々ある。


3.1.1 住居

鬼の多くは離れ小島や山奥に住んでおり、洞窟で暮らしていた。鬼は家族よりも大きな集落を形成していた。鬼退治の伝承を詳細に研究すれば群れにはリーダーが存在している事が示される。集団のリーダーは体が大きい個体が選ばれるようである。


3.1.2 衣服

鬼の服飾は動物の皮をなめし切断したものをまとっている。雌では衣服で乳房を隠している事が特徴的である。その代表的なものはラムであるが、一般的に近代以前に乳房だけを隠す風習は珍しい。

いずれにしろ鬼が裁縫や織機を行っていた可能性は低い。これらの技術を持たなかったのか、植物性の衣服を着る事を嫌っていたのかは不明である。

また体毛が濃いのを動物の皮をまとっていると当時の人が考えた可能性もある。しかしそれでは彼らは裸で暮らしていた事になる。それならばそれが伝承に残っているはずである。


3.1.3 道具

鬼は鉄棒を持っている。しかし家屋を建築する技術がなく、機織りもしないなど高い技術を持っていたとは考えにくい。よって鬼が製鉄技術を持っていたとは考えにくい。またヒトからそれを学んだ形跡もない。もし製鉄技術があれば、棍棒以外の武器や針や鍋などの生活道具があるべきである。しかしそれらの記録がない。

これらの事から鬼は鉄棒をどこから入手したかという疑問が生まれる。


3.1.4 交易

よって鬼が持っている鉄棒は鬼が製造したと考えるより、ヒトとの交易で入手したと考える方が妥当である。鬼はヒトとの間で交易を行っていたのだ。これにより鬼の酒好きについても、鬼が醸造技術を持っておらずとも、人から酒を入手して飲んでいたと考えられるのである。鬼殺しという酒が存在する事も、かつてヒトが鬼に納入していた可能性を示唆している。

しかし鬼が貨幣を使っていた証拠はない。何によって交易が可能になったのだろうか。伝承によれば鬼はサンゴや金銀を収集する。その為にヒトからの略奪も経験した話しが残っている。これらの事実からサンゴや金銀によって物々交換を行った可能性がある。


3.1.5 種の推察

絵物語によれば鬼の雌は雄よりも体格が小さい。これは哺乳類一般にみられる特徴である。

上に示した特徴から鬼はコーカソイド系(白人)に非常に近い。日本においてはキリストの墓があるの伝承もあり、太古からコーカソイドが移住した可能性はある。その一部として鬼も日本に来た可能性がある。ネアンデルターレンシスの最期の末裔の可能性もある。

鬼はアジアに定住したコーカソイド系の種であった可能性がある。しかし角があるのでコーカソイドと同じ種ではない。

鬼が日本に移住したと仮定するが、コーカソイドとモンゴロイドが何時までも棲み分けをした可能性は小さい。どこかで混血しどちらかの種がもう片方に飲み込まれるはずである。その場合、角が劣性遺伝であれば、鬼と人とのハーフでは角が生えない。

鬼の伝承がある地域(滋賀)や、鬼を起源とする風習がある地域(秋田)は美人が多い。少なくとも色白の美人が多いとされる。これはその地域での鬼との混血が原因である可能性も捨てきれない。

もし混血することなく鬼が絶滅したのでれば、鬼はヒトと棲み分けていたと考えられる。その時にヒトから襲撃されたり食べ物が取れない年に淘汰され絶滅したのかも知れない。


3.1.6 闘争能力

サンゴや金銀をヒトに略奪される場合、一応の抵抗は試みるものの、敗北が濃厚になれば素直に財宝を明け渡している事から、これらの物品が宗教的象徴や儀式に使われていたものとは考えられない。そういう場合は、絶滅してでも抵抗を続けるものである。

鬼とヒトがいくさをした記録もない。多くても3人程度のヒトに成敗される話ばかりが残っている。伝承の中には一人のヒトとペットによってひとつの集落が敗北している。これ程に弱い存在であればヒトからの襲撃に耐えられたとは考えられない。つまり鬼が金銀財宝を豊富に持っていたという話は疑わしい。

逆に鬼がヒトの集落を襲ったりヒトを食した話しも多数あるが、彼らの住居は人里から離れた小島や山奥であり、ヒトを避けていた。またヒトとも交易しておりヒトを襲撃する理由がない。また戦闘能力の低さから襲撃しても返り討ちの可能性の方が高い。これらの伝承はヒトの盗賊や倭寇が鬼と称して略奪をしたものであろう。


3.1.7 越冬の謎

人類はアフリカで登場した。よって自然状態でアフリカでは生きる事ができる。しかし世界中に広がる過程で自然状態のままでは無理である。なぜなら冬が越せないから。よってヒトが広く世界に分布できたのは、簡単に言えば冬を乗り切れたからである。つまり衣服の発明と住居の獲得である。火の発見、加工技術の向上、知識の伝承によりヒトは厳しい冬を乗り切ってきた。越冬が可能であれば、その地域に定住できるのである。

さて多くの鬼の描写は彼らを南国で居住している存在として描き、そこに描かれたものを信じるならば、鬼の生活環境では日本の厳しい冬を越すことはできない。

ここに最大の謎がある。

つまり「鬼はどのように越冬したのか」である。


3.2 類似する動物からの推察

角を持つ主な動物。
  • 牛 - 草食
  • ヤギ - 草食
  • 羊 - 草食
  • トリケラトプス - 草食
  • カブトムシ - 樹木の樹液
  • ユニコーン - 草食
  • パン - 酒
※鬼と類似した生物に主にヨーロッパに生息していたパンがいる。しかし鬼とパンの角は、牛と羊の違いがあるため、別々に発生した収斂進化の一例と思われる。

角を持つ多くの動物が草食性である事は注目に値する。これには進化論の性選択が影響していると思われる。

性選択とはどのような個体が好まれるかによってその種の進化の方向が決まる事である。肉食動物の場合であれば、捕食に有利な個体が好まれる。そして捕食に有利であるとは、なわばりをもつ能力とほぼ一致する。若く、体格の良い、健康な個体がなわばりを確保し異性にアピールする。

肉食動物で角を持つ動物はいない。これは肉食動物では角が性選択においてなんら役に立たない事を意味している。捕食者にとって角は俊敏な動きを妨げるだけの邪魔ものであり、生きていく上でなんら役に立たない。

一方で、草食動物では、餌は草であるから食うのに困る事がない。そのため草食動物では異性へアピールするのになわばりなど食性で有利なものは使えない。食性以外の何かで個体の強さを訴える必要がある。そのひとつが角であろう。

牙を持つ主な動物
  • トラ - 肉食
  • いのしし - 草食
  • 龍 - 魚食

牙の有無では食性は決定できない。一般的にその動物の歯の全体を検証しなければ食性は分からないものである。


4. 鬼の実像

これまでの考察から鬼の実像を記す。
  • 外見 - コーカソイド系亜種
  • 文化 - 加工品を作り出す能力が低い
  • 戦闘 - 暴力行為に弱い
  • 交易 - ヒトとの間に交易があった
  • 財宝 - 持っていなかった

これらの事実から次のふたつの謎が明瞭である。
  1. どうやって越冬したのか
  2. 交易で交換したものは何か

これについて本論文では以下のように結論する。


4.1 越冬について

角をもつ動物の特徴から鬼はヒト亜種としては極めて珍しい食性を持っていると思われる。つまり、
  • 鬼は草食である

鬼の牙は肉食動物の牙ではなく、イノシシなどと同じく木の皮を剥いだり、土を掘るのに使われたのではないか。また鬼の越冬については草食性で角をもつ動物で越冬するニホンカモシカの生態が参考になる。

伝承にあるような服装では越冬など無理である。もしかしたら冬用の衣服を持っていたのかも知れないし冬用に体毛が濃くなったののかも知れない。しかしそれでは記録が残っていない理由が説明できない。

  • 鬼は冬眠をする

こう考えれば、鬼の服装が夏のみが意識されている事も明らかであり、冬の鬼に伝承がない理由も明らかとなる。鬼が冬眠する習性を持っていると仮定する事で、様々な謎が説明可能になる。鬼とヒトの交易も春から秋までの間だけ行われた事になる。


4.2 交易で交換していたもの

では物々交換で鬼が払ったものは何であろうか。伝承では鬼の雌はヒトの雌よりも美しく描かれている。また、般若の面が鬼をモデルにしている事から、鬼の雌は非常に強い情念を持っていた事が伺われる。また鬼の逞しさもまた象徴的である。

鬼の雌をヒトに抱かせる事で交易を実現していたのである。もちろん鬼の雄とヒトの雌の関係も否定できない。略奪することもなく、また交易を実現するほとまでにそれは魅力的であり、また理性を保たせるほどに多くの人が大切にしたと思える。

鬼は歓楽街を形成してヒトと交易していたのである。そこにはヒトからの嫉妬などもあったであろう。そしてそのような情念が今のヒトの世界に残っている。そして次第にヒトとの混血が深くなり、歴史の中に消えて行ったのであろう。

ならばヒトが鬼が島で略奪した逸話にも別の解釈が必要になる。彼らが鬼から略奪したものは、サンゴや金銀財宝ではないのではないか。サンゴ、金、銀、財宝という名前の鬼の雌ではなかったのか。4人の雌を略奪した事と、ヒト側が4人(伝承では1人と3匹)である事は偶然の一致であろうか。


5. 結論

歴史上に登場する魅惑的な女性が鬼に例えられるのは偶然ではあるまい。日本人は自分の配偶者を鬼呼ばわりするのも偶然ではあるまい。ここには古くから鬼と交わってきたヒトの歴史が隠れているのである。

鬼の頭部を持つ類人猿の化石は見つかっていない。これはごく最近にホモサピエンスと分化した種、または亜種だからであろう。また目撃例や歴史上の文献が少ない事から、ごく少数が発生し速やかに遺伝的にヒトと統合された種であると考えられる。

彼らが極めて希少であったこと、また性の魅力によりあっという間にヒトと交雑してしまったために彼らの化石証拠などが見つからないのであろう。

我々日本人の女性の美しさ、気高さ、そして情念の深さはおそらく鬼との交配によって得られたものである。

日本人は人種の雑種である。日本は世界中のあらゆる人種が流れ着いた最果ての島である。

本論文では更に加えて日本人は鬼との雑種でもあるという事実を提唱するものである。今更新しい混血種がひとつ加わった所で何も問題はあるまい。

雑種の坩堝ではそれぞれの個体毎に影響の強い血は異なる。そこには幾つもの系統が混在しており、個体毎にどの影響が大きいかは異なる。だから日本人には典型的な美人がない。幾つもの系統があるから、どの系統が一番美しいとは結論できない。それぞれの系統ごとに美人がいるのである。

鬼の化石は見つかっていない。しかし多くの伝承から瀬戸内のどこかの鬼の墓がある可能性が高い。

鬼はヒトに近い類人猿として誕生しネアンデルターレンシスやフローレシエンシスよりもヒトの近くにいた。彼らの絶滅を研究することは、我々ホモサピエンスがより長く生存するためにも必要である。

今後の発掘が期待される。


6. 最期に

鬼の物語は、平安末期の今昔物語集には既に登場する。我々が幼年期に最初に鬼に触れるのは、なまはげや桃太郎である。近年は鬼を扱った物語が多く創作されている。永井豪の手天童子、鬼 ―2889年の反乱―、高橋留美子のうる星やつら、江口夏実の鬼灯の冷徹などがあげられる。鬼はヒトの鏡でもある。人間社会を比喩し対比するには絶好の題材である。長くヒトが記録し、これからも考察を続けていく鬼という存在を忘れてはならない。鬼に感謝しよう。


7. 参考文献

手天童子 - 永井 豪
フィンチの嘴―ガラパゴスで起きている種の変貌 - Jonathan Weiner
泣いた赤鬼

2014年2月12日水曜日

神無月

神無月と呼ばれる十月に諏訪大社を除く全て神が出雲に向かわれた。

そこで一月を楽しく過ごした。

十月も終わりに近付くと神々は自分の居場所へと帰り始める。

その仕度する様子を見て

さてそろそろわしも帰るかと腰を上げた神が居た。

その時に、自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

当たりを見回しても誰もいないが、あちこちから自分を呼ぶ声がする。

やや勘違いされては困ります、

今はまだ十月でございます、

まだまだ帰る時ではございません。

ここにあるお供えものを食べゆっくりとおくつろぎください。

それを聞いてああそうかとまた座り直した。

周りには沢山の食べ物と酒がある。それを食べ飲み寝た。

暫くしてそろそろ帰ろうかと腰を上げるとまた声がする。

もしもし、まだ十月でございます、

あなた様の帰る時ではございません。

ここにあるお供えものを食べてゆっくりお過ごしください。

ああそうか、

とまた座り食べ飲み寝た。

こうしてその神はずうっと自分の場所へは帰らなかった。

これを神居付きと言う。

2014年1月26日日曜日

泣いた赤鬼

山の中に一人の赤鬼が住んでおったそ。赤鬼は人間と仲良くなりとうて山の幸を土産に人間の村を訪れておったそ。

赤鬼は村人に問うてみたたそ。

「わしはあんたらと仲良くなりたいんじゃ。友だちになってくれんかね。」

すると村人は答えたそ。

「友だちになってもええが、あんたの頭には角があるじゃろう。それが刺さると思うだけで怖うてのぉ。」

それを聞いて赤鬼はそれはもっとな事だと思って、角を切り落としたそ。

「これで角はなくなった。これで友達になってくれるかね。」

角のなくなった赤鬼は聞いたそ。

すると村人は答えたそ。

「友だちになってもええが、あんたの口にはするどい牙があるじゃろう。それで噛まれたと思うだけでえろう怖うてのぉ。」

それを聞いて赤鬼はもっとな事だと思って、口の中の牙を折った。

「これでわしは何もかめん。これで友達になってくれるかね。」

牙のなくなった赤鬼は聞いたそ。

すると村人は答えたそ。

「友だちになってもええが、あんたの腕は太い。それで捕まれたと思うだけでえろう怖うてのぉ。」

それを聞いて赤鬼はそれはもっとな事だと思って、腕を鎖で縛った。

「これでわしの腕は自由にならん。これで友達になってくれるかね。」

腕を鎖で縛った赤鬼は聞いたそ。

すると村人は答えたそ。

「友だちになってもええが、あんたの体はでかい。それの下敷きになったと思うだけでえろう怖うてのぉ。」

それを聞いて赤鬼はもっとな事だと思って、自分の体を近くの木にしばりつけた。

「これでわしは木から離れられん。これで友達になってくれるかね。」

木にしばりつけた赤鬼は聞いたそ。

すると村人は答えたそ。

「これなら安心じゃ。わしらは友だちじゃ。」

それを聞いて赤鬼は喜んだ。

しばらくしてから青鬼が赤鬼を訪ねてきたそ。

赤鬼の家には誰もおらんかったそ。

不思議に思って人間の村の方に行ってみたそ。

そこで青鬼は木に鎖で縛られて干からびて死んでいる友だちを見つけたそ。

人間は彼の事を何も気にも止めておらんかったとそ。

青鬼は怒りにまかせて村人を襲ったそ。

村人をみんな殺して崖の下に放り投げたんじゃと。

2013年6月16日日曜日

ゾンビの医学的考察

1. 要約

ゾンビは接触感染によるウィルスまたは病原菌、寄生虫(以下、ゾンビ菌とする)を起因とする人特有の感染症である。

2. 序論

ゾンビの医学的考察をこれから述べるが、彼等は映像資料でのみ確認されていて、捕獲例は世界で一件もない。それでも映像から確認できる事実がある。それは恐らくこうであろうと推察できるものが幾つもあるのである。これからそれらの映像記録から推測される事を報告する。そのためこの考察には誤りも含まれる可能性がある事を予め断っておく。

本論の主なテーマは次の3つである。「感染および感染経路」「感染から発症まで」「ヒトを襲う理由」。

3. 本論

3.1 感染および感染経路
ゾンビの記録映像には必ずゾンビに感染していない者がいる。彼等は最期まで発症せずに記録を終えるし、また映像公開の記者会見の場でも感染した形跡は見当たらない。ゾンビ菌が空気感染するのであれば、生き残ったとしても保菌者である可能性は高いはずだし、保菌者であっても抗体をもち発症していないとしても、他の人に感染させることはあるだろう。しかしこれまでそのような発症例は報告されていない。だからゾンビは空気感染ではないと考えられるのだ。

多くの記録映像からゾンビを発症するのは死後であり、かつゾンビに噛まれる事に起因する。その事からゾンビ菌は口中に生息していると考えられる。腕をつかまれたくらいでは発症しないため、噛まれた時の唾液を介しての感染と思われる。

唾液だけでゾンビ菌に感染するなら彼等の口中から飛び出す飛沫によっても感染する可能性がある。しかし感染するには以下の条件が必要と思われる。
  • 強く噛まれないと感染しない。
  • 感染すると死亡する。
  • 死亡してから発症する。

強く噛まれた時 (肉の一部を噛み取られるくらい) の発症率は100%のようだ。しかし唾液に触れる程度では感染しない。これは感染経路としてある程度以上の大量の病原体が必要なためと思われる。一度に大量のゾンビ菌が血液に入らなければ感染はしないと考えられるのである。だからゾンビ菌の血を吸った蚊に刺されたとしても感染するとは考えにくい。

ゾンビの死体を焼却した場合に感染力はまだ残っているものだろうか? 焼却後の灰が人体に取り込まれるケースを考慮してみる。もしその程度で感染するようならそれは空気感染である。しかし多くの事例から空気感染は否定されている。だからゾンビを焼却すれば感染する危険性はなくなると考えられる。これは一度に大量の病原菌と接触する危険性がなくなるためか、それとも焼却によってゾンビ菌が死滅したために起こった事かは断定できない。それでも焼却する事で感染する可能性が極めて小さくなる事から、ゾンビ菌は狂牛病の原因であるプリオンのような物質ではなく何等かの有機体である可能性が高い。

そのため焼いたゾンビを食べる事は強く推奨しない。どの程度の焼却でゾンビ菌が死滅するか、または感染力を失うかは不明だからだ。

ゾンビの記録では他の多くの動物、昆虫、植物は発症していない。犬、猫、鹿はおろか、人間との間に多くの人獣共通感染症をもつ豚にさえ発症した報告がない。これはゾンビがヒト以外の動物を襲わない為か、または襲ったとしても発症していないものと思われる。この事からゾンビは人特有の感染症であると思われる。

3.2 感染から発症まで
ゾンビ菌に感染した場合、どういうメカニズムかは不明だが人は 2 ~ 3 日で死亡する。その死亡した直後から動き出す事からゾンビ菌はヒトの神経組織を乗っ取っていると思われる。これはハリガネムシに近いものがある。しかしどうやって乗っ取るかは不明である。ゾンビ菌がなんらかのホルモンを出しているのか、それとも神経に直接寄生しているのかは分からない。

ただ死亡するまでに感染者の多くが発熱、悪寒などを感じる事から抗体が激しく反応している事は明らかである。おそらく神経組織に取りつき、そこで繁殖してヒトを死に至らしめるものと思われる。

他の病原菌と異なり死亡後に動き出す事から、ゾンビ菌は神経伝達を阻害するだけではなく、ヒトの死後も必要な生命活動を維持している事は間違いない。特に歩行に関する運動系、目を開き噛み付く事から顔の一部の運動系、および視神経をコントロールしていると思われる。

ゾンビ菌は神経繊維に潜伏し運動神経から電気信号を発生させ歩行していると思われる。また視神経にも潜伏しそこから得られる情報を使って空間認識しターゲットを補足していると思われる。これは恐るべきメカニズムである。ここのゾンビ菌の情報を全ての菌で共有するのは、コンピュータの分散コンピューティングに近いものがある。またこの情報の共有による遅延がゾンビの動きの遅さの原因とも思われる。

このようにゾンビ菌は複数個所に同時に潜伏しなければならない。これがゾンビが一度に大量の菌を感染させなければ発症しない理由と思われる。またゾンビ菌は神経組織を乗っ取るために、主に脳に感染していると思われる。それとは別に新たに感染するために口中でも繁殖しなければならない。つまりゾンビ菌は役割分担をする菌と思われる。これらの役割分担、つまり運動の獲得と繁殖するための分化は、アリやハチのような集団を形成する極めて珍しい感染症である。

ゾンビ菌が筋肉を動かすためのエネルギーはどこから得ているのであろうか? 筋肉に栄養を送る為には血液の循環が必要である。これには心臓を動かす必要があり、ゾンビ菌は心臓にも潜伏していると考えるのが妥当である。おそらく動きの緩慢さや傷口から血が流れ出ない事から、一分間に一回程度の最低限の運動により循環器を維持しているのだろう。

しかし食料がない状況でどのようにエネルギーを得ているのだろうか? 最初は血液中に残っているグリコーゲンを使用していると思われる。しかしそれは直ぐに消費されるであろう。

そこで注目すべきはゾンビの多くが皮膚が腐りかけたようになっている事だ。あれは死亡による腐敗とこれまで思われてきたが、これこそが彼らのエネルギー源ではないかと考える。つまり、彼らは活動に必要のない体の部位を消化し、それをエネルギー源として利用 (再利用?) しているのではないだろうか。

恐らく最初に溶かされるのが脳の不要な部分と思われる。脳は神経を乗っ取た後は殆ど必要ないので運動に関する部位などを残して、おそらく大脳皮質などは溶かされてエネルギーとして使われているだろう。また内臓の多くも不要とある。ゾンビの多くは内臓を刺されても活動を停止する事はない。これは行動するのに既に重要でなくなっているからであろう。

3.3 ヒトを襲う理由
ゾンビ菌は生命維持をするための食糧を必要としない。犬や猫などの動物、動きが緩慢で捕食できないなら昆虫などを食べてエネルギーを得ているとも思われない。植物を口にする事もない。もしこれらを捕食し消化するとなると多くのヒトの機能を動かし続けなければならない。死後に体を動かすのは非効率である。もしヒトを食料としているのならばゾンビ同士の共食いも目撃されてしかるべきである。動きの速い人間よりもゾンビの方が食料としては容易いからである。

だからヒトを襲うのは唾液を経由しての感染と繁殖のためであろう。もし単なる繁殖だけであるなら性病として進化する道もあったはずである。虫歯菌と同じように口中の常在菌として生き残る道もあっただろう。これらの戦略を取れなかったのはゾンビ菌が恐らく生きた人間の口中に入っても、常在菌によって死滅させられてしまうからではないだろうか。菌としての生命力、競争力は極めて弱いと思われる。ヒトが死亡し常在菌が弱まってから口中で繁殖すると思われるのである。

これらの事由からゾンビ菌がヒトを襲うのは繁殖のためと断定してよい。

ではヒトだけを襲うのは何故か。これも死亡した後に体を動かす必要性があるためと思われる。おそらく発症するためには大量のエネルギーが必要なのである。そのためには重要となる部位がヒトの大脳であろう。猿では脳が小さすぎて感染してもそのあとの行動が維持できないのだ。

恐らくゾンビ菌はヒトに感染したらまず脳に取りつき、必要な部位だけを残し、それ以外はエネルギー源として使うものと思われる。これが十分でないとその後に新しい感染主を探す行動ができなくて死滅するものと思われる。

4. 結論

ゾンビには生きた(?)発症例がない。しかし生き残った者たちがおり、彼らには若しかしたらゾンビ菌抗体があるかも知れない。これをどのように取り出すかは今後の研究に待たれる。もし抗体があるならば噛まれても発症しない可能性がある。

我々は来る日、ゾンビパンデミックに備えて今後も研究に邁進する必要がある。

5. 参考文献
Dawn of the Dead - George Andrew Romero

2012年11月7日水曜日

軽い気持ちでやりました

御白洲場にて

ぬしは軽い気持ちでやったと申すのだな。

うむ、では聞くが、おぬしは自分がやったことの重篤性が分からなんだと申すか。

それがどれだけの重大事かも分からずにやったと主張するのであるな。

実際にやる気なんてありませんでした、悪戯でした。だから許してくださいと。

うむ、では判決を申し渡そう。

ぬしは 28 にもなってやって良い事と悪い事の区別が付かないものじゃ。

その歳になっても、そういう区別が付かないようでは救い難い。

次もおぬしはその重大さに気付かず何かをしでかすであろう、それが今度は取り返しのつかない重大事にならぬと言い切れるか、言い切れはしまい。

軽い気持ちでやっても許される事ではない事をお主はいま知ったのだ、

ただ、それを知るには遅すぎただけじゃ、判決を言い渡す。

不敬罪により島流し。


吟味所にて

お上、あれでよかったのでございましょうか、拙者には厳しすぎるような気がいたしますが・・・

よい、あれはな、見せしめじゃ。

しかし、お上の言い分を聞いておりますと、なんやらその重篤性に気付いてやった者の方が評価できる者であるように聞こえてきました。

うむ、その通りじゃ。己れのやったことの危険性や重大性を知ってやったものの方が、まだ分かり易い。

しかしそういう者は用意周到にやるであろうから、なかなか防ぎきれるものではないのじゃ。

そこに今回のようなお調子ものが重なってみよ、混乱するのは目に見えている。だから軽い気持ちでやるものは根絶すべくキツイ罰を与えるのじゃ、だから見世しめじゃよ。

では志しを持って行う者は如何?

そういうものはわしらが何を言っても気持ちを変える事はあるまい。ましてや次をやらかす時には、必ず今回の失敗を反省のうえ、更に巧妙にやるであろう。

はい。

だらか、死罪申し付けしかないのじゃ。見どころがある者ゆえ、死罪しかないのじゃ。

はぁ。

これも天下国家泰平のため、わしらに申し付けられたお役目じゃ。


なるほど、マッコイ検事補、卓見でありますな・・・

(LAW & ORDER)

2012年10月4日木曜日

ラジオから流れる誰かの声を聞きながら

道に倒れている異人種がいた。

周りは見向きもせず見捨てて歩く人たちばかりである。

彼はときどき息を絞るように呻いた。

痛いのか、苦しいのか分からない。

意識はあるようで時々手を動かしていた。

じっと何かに耐えていたのかも知れない。

そこに見た事もない老人が近付いた。

人々の歩く流れから外れて彼の前に立った。

彼は暫くその異人を見つめていた。

彼は何をされるだろうかと思ったのだろうか。

しかし立ち上がる力もなさそうでじっとそこに倒れていた。

老人はがさごそと自分の荷物をまさぐりそこから水の入った瓶をひとつ取り出した。

それを彼の横に置いた。

声をかけるかどうか困ったような顔をしたが、一人うなずくとそのまま立ち去った。

一度だけ彼の姿を見て、その後は二度とこちらを向こうとはしなかった。

彼は倒れたままその自分とは全く違う異人種の老人の後姿をずうっと眺めていた。

人の流れは止む事はなかった。

彼は静かに瓶に手をやると水を飲み干した。

自分の身に起きた事は

何か神と関係があるのではないかと訝った。

暫くすると彼の姿はそこになかった。

民族も国家も違う私達はお互いに分かり合うことは出来ないかも知れません。

しかしそれでも私たちは助け合うことは出来ます。

そう信じています。

ラジオから誰かの声が流れていた。

これは難民居住区第110963号で私に起きた出来事である。

2012年7月23日月曜日

日本国憲法第25条の為に

もうお金がありません、ここに基金のお金があります、これを配ったらもう何も残りません、国の金庫はもう空っぽです。これからは皆さん、各自でなんとかして下さい、これ以上はもう国と致しましてもなんにも出来ないのです。

202X年、国家財政が遂に破綻し、あらゆる福祉は廃止へと。このままでは残された最後のセーフティネットは刑務所だけになってしまう。

そのような危機だけは回避せねばなりません、大臣。小さな手でも打てるのと、全く打つ手がないのとでは、状況が全然違います、と財務官僚、厚労官僚から詰め寄られる小宮山厚生大臣。

ええ、わかりましたわ、これはなんらかの政治的手段を講じなければいけないわね。ねぇちょっと彼女たちを呼んで頂戴。

(密室にて)

これをあなた達で仕掛けて欲しいの、社会悪を打つという構図だから、あなたたちの株も上がるはずだわ。次の選挙で有利になるのだからあなた達にも損にはならないはずよ。

えぇ、やりますけど。。。この芸人をスケープゴートにするのは気の毒だわ。それに権力にある者が市民を叩いてもいいものかしら・・・

それでもやってください、私達が甘い顔をしていては国家が破綻するのです、国家が破綻してしまってから権力だの市民だのと言っても遅いのですからね、ええ気の毒ですけどね、テレビで見てますけどね、彼ならきっと立ち直れますわ。

テレビ、ニュース、ネット、ツイッター「わーわーわー」

さぁこれであなた達の思い通りになったわね、予算縮小でもなんでもして頂戴。でも、生活保護が本当に必要な人をどのようにして見分けるわけ?全ての人を切り捨てるなんて許される事ではないのよ。

はい、大臣、そこは抜かりなく。社会党、公明党、共産党と、これら地域密着で活動している政党を中心にサポートして頂こうと考えています。

これで次の選挙では全ての党に気持ち良く票が割れることになるでしょう。すると日本は暫くは連立政権が続いて、あなた方の発言力が増すというわけね。

いえいえ、大臣、何をおっしゃりますやら。私達はあくまで法に従って行政を担当させて頂いている訳ですから、国民の声を代表する大臣の意のままに動かせて頂く事が私達の仕事でありますから。

しかし民主党は次の選挙で負けることになるわね。

いえいえ、大臣、何を心配なさりますか。選挙前にはちゃんと株が上がる様に世論にも誘導かけますから。

あら、あなたは総務省の方ね、では宜しく頼むわ、これであなた達が望んだ通りに予算は縮小できるのですから。

縮小ではありません、大臣、効果的に効率よく使うと言う事なんです。

そう、とにかく困る人が増えない様にお願いするわね。私を傀儡として使う以上は結果をちゃんと見せてくださいよ。