愛していた人を失って一人の少女が悲しんでいました。
その近くでパチパチと燃える暖炉の火より声が聞こえてきます。
「お嬢さん、何をそんなに悲しんでいるの?目の赤さは兎の様。」
少女はその声の方を振り向いて暖炉の火を見つめました。その声が余りに優しかったからです。
「私の愛しい人が死んでしまったのです。」少女は答えました。
「へぇ愛しい人が死んだら悲しいのですか。」暖炉の火は不思議そうにそう言いました。
少女はびっくりして何も言えなくなりました。
「お嬢さん、お嬢さん。そんなに吃驚しないで。私は世の中の事を全く何も知らないものだから。」
「所でお嬢さん、どうしたら悲しくなくなりますか。聞かせてください。」
少女は何も答えませんでした。
そして水をかけて暖炉の火を消してしまいました。
それから少女はベットに横になりました。恋人の事が思い出されて仕方ありません。涙があふれてきます。空にはいっぱいの星があります。その星のひとつが彼なのでしょうか。
いつの間にやら彼女は眠りに落ちてしまいました。
彼女は星の夢を見ます。そして彼が星の間から降ってきました。少女は夢の中で彼を追い駆けました。
でも見失ってしまいます。どこを探しても見つかりません。
しかし確かに彼はこう言っていたのです。
「もう悲しまないで。」
星がひとつパアッと光ったかと思うと流れ出して空を駆けてゆきました。
そして少女の全体を包みました。
暖かな温もりが広がるのを感じました。
その星は果たして彼だったのでしょうか?
少女はそれを否定しました。愛は内より外に向かうものです。その向かう先に何があっても、それが誰かの心を動かしたとしても、それを愛と呼んではなりません。それを愛と呼ぶ事が悲劇なのです。
その暖かな光に包まれて彼女は夢の中から消えてゆきました。
目を覚ました彼女からは不思議と悲しさは消えています。
少女は朝の空を見上げてみます。そこに星は見えません。夜、あんなにあった星の輝きは見えないのです。
青空が広がって、何も考えない時間が過ぎてゆきました。それだって太陽からの光です。太陽も星です。ただ見上げていました。
暖炉に火をつけるとまた声がしてきました。
「おや、今日は悲しんでいないのですね。その人は生き返ったんですか?」
少女はいいえと返事をして暖炉の近くによって手をかざしました。
暖炉は彼女が近くに来たので火の勢いを強くしました。少しでも温かくしたいと思ったからです。
そしてもう何も言いませんでした。暖炉の火はただパチパチと燃えていました。
火を見つめていると、少女はその中に星を見つけた気がしました。
(2000年頃 1-2)
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