ある日、少女が目覚めると大きな蝶の翅の中にいました。少女はびっくりしましたが、羽根の上を這って頭の方へと行きました。
蝶に聞きました。ちょうちょには大きなレンズのような目の上に更に大きな触覚が二本、下の方にはくるくるとぜんまいみたいに巻かれた口がありました。
「ね、ちょうちょさん、ここはどこなの?」
ちょうちょは羽根を大きく羽ばたかせます。しかし飛べません。
いつまで待っても飛び立とうとしません。なぜかしらと少女は不思議に思いながら見ていると、今度はちょうちょの方から話しかけてきました。
「わたしはなぜか飛べないのです。どんなに頑張ってもどんなに力を込めても体が浮かび上がらないのです。」
少女は蝶の上に座って、自分はどうすればいいのだろうと考えました。でもちっともいい案が浮かびません。
と蝶がおおきな足をもじもじさせながらこう言いました。
「もし良ければわたしの前に立ってくれないでしょうか。あなたの姿がもっと良く見える様に。」
少女は黙って頷き、前の方で立ちました。そして近づいて蝶の顔にそっと手を触れました。
蝶は羽根を動かし始めます。そしてだんだんと力が加えられてゆきます。全てを忘れて必死になって羽根を動かしました。
でも浮かび上がりません。
よく見ると、ちょうちょの羽根は縦に立てられたようになっていて上手く風を捕まえていませんでした。
力いっぱいに羽根を動かすのではなく、風を捕まえるようにそっと風の中に乗るように羽根を置いてみたらとどうかしらと言いました。
蝶は羽根を懸命に動かすのをやめ、水平に横に大きく伸ばしました。
すると羽根がみるみると震えだし、風の力で揺れているのが見えました。
「さあ、私の背中に乗って。」
少女の体がガクンと揺れた瞬間、蝶は大きく浮かび上がりました。おおきなうちわのような羽根が四枚見えます。
飛んでいる背中にいると少女は急に怖くなりました。
私のお家はどこにあるんだろう。学校はどうなっちゃうんだろう。
けれど蝶は何も黙ったまま、ひとつの島に連れてゆきました。そしてそこに少女を下し、礼をした後、どこか遠くの方へ飛んで行きました。
ひとりぽっちになった少女は海辺へと歩いてゆきます。波のひとつひとつを目で追いながら足を波につけました。砂粒がながれてゆくのを感じます。
ボーっとしていると何もかも忘れてしまいそうです。波の音だけが聞こえてきます。
と、突然と声が聞こえてきます。誰かが私を呼ぶ声です。
その声を聞きながら少女は何もかも忘却していきました。
ほら、寝息が聞こえてくるでしょう?外はまだ真っ暗ですが。
あと二時間したら朝になります。まだ冷たいけれど気持ちのいい朝です。
(2000年頃 1-3)
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