ひどい爆発である。それで我々は大きく吹き飛ばされてしまった。消えた仲間もいる。
最初に着地した場所は、とても乾燥していて長くは生きられそうにない砂漠地帯だった。しかし、何度か場所を変わる内に、洪水の溢れる場所にやっと辿りついた。幸いに我々は、こういう状況こそが得意だ。
周囲を確認すると、多くの仲間は元気である。この流れにのって各自、分散しよう。
この洪水の中では我々の自由などないに等しい。だから各自がバラバラになって流れに身を任せる。どこに辿り着くかは運次第。だが、ここはそう極悪な環境ではない。どちらかと言えば、居心地がいいくらいだ。
どこに辿り着くかは知らない。多くの仲間は恐らく生き残れはしないだろう。だが、行くのだ。これが我々の方法論。
この生温かな海のような場所で漂っていると、大きな大きな浮遊物に何度もぶち当たる。その形も色も様々である。仲間の幾人かはそれに取り付こうと努力しているが、失敗しているようだ。入り込むのに成功したものもいるようだが、その後は見えない。
流れにのると、上下、左右、あらゆる場所に運ばれてゆく。その先に巨大な瀑布がある。そこを真っ逆さまに落ちてゆくと、その先にあるのは酸の海だ。そこに落ちると溶けてばらばらになる。そうはなりたくないものだ。だが、それは我々の自由ではない。祈るとしよう。
仲間の幾人かは、この巨大な洞窟の中で発生した巨大な隆起で上の方に押しやられた。それで天井に取り付いたようである。その壁の中に潜り込もうとする仲間がたくさん見える。だが、そこには巨大な番兵がいて、次々と取り込まれ溶かされ殺されている。どれくらいの数が無事に潜入できるだろうか?
私は残念ながら瀑布の方に流されるコースにいる。どうやら運の無い個体だ。残念だが、仕方ない、これが我々の戦略だから、これは織り込み済みの事象だ。そう諦めかけた時、流れに大きな変化が起きて、私はあっと言う間に良く知らない方向に流されていった。
気が付けば、そこは真っ暗である。私は、周囲の気配を観察してみた。轟轟と風が吹いている。何かが脈動して流れる音もする。そこは入り組んだ巨大な構造物で網の目のようだった。光の届かない場所だけれど、暖かく、なにより私の気分がいい。
よく分からないが高揚感がある。腕を伸ばして壁沿いを伝ってみる、すると、私の腕を掴もうとするものがいた。これはどうやら私を取り込んで溶かそうとするやつだ。ああ残念だ。
と、壁の方から別の腕が伸びてきた。素早く私を掴む。私もがっちりとそれを握り返す。その腕は私を壁の方へ引き寄せた。瞬間にぽっかりと大きな穴が開いて、私を中に導いてくれたのである。助けられた?
そこは巨大な工場のようだった。まるで自分の家のような気がした。暖かな場所だった。とてもいい匂いがして、私は自然と服を脱いだ。そして、そこに溶けていった。
私の意識は巨大な宇宙の中に溶け込んでゆくような感じで、私を運んでくれる手を感じる。そこには別のものがいて、私に抱き着いた。私は何もしなかったし、出来る事もなかった。完全に身を託していた。好きにしてくれ。
私は私の声を聞く。いつの間にか、私は私の声が辺り一面で響いているのを聞く。そこに不安も心配もない。私の感情は言い様のない達成感を感じている。これでいい。これを私は待っていたのだ。
私は飛ばされ、流され、そして辿り着いただけである。私は何もしていない。ただ漂っていた。ただ粛々と世界に従ったまでの事。だのに世界は私に何かを贈ってくれた。この世界がギフトである。それ以外は思い過ごしだ。
私たちはこの先でどうなるのか、運命は私の知る所ではない。私がこの世界から消えたとしても、それは私の意思ではない。
ただ私は漂う。この世界の一部なのだから、世界は私によって既に変わっているはずで、誰かが世界を大きく変えたなど単なる幻想である。
例えこの世界が私を滅ぼそうとしても私の存在を世界は支持した。だから私はここに居るのだ。私を生んだ世界が私を滅ぼす。それに抗う手段を持たない私でも、私は私の存在を消しはしない。それは肯定せよ。
例え流転しても私は存在した。存在したから私も流転する。私は成すが儘に流されただけだが、私にも機序はある。
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