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2012年10月8日月曜日

宇宙戦争 序論

銀河を大海原としての戦争について議論を始めるには我々の科学力では時期尚早である。しかし内太陽系を海原とした海戦であれば十分に考えうるにあたる。

その戦争で使われる戦闘艦にはどのような能力が与えられどのような目的を達成するべきであろうか。それを建造する社会的背景や要請は何であろうか。これは架空の物理学者によって提出された妄想の論文である。

宇宙軍の創設
国家が陸軍、海軍、続いて空軍を持ったように宇宙軍は創設される。衛星軌道上の軍事的テリトリーは空軍をもって担うが、その外については宇宙軍が管轄する。それは人類が月、火星を活動範囲として宇宙生活を始めた事を証明するものである。大気圏内からの対応では衛星軌道上のテリトリーを防衛できないと見做された時、宇宙側からこれを防衛する任務を与えられるのである。

当初の宇宙軍の創設は地球軌道上の防衛を目的とした。主に地球軌道上の衛星を防衛する事であった。生活圏が月、火星、コロニーへと拡大するにつれ防衛の主体は地球圏外の生活住環境へと変わった。

もちろん各国は多くの条約と外交により宇宙空間の領土を平和裏に策定してきた。それでも資源や日照権の争いから領土境界で紛争が起きないとは言えない。

宇宙では難民を生み出さない。戦場の民間人は食料、水の補給が絶たれる前に酸素の欠乏により多くは死に至る。この非人道さが紛争を抑制してきたのは事実である。軍隊同士の小さな戦闘でさえ市民の住環境への配慮は最大の誠意を持って行われた。幾つかの例外的な事故を除けば宇宙を住環境とする市民が戦闘の巻き添えになる事は避けられてきた。

いずれにしろ宇宙軍は軍同士の小競り合いが中心となり大規模な戦闘は回避される。宇宙軍は領土境界の防衛および宇宙事故への救難が主たる任務となる。どちらかと言えばコーストガードである。


主な宇宙住環境と宇宙軍
月面に初めて宇宙基地が建設されたのは2032年、NASA による火星有人宇宙船中継基地としてである。それは始め細いロープを渡し次第に太くしていくように何度も繰り返し月との間を往復し建設された。最初は 6 名のチームとそのための住環境であったものが 12 名、24 名、50 名となり、5 年後には 100 名を超える当時としては巨大な中継基地になったのである。彼らは地下に空洞を作りそこに住居施設を建造した。

月への資源輸送の前線基地をなったのは、地球軌道上に建設された資源コロニーである。最初は宇宙ステーションへの物資運送を地球から行っていたが、後に氷で出来た小惑星を利用して基地化した。水を太陽光発電で水素と酸素に電気分解しスペースカーゴの燃料とした。火星軌道内にも幾つかの小天体が見つかっておりそのうち氷を主成分とするものは宇宙資源として次々と採掘されるようになった。

これらの天体の存在が、月や火星の開発を促進した。地球の重力に抗して資源を宇宙空間に運ぶ事はコストの面からも効率の上からも莫大な負担を強いる。生活と燃料のふたつを宇宙空間で手に入れることで宇宙開発は爆発的に加速した。これらの宇宙資源は最初は政府の手で、宇宙進出が進むにつれて民間の手で採掘されるようになった。今やコメットハンターと呼ばれる民間企業が火星軌道の外にまで鉱物、水などを求めて進出している。


連邦国家と宇宙軍
人類が統一国家を持った場合には軍隊は不要であり治安機構としては警察があれば十分である。よって宇宙軍が存在するという事は地球には統一国家はなく複数の国家群が存在している証拠である。もし漫画や SF のように宇宙防衛軍が異星人を敵とするのであれば話は別だが、幸か不幸か未だに宇宙軍の仮想敵は同じ地球上の国家である。

宇宙を生活圏とする人類が増えるにつれて行政単位の規模が変わっていった。地球上の国家と遠く離れた為、法体系、税収、予算についても独自のルールが必要になったのだ。そこで宇宙の行政区は地球の国家に属す都市でありながら分権された自治区、地球の連邦として存在する。月や火星にはアメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリス、ドイツ、日本の連邦都市(国家)が存在しており、コロニーを建設しそこに自治都市を作った国家も多くある。


戦闘艦の諸元
一般に宇宙戦闘艦の主力兵装はミサイル、高エネルギーレーザーである。レーザー兵装は高エネルギーの粒子を当てて敵の装甲を燃焼する。レーザーは光速で到達するのでレーダーであれ何であれ事前に検出することは不可能である。周囲が明るくなった瞬間には被弾している。発見してから回避する事は困難である。

ただレーザーは電磁波の集合体であり磁場やプリズム、鏡を使い屈折させる事ができる。これで直撃を回避したり周囲に水分子を散布しエネルギーを拡散させ被害を軽減する防御システムが開発されている。

宇宙空間における戦闘では空気やチリなど途中を邪魔するものがないためレーザーは有力な兵器であるが、防御システムを施された戦闘艦に対しては直撃でも効果が薄い。そのため防御装甲の死角を狙撃するか最初にミサイル等で防御システムを破壊してから使用するのが一般的である。レーザーの狙撃システムでは単艦だけでなく複数艦が連携して多方面から狙撃する戦術がある。

戦闘艦が相手の位置を探知したとしてもレーザー発射するまでには数秒のタイムラグが必要である。そのため攻撃した時には相手艦は探知した場所にはいない。敵艦の移動位置を正確に予測するためコンピュータを使って相手の位置を予測する。その候補は多い時で数百になる。そこから他の観測情報で補正した場所に攻撃を実施する。

防御側は相手の想定した位置を外す事で攻撃を避ける事ができる。航路コンピュータはこの考えに基づいて数百の航路パターンからランダムにひとつを選び航路を決定する。攻撃側は敵の予想進路を複数個所同時に攻撃する事で命中確率を高めようとする。

このように戦闘中の艦艇は頻繁に進路を変更しジグザグに進む。攻撃の為にレーザー攻撃を頻繁に複数個所を同時に射撃するなどエネルギーの消費量は莫大である。戦闘を長時間継続して行うのはエネルギーの確保の点から困難であり、それを可能にしようとすれば艦艇を大型にしなければならない。しかし大型にすれば被弾の可能性も高くなるのである。

戦闘艦はこれらの考えから複数攻撃を専用に行う大型艦と小回りが可能な小型艦の二種類が建造された。地上で一般的に使われるミサイルや砲弾のような兵装は宇宙では補助的な兵装である。ミサイルなどは敵の装甲を破壊するには有益な武器であるがデブリを大量に生み出す欠点がある。

地上の艦隊、航空編隊、戦車部隊、潜水艦などと違う点は、宇宙空間には上下がない事である。地上の戦闘では如何なる事があれ破壊されれば重力に従い地面に落ちる、または沈む。宇宙空間では破壊された時の力によって決まりどこへ飛んでゆくか予測は付かない。

大量のデブリは友艦にとっても危険であるし戦闘終了後に戦場を汚すだけでなく慣性で飛び散ったデブリが民間船へ危害を与える可能性も無視できない。よって戦闘では敵艦を爆発させたり粉々に破壊する事は避けるべきである。宇宙空間における戦闘とは敵艦の破壊とは熱攻撃により装甲に穴を開ける事であり破壊する事ではない。

戦闘艦に搭載されたミサイルは地上のものとは異なり粘着性の物質で敵艦の主要施設を包み込み攻撃手段を奪うために使用される。レーザーと比べてミサイルは鈍重で当たり難いため無人の追尾システムを搭載したものや敵艦に接近し発射する小型の有人ポッドが開発されている。

ミサイルは地上のように空気抵抗を考慮する必要はなく、敵艦を自動追尾するために全方向ロケットノズルを配置した球型である。これに対して防御側は迎撃するための複数の手段を用意する。電磁パルス(EMP)による電子回路の破壊や針状の突起物を出し直接的な接触を避ける。優れた電子機器はお互いの攻撃を効率よく回避するので攻撃はまるで将棋の王様を詰めるようなものである。

我々の知る兵器は全て大気圏の制約から生まれたものである。空気抵抗、水の抵抗、重力、気候、地勢、生物、生態系。宇宙での戦闘にはこれらの制約の多くは不要である。よって宇宙を航行する艦艇はナマコやウニのような形をしている。全方向への移動を可能にするため多数のノズルを多方向に配置し色は背景の暗闇に溶け込むように赤や深緑など深海生物に似た配色となっている。戦闘艦の装甲はレーザーから防御するための反射板やプリズムで覆われている。

戦闘艦は大量の防御用兵装を装備するが電子制御が進んでおり運用に必要な搭乗員は 10 ~ 30名である。そのうちの数名はプログラマであり戦闘時に必要なデータ入力や新しい軌道計算プログラミングを臨機応変に行っている。

SF に出てくるような宇宙戦闘艦が大気圏内でも航行できるのは人類の理想ではあるがエネルギーのロスが大き過ぎる。大気圏内を自由に航行する宇宙船というのは宇宙においても大気圏においても使わない(宇宙では大気圏用の設備、大気圏では宇宙用の設備)が無駄である。どちらの環境においても不要な装備をしたまま戦闘を行う事になる。

大気圏内では愚鈍で宇宙でも愚鈍な船になる公算が高い。宇宙で必要な装備、例えば耐放射線防御層は大気圏内では不要であり、大気圏内で使うもの、例えば翼は宇宙空間では不要であり、どちらの空間にあっても何の役にも立たない重りである。その重りを動かすために高出力のエンジンを必要とし燃費も悪くなる。つまり性能が悪い。


戦闘艦の航行
地球の軌道面である黄道面を航海軌道として地球から火星までの惑星間空間を宇宙水平線と呼ぶ。これを大きく外れて航行する事は通常はない。というのも寄港地や宇宙灯台など多くの人口施設がこの軌道面にありこれを外れると難破する可能性が高いからである。

勇敢な艦長であればこの水平線を大きく迂回し敵艦隊に奇襲を与える事を考える。しかし実際の所はどの方面から奇襲しても多面体編成の艦隊に対しては効果が薄い。また宇宙艦船の移動にはスイングバイが使われる事が多いのでこれを利用しない航行は燃料不足などで漂流する危険性が高くなる。

スイングバイを利用しない自由航行を行う装置としてソーラーセイルがある。ソーラーセイルを張れば航行の自由度が増す。この帆は戦闘時には艦内や側舷に収納される。ソーラーセールは戦闘中には破壊されやすく敵からも発見され易い不利な面も持つ。

戦闘中は艦内のエネルギーを消費して航行する。これはディーゼルエンジンの潜水艦と同じで戦闘時間を制約する。航行可能時間が長いほど戦闘には有利であり、これが勝利に不可欠な制約である。

戦闘艦の動力炉には原子力発電を用いそこで発電した電気を使ってイオンエンジンを燃やす。更に姿勢制御用の急加減速、方向転換用の水素酸素燃料ロケットエンジンを搭載する。質量の増大は慣性の法則から加減速に必要なエネルギーを増加させるので艦船は少しでも小さくなるように設計される。

初期の宇宙戦闘艦のサイズは80m未満である。


艦隊決戦
宇宙空間では艦隊は面として機能する。最も単純な面であれば一面体として配置する。しかし一面体では戦闘方向以外からの攻撃に弱い。そこで編み出されたのがキューブ編成である。三角錐、四角錐、立方体などの多面体を構成するものである。それぞれの面を担当する艦を決めその形を維持したまま戦闘を行うのである。

敵艦の索敵はレーダー波と光学観測で行う。地上のように雲もチリもない空間であるから光学観測での敵の発見は非常に有効である。観測結果はコンピュータで逐次処理される。距離を測るための測距儀は幅 40m 程度のものを使う。これに写った画像をデジタル処理し近傍にある光点を探し出すのである。測距儀は戦闘時には 5m 程度に縮めて使うため観測精度は落ちる。

ひとつの戦闘が終了すると、その区域に発生したデブリの除去作業が行われる。少ないとはいえ戦闘空域には危険なデブリやミサイルの残骸が残っている。これを各軍や戦闘に参加していない国の軍も加わり除去作業を行うのが慣例となっている。宇宙軍はこのための専用宇宙船を配備しているが、民間への委託も多く行われる。


宇宙戦争の未来
もし地球と月との間で戦争が起きた場合、どのような条件があろうとも勝利するのは地球である。これは地球側は宇宙の戦闘に全て負けたとしても地上での戦闘が残っているが月にはこのような地政学的に有利な点がないからである。宇宙での戦闘の延長戦上に月での戦闘もある。

月側が例え宇宙での会戦に勝利しても次には大気圏内での戦闘に推移しなければならない。宇宙戦闘艦は大気圏内の戦闘には参加できないのであるからそれ以上の戦闘の継続は難しい。相手を大気圏という非常に制約の多い中の戦闘に引き摺り込む方が有効的だ。これは持久戦といってもいい。

そのため宇宙にある連邦都市と地球上の国家との戦争は発生できない。だからといって宇宙の資源を地球だけで独占などはできないから宇宙にある各都市は連邦国家として共存できるのである。

もし核爆弾などで星を破壊することを目的とするなら、地上で破壊する前に宇宙で阻止殲滅せねばならない。地上での汚染は宇宙空間での汚染よりも深刻だからだ。だが敵が惑星を汚染する必要性がどこにあるだろうか。それはどういう戦争であろうか?

宇宙艦隊の主目的は、これら敵の核攻撃から母星を守ること、惑星間貿易を護衛する事である。宇宙戦争が始まったら相手惑星への攻撃隊と自星の守備隊に分かれて作戦を行うだろう。この戦いは最終的には物量の大量投入であり、大量の資源、生産、兵站を持つ方が勝利する。しかし惑星間の戦争が太陽系内で起きる条件は満たされない。


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