「複雑すぎてどんなに賢い人にも理解できないものなど、この世には存在しない」そう信じるようになったのがいつだったか、私はよく覚えている。
はしがきの冒頭である。
それからギターアンプやテレビの仕組みに熱中する若い頃の思い出を著者が語る以上、量子コンピュータは「複雑すぎてどんなに賢い人にも理解できない」ものに決まっている。
魅力的なはしがきの本は買いである。この導入部ならきっと著者の苦難も達成も失敗も面白いに決まっている。この数ページのはしがきだけでこの本は買いなのである。
そういう考えだから失敗する。はしがきで読者は本を買う。故に作家ははしがきに全精力を傾ける。このはしがきになら、裏切られても仕方がないと諦めがつく。
過去、このはしがきは読んだ事はない。読んでいれば必ず覚えていると本書を買う。そして家に帰ってみれば、本棚に文庫本となる前の単行本が鎮座して御座りなります。
単行本は2004年11月初版発行、現在2014年。
なるほど、時間は残酷かつ優しい。記憶など信用できないと知っていたのに。
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