ラインハルト様ともあろうかたが、一時の利益の為に、なぜご自分を貶めるようなことをなさったのですか。
ラインハルト様、わたくしはラインハルト様がこの世界を地獄にすると言うのなら、喜んでそれを支持しその先頭を歩くでしょう。何故なら、わたくしの正義はあなたの正義だからです。わたくしの正義はラインハルト様と同じものです。わたくしはその正義を受け入れれば済みます。それで構わないのです。
しかしラインハルト様の正義は他の誰のものでもありません。それはあなた自身のものですし、それはヴェスターラントの惨劇を許し忘却できるような正義ではありません。
ですからこの事件はこれから何時までもラインハルト様を苦しめてゆくことでしょう。民衆の苦しみがあなたの心に突き刺さり、決して抜けない棘となり、何時までもラインハルト様に襲い掛かることでしょう。
その苦しみに気付く人は少ないでしょう。誰もラインハルト様の苦しみを分かつことはできません。それがラインハルト様を死へと追いやってしまわないか、わたくしはそれが心配です。
ラインハルト様。あなたは自分自身でさえ気付いていないでしょう。わたくしには分かるのです。あなたはこの惨劇を決して忘れることも許すこともできないでしょう。あなたはそういう方なのです。あなたの正義はそういう性質です。そういうお方ですから、わたくしはこの惨劇が起きてしまった事を心配しているのです。
あなたの正義はあなただけのものです。それは帝国の誰にも同盟の誰にも持ちえない。この銀河でただあなたのみが有する資質です。それは如何なる法よりも如何なる体制よりも尊ぶべきもの、そしてこの銀河を支配するに資するものでしょう。ゆえにそれはラインハルト様さえ飲み込んでゆきかねない。
もしわたくしがその重荷を肩代わりできたなら、どんなによい事でしょう。どうすればわたくしはその苦しみの一部を引き受けることができるでしょう。それが可能なら、そうすることでラインハルト様の苦しみが軽減するというのなら、それが良いことと思うのです。他の苦しみで、この苦しみを忘れることができると言うのなら。
そう、私は、あの死体の秘密を知っている。知っていて、それを誰にも告げず、それでも、敢えて、それを止めようと思っていないのです。これはひとつの賭けになるかも知れません。わたくしは危険を承知の上でそれでも赴こうとしています。あなたの苦しみの一部をこの身に引き受けるために。
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