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2011年1月17日月曜日

HELLSING - 平野耕太

諸君私は戦争が好きだ、から始まるこのフレーズによって
諸君という言葉を平野耕太は所有してしまった。

これ以降、諸君という言葉を使うものは、平野耕太から借りるしかなく、全てはHELLSINGのパロディに過ぎない。

この平坦なストーリーの漫画の中で輝くこのスピーチは、ほとんど絶後でさえある。
一つの日本語を所有するなど、今まで誰にできただろうか。

それほどまでに、この漫画のこのセリフは完璧だ。
まるで一遍の詩だ。

そうだ、HELLSINGは詩集と呼ぶべきなのだ。

呪われた我らの旗を
ドイツ第三帝国海軍大西洋艦隊
旗艦アドラーこれより作戦行動に入る・・・

諸君私は戦争が好きだ。
諸君私は戦争が好きだ。
諸君私は戦争が大好きだ

殲滅戦が好きだ 電撃戦が好きだ
打撃戦が好きだ 防衛戦が好きだ
包囲戦が好きだ 突破戦が好きだ
退却戦が好きだ 掃討戦が好きだ
撤退戦が好きだ

平原で 街道で
塹壕で 草原で
凍土で 砂漠で
会場で 空中で
泥中で 湿原で

この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ

戦列を並べた砲兵の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ
空中高く放り上げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどる

戦車兵の操るティーゲルの88mmが敵戦車を撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵をMGでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった

銃剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ
恐怖状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える

敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ虜兵達が私の振り下ろした手の平とともに
金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ

哀れな抵抗者(レジスタンス)達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを
80cm列車砲(ドーラ)の4.8t榴爆弾が都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える

露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ

英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ
英米攻撃機(ヤーボ)に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ

諸君私は戦争を
地獄のような戦争を望んでいる

諸君私に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?

情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?

戦争(クリーク)!!
戦争(クリーク)!!
戦争(クリーク)!!

よろしい
ならば戦争(クリーク)だ

我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で半世紀もの間耐え続けて来た我々に
ただの戦争ではもはや足りない!

大戦争を!!一心不乱の大戦争を!!

我らはわずかに一個大隊千人に満たぬ敗残兵にすぎない
だが諸君は一騎当千の古強兵だと私は信仰している

ならば我らは諸君と私で総兵力100万と1人の軍集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさえ思い出させよう

連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる

天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事がある事を思い出させてやる

一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルツペ)で 世界を燃やし尽くしてやる

「前フラッペン発動開始」
「旗艦デクス・ウキス・マキーネ始動」
「最後の大隊大隊指揮官より全空中艦隊へ」
「目標英国本土ロンドン首都上空!!」

第二次セーレヴェー(あしか)作戦状況を開始せよ
征くぞ諸君


このセリフ以降、この漫画には死人しか出てこない。
ケチャップを潰したかのように血が流れ、
一巻一殺よろしく、次々と登場人物が屠殺されてゆく。

それでもストーリーから目を離せないのは、決して面白いからでも
感動しているからでもない、始まった戦争から逃れられないだけなのだ。

そして、そこに居ても正気を保てるのは、この漫画の世界に依存する。

この漫画に登場する人物は、観念の集合のように見え
その証拠に一切ウンコをする気配のない人間しか登場しない。

人形劇と呼んでも良い。
だが、この登場人物たちがうんこをする人間であったりしたら
きっとこの物語は正視に耐えられない、恐らく、わずかな人を除き。

逆に、そこだけが、この物語を正気たらしめる、唯一つの立地点のように思われる。
この詩が成立するためには、この漫画が必要なのだ。


誰も、もう諸君と言う言葉を自由に使うことはできない。
幾つかの先人の言葉にだけ、元の意味を残している言葉がある。
それはあの大虐殺の中で生き残ったわずかな人のようでさえある。

それはまた、同じく不死のようだ。

生徒諸君
ヤマトの諸君
諸君にラピュタの力を見せてやろうと思ってね
検察諸君、私を止めてみたまえ

僕の思いつく限りでは、生き残ったのはこれだけだ。

1 件のコメント:

  1. 恐怖状態じゃなくて恐慌状態だろ

    こんなこんなつまらない間違いで
    少佐の演説を汚すな

    にわか

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