「もういい!止めたまえ!!!」
臨時閣議の場において、センゴクの発言はさえぎられた。
「聞けば、このビデオは、謹慎中の海保隊員が、臨時で雇われたハッカー共に編集したものと同じそうだが?」
「君はこのビデオで、内閣の信頼が上がると本気で考えてるのかね。」
「専門家の報告によれば、海外の串を幾つも通しておけば犯人の特定は実質的に困難とのことです。一度、たれ流したものを取り返すことも当然不可能です。
あの 6 分の映像を公開した後に全てを公開するはめに陥ったら、国民を欺こうとした、情報操作した、売国だ、と政府は批判され、野党は鳴動、ネットに林立する百数十に上る掲示板に非難の咆哮が上がり、首都圏 8000 のツイッタラーが暴走を起こす。
その結果がどうなるか、申し上げる必要もないと思います。パソコン並びに携帯はもとより、地下千メートルのジオフロント作業区、さらには一部の原発の炉心部でもyoutubeは閲覧可能であります。」
全員が無言の中、カンが口を開いた。
「センゴク君。日本の世論は、流出ビデオが出たら情報管理さえまともにできないと言うぞ。仮に君の主張するビデオが公開されたとして、事実上、国民支持率は下がると見て良いのではないかな?」
「国民の支持率は、新聞社の協力を得て取得中とはいえまだ不明であります。6 分の映像を公開したところで支持率が上がる可能性は薄いと専門家の意見も一致しています。
この場合、一度でもこの事件を耳にしたことがある人は、全ての映像を希求していると考えるのが妥当です。」
「6 分の映像を流すか、内閣をなぎ倒すか、このまま無言を続けるか、それとも・・・四者択一、決断をお願いします。」
センゴクの言葉を受け、カンが次のように結論した。
「本日未明より海保の映像が確認されるまでの期間、国内における尖閣に関する会見はこれを全面的に禁止する。記者クラブ、海保、警察も同期間は報道を禁止する。米国、ノルウェー、並びに隣接する各国にも趣旨説明を行って協力を求める。以上だ。」
カンの発言が終わり、全員が退室しようとした。
そこにセンゴクがカンを引き留めた。
「首相、質問があります。ハッカーがしでかしたことでしたら、それが何であれ責任がどうこうという問題にはならないと思いますが?なんせハッカーのすることですから。」
センゴク、ニヤリ、
「・・・・・。無論だ。ハッカーなら致し方ない。」
カンは数秒考えてから、そう答えた。
「センゴク、部署へ戻ります。」
臨時閣議は解散した。
「どういう事です?」
帰りのエレベーターの中で、一部始終を見ていた内閣官房副長官補が質問する。
「言ってたでしょう?ハッカーなら仕方ないって。やっちゃった後で内閣支持率が上がればヨシ。できなければハッカーによる事故とおとぼけを決め込む。バレたらバレたで俺に詰め腹を切らせるって事。カンもワルですねー。」
「カンさんも可哀相に・・・」
「可哀相なのはこっちですよ。失敗すれば私達が犯罪者です。やっぱり止めておきます?」
「いえ。国が堂々と公開すれば問題になります。流出で済むなら、やった方が良いです。」
「官僚ってのはそうこなくっちゃ。じゃあ決まりですね。」
「しばらく戻りませんから、マエハラさんの指示で動いておいてくださいね。」
「了解。」
そこに外務副大臣がが駆けてくる。
「ねえ、何が始まるの?」
彼は一拍置いて、こう答えた。
「海保のビデオを流出させるのさ。」
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