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2012年7月29日日曜日

アンボンで何が裁かれたか

BLOOD OATH (1990、豪)

何気なく点けていたテレビで、何気なく見た映画に引きこまれてしまうということが、年に1度くらいはあるだろうか。

それは、いまいましい事だが、どのテレビ局であろうが関係なく、突然に起きる。11月23日の深夜は、こともあろうにTBSでそれが起きた。土曜の深夜は、プロレスを見たり、見なかったりと頻繁にチャンネルを変えるものだ。

最初に見た映像は覚えていないが、日本人が多く出ているシーン、そして、白人の捕虜となっている雰囲気から、第二次世界大戦末期の捕虜収容所の話しかと思った。映画の中の日本人は、実際ならもっと痩せこけているはずだ、とも思った。

そして、この映画は日本の映画か、海外の映画か、が気になった。というのも日本の映画ならば、飢餓や暴力などしか描けないので、見る必要はない。海外の映画ならば、日本人をどのように描いているかが少し気にかかる。

見ているうちにどうやら、白人はオーストラリア人であり、終戦直後の話しである事、戦争中の日本捕虜収容所において起きた戦争犯罪を裁く簡易裁判が物語の背景であることがわかった。検事側はオーストラリアの軍人が行う。対して、日本人側には日本人の弁護士が登場する。

どうやら海外の映画らしいという気がしてくる。

そして外国の映画なのだが、日本人が日本語で話すシーンが多い事、話すシーンで使われる日本語がネイティブな日本語である事、などから、何ら偏見を持たずじっくりと調べ、しっかりとした製作をしたのであろう事が感じられ好感がもてる。

この話しでは途中まで、無実の罪で日本人が裁かれるのか、それとも本当に犯罪的な行為をやったのかは不明なままである。視聴者は自分で考えながらも決断を下せないでいる。考える事を止める事ができないのだ。

300名近くの白人の遺骨が出現する。しかも、それらの遺体は両手を縛られたまま殺されていたりと尋常ではない。だが、誰が行ったのかが分からない、という事がわからない。

オーストラリア側は、有罪は間違いないと思うのだが、なんら証拠がない。日本人達は裁判の席上で(簡易小屋の裁判所)、無罪を主張する。

オーストラリアは、アメリカに頼み、この収容所の責任者であった将校(少将だったか)を裁判で裁こうとする。この時点での日本人の描き方は非常に好意的であり、この初老の日本人は正々堂々としたものである。日本と西洋の文化の違いもあるだろうが、日本的軍人の美意識のようなものも映像に切り取られている。

オーストラリア側の検察官は、この将校が指示して虐殺を行った、と主張するが証拠がない。この少将は無罪となる。

この頃、新しく通信士官が登場する。この士官の登場が話しを大きく、そしてより深いところへ連れて行く。そこには、価値の逆転ではなく、価値が失われるというような残像が残る。

この映画で監督の腕の上手さを感じるとともに、汚さも感じる事が出来る。映画のもつ限界や悲しさも知っているだろうが、映画の力学や美しさにも狡猾であろう。

時には矛盾こそが美しい映像を生み出す、そんな主張さえ聞こえてきそうだ。

この監督は、最後は物語の解決をあきらめて、そのままの形で上映したかのようだ。

そして、このような終わり方は、何かを提言しているのだが、実は何も解決していない卑怯な手段であるとさえ思う。

そう思うほどに最後は、見るものの心に触れずにはおかない。

例えば、最後に名前だけ登場するみどりという女性さえ、その存在感はリアリティに溢れている。

1999/10/30 記す

監督 スティーヴン・ウォレス
キャスト ブライアン・ブラウン、デボラ・アンガー、ラッセル・クロウ、ジョージ・タケイ
渡辺哲(池内収容所所長、最後は割腹自殺)、塩屋俊(通信士官、飛行兵4名の処刑者、最後は銃殺)

塩屋俊 主な経歴
1990  BLOOD OATH(豪)
1992  Mr. BASEBALL(米)
1993  さまよえる脳髄
1994  忠臣蔵・四十七人の刺客(東宝)
1995  KAMIKAZE TAXI
      愛の新世界
      トラブル・シューター
1996  大統領のクリスマス・ツリー(松竹)
1995  NHK ドラマ新銀河「妻の恋」
      日米合作終戦50周年記念ドラマ「HIROSHIMA」
1996  ドイツテレビドラマ「HOTEL SHANGHAI」
      NHK BSドラマ「新宿鮫 -屍蘭-」
      フジテレビ 金曜エンタテイメント「浅見光彦シリーズ③唐津佐用姫伝説殺人事件」
      NHK 金曜時代劇「天晴れ夜十郎」

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