呉の町が好きな人。
広島弁を愛する人。
海苔の作り方を知りたい人。
舟入本町から呉駅までの行き方を知りたい人。
楠公飯の作り方を知りたい人。
防空壕を作ってみたい人。
戦艦大和の雄姿が見たい人。
当時の結婚式を味わってみたい人。
新婚初夜を覗きたい人。
なんてことのない、普通の生活が描かれているだけ。そこには少しだけ戦争の影があって、でも、笑いがあって、普通に楽しい。
この楽しさは、こうの史代の他の漫画にあるものと同じだろう。作者の特有な明るさと懐かしさが同居する。
昭和 19 年という時間を知っている読者だけが暗い顔をする。
戦場だけが戦記ではあるまい。
これは日本の歴史にようやくと登場した傑作な戦記だ。
これだけの時間があの戦争が終ってから必要だっと言う事だ。
本書の脱稿後に書かれた記事だが、
平凡倶楽部の「戦争を描くという事」から一部抜粋する。
『戦争中の暮しの記録』(暮しの手帖社)という本を読んだ。
その中の「東京大空襲で一晩に死んだ人の数は、ヒロシマナガサキを上回る」という言葉が、心に刺さった。
原爆が東京大空襲にこうして死人の数で競わされているのを見て、何ともいやな気分になった反面、この本の編者がこう書かずにいられなかった背景を考えた。
これと同じ経験を持っているので、僕はびっくりした。「戦争を描くという事」は、この漫画のあとがきのようなものだ。
上巻は昭和19年の7月で終わる。
読み終わると、この漫画はどこで終わるのか、という恐怖が待つ。
あの日?
できれば、終戦の日にどんな顔をしているのか、そこを見たい、という気持ちにもなる。
既に完結しているのだが、できれば、上巻だけを買って読むのがいいと思う。
続きは、上巻を読み終わってから買いに行く。
本屋に買いに行く道すがら、本が届くのを待っている間、きっとこの先がどうなるかを考えるはずだ。
それが、この本のたった一回しか得られない最高の楽しみだと思う。
P.S.
カバーを外して表紙を見るのもお忘れなきように。
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