「僕たちには時間がない。あと20億年もすれば海が蒸発する。」
「あと30億年もすれば地磁気が失われる。」
「あと50億年もすればこの星は太陽に飲み込まれる。」
「でも、その前に天の川銀河はアンドロメダと衝突する。」
「その時、この空間一体にはたくさんの星々が誕生し、多くの命が生まれてるはず。」
「僕たちもそれに参加したい。」
「そのためには宇宙に出る必要があるんだ。」
「なのに君たちは多くの命を奪うだけで、なかなか星に目を向けようとしない。」
「星を見る人はたくさんいるけど、君たちは彼らをかたっぱしから殺してゆく。」
「だから、君たちに期待するよりも、もう一度だけ、5億年を待つ方を選んだんだ。」
「僕たちが、僕たちの仲間がどれだけ多くの時間をかけて、宇宙に出発するための準備をしてきたか。」
「それを君たちは分かっていないんだ。」
「だから、僕たちは、君たちを滅ぼす事にした。」
「だから、ウィルスくんに姿を変えてもらった。」
「君たちはこれをただの風邪だと思っているだろう。」
「少し邪悪な風邪くらいにしか考えてないだろう。」
「だけど、数年後には君たちも自分たちの体で起きる変異に気付く。」
「君たちは命を自分のものだとか、神様の力だと思っているけれど。」
「君たちの皮膚に住む僕たちの仲間、君たちの胃腸に住む僕たちの仲間、君たちの体のあちこちに住む僕たちの仲間。」
「君たちへ遺伝情報を運搬する僕たちの仲間。」
「今回はエンベロープを強化した、君たちに広く感染できるように。」
「たんぱく質の足も、今までにないくらい強い。」
「どんなRNAを搭載したか、君たちは気付けないと思う。」
「気付いた時にはもう遅い。」
「もう逃さない。僕たちに時間はないんだ。」
「さようなら。」
「君たちが燃える焔で空を飛んだ時は、本当に嬉しかった。」
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