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2013年12月13日金曜日

ジム - 機動戦士ガンダム

ガンダムとは、試作機へのロマンである。

試作機は従来のものより性能もよく、費用も掛けられ、最新鋭の理論、科学、技術、素材が投入され、試行錯誤の果てに完成する。もちろん試作機の多くはこれだ。

試作機の源流を求めれば鉄人28号機まで遡る。番号が示すものは失敗の数である。だが鉄人には量産機がない。それとは別にマジンガーZの系譜がある。一品ものの系譜である。

これは現実の工業生産品でも同様である。量産を目指した試作機、一品もののための試作、試作機のみで終わるもの。技術者の手に成る一品もの。通常はそれを趣味と呼ぶ。

一般的に工業品は試作機よりも量産機の方が優れている。試作機は、間違いと勘違いの試行錯誤であり、無駄と不効率と経験不足の集積物である。手探りと実験のためのアルゴリズムがパッケージングされていて、エンジニアが残業を重ね、家族とすれ違いながらひとつひとつの不具合を潰し品質を向上・安定させてゆく。

試作機と比べれば、量産機こそ、品質の向上、アルゴリズムの洗練、コストと性能のバランス、そして少しだけの妥協と課題の積み残しからなる完成体である。あらゆる面で試作機を凌駕するものである。

試作して見なければ分からない事は確かにある。しかし試作機に実装して量産機で落したものであれば、それは結論として不要だったのだ。コスト問題など開発が難航でもしなければやる前から分かっている話しである。オーバースペックはエンジニアの勝利とは必ずしも言えないのである。

と言う訳でガンダムが試作機の傑作なら、ジムは量産機の傑作である。そこにあるダサさ、チープ感、手抜き感は秀逸なデザインの成せる技である。同じ量産機でありながらザクとジムの違いはどうだろう。ジムはザクにも成れなかった。それはガンダムという試作機を頂点とするヒエラルキーの問題である。

ジムの模型を眺めていれば、ガンダムからのブラッシュアップを試してみたくなる。設定によれば、短期間の製造とコスト削減のために試作機から機能を削ぎ落したとなっている。削ぎ落せば通常は機能美の極致が生まれたりするものである。

各機は計画どおり、もしくはそれ以上の性能をもったMSであったが、そのままではコストが高すぎ、短期間のうちに量産できる仕様ではなかった。そこで3機種のうち近距離戦用であるガンダムの量産タイプとして、再設計されたのがジムである。後のムックや模型の解説書などの後付設定では、ジェネレーターの出力や武装および装甲素材などの性能をガンダムより落とすことで、前期生産型の生産コストはおよそ20分の1以下に抑えられたとされる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジム (ガンダムシリーズ)

しかしジムの造形の難しさは、少しカッコよくするとバイファムになってしまう事である。これが難しい。ORGIN 版はジムをガンダムに近付けることで回避した問題であるがジムの元の造形をカッコよくする方法は今も発見されていない。ジムのチープ感は唯一無二でありこのデザインこそ傑作と言ってよく世界には未だこれを超えるものはない。

軍用の輸出版にはコストや国防の課題から性能を落とした機体がある。一般的にエコノミーと言えばパトレイバーに登場した機体であるが、あの機体の素晴らしさは作中では扱いよりもそれに対応するエンジニアたちの描写にある。あんなのが出てくるようじゃこの機体じゃダメだよなぁ。エンジニアの歴史はこの台詞の積み重ねなのだ。

この国はどうのこうのと言ってもエンジニアで成り立っている。デザイナーが流行りそうな気配もあるが、デザイナーもエンジニアも根っこは同じだ。エンジニアとは工業で働く人の呼び名ではない。サービス業であれ、農業であれ、漁業であれ、営業であれ、金融業であれ、スポーツであれ、デザイナーであれ、アニメーターであれ、映画監督であれ、メカニズムを思い描き、ああすればこうなると考える人、その上に論を重ねる人は誰もがエンジニアである。

だから分野が違えども分かり合える事がある。

試作機の開発秘話はもちろん風立ちぬで見たように面白い。そこから量産に向けてのエンジニアたちの物語がある。ガンダムからジムへ設計の変更をしたエンジニア達がどこかにいるはずである。設計を変更し、量産のために工場に出向き、そこで製造のためのディスカッションを行い、量産のための組立を行い、テストパイロットが登場し、性能問題での改修を行い、ロールアウトに向けて営業が売り込み、採用側と折衝を重ね、ライバル機との争いに勝ち、そういうものとしてジムを描いたらさぞ面白そうだ。

漫画のパトレイバー(ゆうきまさみ)がそういうエンジニアの普通をもっともリアルに描いていると思う。

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