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2013年2月16日土曜日

眼にて言ふ - 宮沢賢治

青空文庫、疾中 - 宮沢賢治
青空文庫、教祖の文学、小林秀雄論 - 坂口安吾

眼にて言ふ

だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな

ゆふべからねむらず
血も出つづけなもんですから

そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといい風でせう

もう清明が近いので
もみぢの嫩芽 (わかめ) と毛のやうな
花に秋草のやうな波を立て
あんなに青空から
もりあがつて湧くやうに
きれいな風がくるですな

あなたは医学会のお帰りか何かは判りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手あてもしていただけば
これで死んでもまづは文句もありません

血がでてゐるにかかはらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄 なかばからだをはなれたのですかな

ただどうも血のために
それを言へないのがひどいです
あなたの方から見たら
ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが

わたくしから見えるのは
やつぱりきれいな青ぞらと
すきとほつた風ばかりです


透明な、血が流れ、
空へと消えてゆく様です。

もうダメでせうという声が
ザァーザァーという音を立てて聞こえます。

鼓動はもう僕のものじゃありません。
深い空色の場所へと明るく輝く水が落ちてゆくのですから
きっとこの世界は空と水があればいいんです。

僕の温かさが世界に帰ってゆくのです。

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