第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
○2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第五条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
○2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。
短くすると
第一条 天皇は、象徴。第二条 皇位は、世襲。
第三条 天皇の国事は、内閣が責任を負ふ。
第四条 天皇は、国事行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
○2 天皇は、国事行為を委任することができる。
第五条 摂政を置くときは、天皇の名で国事行為を行ふ。
第六条 天皇は、内閣総理大臣を任命する。
○2 天皇は、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七条 天皇は、国事行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布する。
二 国会を召集する。
三 衆議院を解散する。
四 国会議員の総選挙の施行を公示する。
五 国務大臣、官吏の任免、全権委任状、大使、公使の信任状を認証する。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除、復権を認証する。
七 栄典を授与する。
八 批准書、外交文書を認証する。
九 外国の大使及び公使を接受する。
十 儀式を行ふ。
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は財産を譲り受け、若しくは賜与は、国会の議決に基かなければならない。
要するに
おまえら天皇のために死ぬような戦争するくらいだから残してやる。だけど天皇を利用しようとする奴もいるから政治からは完全に切り離す。そのための呼び名が象徴だ。あとそれだけだと国民の前から消えそうな感じがするから行事の時には顔を出すようしておく。これは単なる行事であってなんら効力も実体も持たない。そこは勘違いしないように。それでも勘違いするやつが出てきそうだから摂政を置けるようにしておいたからな。考えるに
これは天皇という特別な存在を政教分離原則では政治から切り離すことができなかった証拠であろう。それを模索した結果がこの章と思われる。現人神とされた天皇を宗教とは見做さなかったという事である。が、天皇の地位を規定して、草案が「シンボル・オブ・ステーツ」となっている点は、さすが外務省きってのわが翻訳官たちをも大いに惑わせた。
「白洲さん、シンボルというのは何やねん?」
小畑氏はぼくに向って、大阪弁で問いかけた。ぼくは「井上の英和辞典を引いてみたら、どや?」と応じた。やがて辞書を見ていた小畑氏は、アタマを振り振りこう答えた。
「やっぱり白洲さん、シンボルは象徴や」
新憲法の「象徴」という言葉は、こうして一冊の辞書によって決まったのである。
「週刊新潮」1975年、8/21日号 「 占領秘話 」を知り過ぎた男の回想 戦後三十年 より
日本憲法では総理大臣(行政)と最高裁判官(司法)を「任命する」と定義されている。他にも「召集する」「認証する」とある。もし天皇不在に陥り任命できない時はどうなるのだろうか。この憲法の見直すべき点のひとつであろう。起草者たちはそれを想定し摂政というものを置いたと思われる。任命により有効となるのであれば国政に参加する状況を作り出す事が可能である。それは第四条に違反する。
帝国憲法には「第一条 大日本帝国は万世一系の天皇これを統治す」とある。「大日本帝国憲法義解 (伊藤博文著)」は天皇の横暴を抑止したが臣民の暴走は赦してしまった。
所謂「シラス」とは即ち統治の義に外ならす蓋祖宗其の天職を重んし君主の徳は八洲臣民を統治するに在て一人一家に享奉するの私事に非さることを示されたり
此れ乃憲法の拠て以て其の基礎と為す所なり
帝国憲法で「天皇が統治する」とあるのは天皇のために日本があるのではないと明記する為であった。天皇が臣民を統治するとは、天皇は臣民のために存在するという意味である。しかし立憲君主はどうも駄目だった。何故か王様を利用する人が出現する。そういう人が出現すると不思議と必ず戦争になる。
天皇という存在は、長い日本の歴史の中で神話に書かれ、歌に表れ小説にも登場した。政治にも文化にも深く関係してきた。幾つもの政権が変わっていったが天皇は連綿と続いた。父親を辿れば神武天皇に行き着くという血の存在がこの国の歴史に根ざす。このような危うい生物的なものの上に構築された仕組みがどこまで有効であり続けるかは分からないがそれを続けてきた国である。
国の滅亡にも色々な形がある。民衆は国が滅びても残ることが多い。では何が変わったら滅亡と呼べるのか。統治機構か文化か他民族に支配される事か。支配されても再び独立する例はたくさんある。日本も一度は統治システムを完全に剥奪された。
その記憶が希薄なのは天皇が在位し続けたからである。天皇がいる限り支配者が誰に変わろうとも日本は日本だ。そういうものが根底にあるような気がする。GHQは天皇さえも支配下に置いたが、どうも天皇のもとで統治者として振る舞うアメリカがあった、そういう一時代があった。そのように感じられる。
我々は天皇を知ることでこの国の歴史を過去の逸話としてではなく今も存在する話しとして実感する。早い話が 1000 年以上も前のお話しをおじいちゃんから聞いているようなものだ。もしこれを失えば日本は大きな歴史的な断絶を経験する事になる。世界にこれほど古い血の連綿は残っていない。
止める事は容易い。平等だ人権だ人道だのという近代思想で止める事は容易い。しかしそれらの思想と比べても古くから存在し、恐らくそれよりも長く続きうる存在である。その耐久性ははるかに強い。それでも失えば二度と取り戻せない歴史である。それを象徴と呼んだ。破壊する事は容易い。しかし破壊者はいつも自分の行為の意味を理解せず消えてゆくんだ。
天皇が消失すれば我々は歴史を深く知る手段を失う。たんなる同じ場所にあった遠い知らない国の歴史となってしまう。それに代わる思想が人権、平等、民主制という近代思想であるか。この国はアメリカとは異なりその思想で成立した国ではない。17世紀に生まれた思想と2000年間続いた歴史が等しい価値とも思われない。新しい思想は水槽の中にある。天皇は水槽の外にある。
天皇には人権も平等も民主制もない。そう憲法が規定した。天皇はそれを嫌い退位する権利は有する。昔は出家と言った。しかしそれにとって代わる天皇を立てる必要がある。そういう存在である。
天皇は明治期に国民統合のシンボルとして担ぎ出され昭和に入り絶対君主として利用された。明治憲法は元老という非公式な機関が存在する事で機能したが、その消失とともに欠陥を露呈した。昭和になって天皇機関説が退けられる事で明治憲法は死文化しただろうか。
明治憲法は敗戦に至るまで一度も改正が行われなかった。漸進的で試作的であった明治憲法にただの一度も改正の必要性がなかったはずがない。我々の根底に欠けていたものは元老でも軍事でも政治でもなく憲法を改正し運用する能力であったと思われる。それは今も続く。
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