足し算引き算でもそうであるから、マイナスとマイナスの掛け算がプラスになる理由が分からなくなるのは当たり前だ。マイナスを含む掛け算は理解できない。
数学で公理から次の定理が導かれるのは当然の帰結であっても、それを腑に落ちるように理解するのはシンドイものである。そうなるからではなく、自分なりに理解したいというのは、数学を道具として使うには不自由かも知れないが大切な事だと思う。勿論そこには無くてもいいこだわりや観点があったりして足枷にもなる。だが、それがあるからこそ世界を理解しているとも言える訳で存外に簡単な話ではない。
掛け算と足し算
掛け算を足し算の変形と見做せば 10+10+10 は 3×10 である。この見方でマイナスの掛け算を考えると通用しない。(-10)+(-10)+(-10) は -10×3 であるが、10×-3 が足し算の形にならない。10をマイナス3倍するとはどういう意味か。掛ける数と掛けられる数に意味はあるかと言えば意味はない。だから掛け算には交換法則が成立する。しかしどこかで賭けられる数とは個数だと思っているようだ。マイナスの個数は存在しないから、これが足枷の正体だ。
-3個とは
-3 個という個数は思い浮かべられない。10×-3 とは、10×3×(-1)である。-3 は -1×3 と記述できる。マイナスかけるマイナスが何故プラスになるかを語るのは -1×3 がなぜ -3 であるかを語る事と同じだ。つまり -1 とは何かを考える事に相違ない。一般的に掛け算は四角形の面積に例えられる。だがマイナスの面積はイメージできない。面積は自然数で完結するからマイナスで考える事ができない。
デカルト座標
- | + | + |
- | 0 | + |
? | - | - |
この面積をデカルト座標に取ってみても不可思議な理解がする。(0,0)を原点として4つの面がある。右上が(+,+)でありそこの面積がプラスである事に異存はない。左上、右下はそれぞれ(-,+)、(+,-)であり面積がマイナスであると言われればそうかなという気もする。では左下の(-,-)の面積はプラスなのか、マイナスなのか。お前が決めろと言われたらどうすればいいだろうか。
縦と横は点から構成される。この点が持つ属性の数を次元と呼ぶらしい。直線だから二次元なのではない、二次元の点には(x、y)の二つの属性が与えられている。三次元の点には(x、y、z)と三つの属性が与えられている。
掛け算の操作
掛け算とは掛け算をすることにより掛け算する前のものをひとつにまとめる操作だ。足し算引き算では数値に付属する属性は変わらない。しかし掛け算は変わる。面積とは二つの属性(縦と横)をひとつ(面積)にする演算ではないか。しかし次元は変わっていない。これは数値の単位が変わると言ってもいいだろう。距離+距離=距離であるが、時間×速度=距離というように掛け算では単位が変わる。問題、工場に10のラインがあります。ある日ひとつのラインでネジが5本足りませんでした。10のラインでは何本のネジが足りませんか。この問題は個数なのでマイナスの概念がなくとも解ける。足りない個数をプラスで考えれば50本のネジが足りないと答えが出る。この事からプラスは数字の属性であるが、マイナスとは数字の属性ではなく数字に対するオペレーション(操作)であると言える。
「足りない」がマイナスそのものである。これは元来、数字とは切り離されていたはずだ。それが0の導入によってプラスとマイナスという関係に据えられた。だがマイナスとはもともと操作であって、マイナスかけるマイナスもこの操作によってプラスとなるものだ。
数直線
数直線で数を考えてみよう。プラスとは右に行く力、マイナスは左に行く力と仮定する。5-3とは5歩進んで3歩下がる事だ。足し算はこれでいい。5×3
右方向に 5 つ進み、それを右方向に 3 倍すると解釈できる。-5×3
左に 5 つ進み、それを右方向に 3 倍する事になる。これでは答えが 10 になってしまう。これはプラスの考え方が違っていたのだ。×3とは右ではなく今の方向に行く、と書き直さなければならない。左に 5 つ行き、そこでその今の方向(左)に3倍するという意味になる。
5×-3
プラスは今いく方向とあったが式の最初に出てくるとどちらに行けばいいかがわからない。そこで最初は右に行く事になっていると決める。すると、右に 5 つ行き、そこで左方向に残り 2 倍を加えるという意味になる。これでは答えが -10 になってしまう。これはマイナスの考え方が違っていたのだ。×-3 とは今とは逆の方向に行く、と書き直さなければならない。ただそれでは右に 5 つ行き、そこで方向を逆にして左に 3 倍してもこれではまだ -10 である。
もうひとつ必要である。マイナスの場合は、0 の場所を数の反対側に移す必要がある。右に 5 つ行き、そこで0の位置を 5 の左から右側に移動し、方向を左に逆転して 3 倍する。これで -15 となる。
-5×-3
最初のマイナスで左に 5 つ行き、そこで0を右から左側に移動し、方向を右に移動して3倍するという意味になる。これで答えは15となる。数直線ではプラスとは今ある方向に行く、マイナスとは0を反対側に移し逆の方向に行くと定義できる。