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2013年6月16日日曜日

罪と罰 (上) あらすじ - フョードル・ドストエフスキー

第一編
ある計画に憑りつかれた大学生ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフが物語の主人公である。ラスコーリニコフはアリョーナ・イヴァーノヴナの元を訪れ質草を入れる。これも彼の計画のうちであった。その帰りに酒場に寄ったラスコーリニコフはマルメラードフと出会う。マルメラードフは家族が貧窮にしているにも係らず給料を飲み代に使ってしまうような人間であった。そこでラスコーリニコフはマルメラードフの妻カチェリーナと娘ソーニャ (ソフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードヴァ) の話しを聞かされる。

マルメラードフを家まで送り宿へ戻ったラスコーリニコフは宿の女中ナスターシャから一通の手紙を受け取った。それは母プリヘーリヤからの手紙であった。妹ドゥーニャが働いていた先でスヴィドリガイロフとの間でトラブルが起きた事、それがスヴィドリガイロフの方に非があり誤解も解けた事、そしてドゥーニャがルージンと婚約する事が書かれていた。母と妹はルージンの援助によりペテルブルグへ引っ越す事とも書かれていた。手紙を読み終わったラスコーリニコフはルージンという男の魂胆を見抜き、妹への婚約には反対の立場を取る事を決めた。

「でなければ、ぜんぜん人生を拒否するんだ!」突如、彼は狂憤にかられて叫んだ。P74

次の日、ラスコーリニコフは出かけた先の公園で酔っ払いの女を介抱し警官に引き渡す。その後、友人のラズーミヒン (ドミートリイ・プロコーフィチ) を訪問する。その日の晩に彼は印象的な夢を見た。まだ幼少の頃、父親と一緒に祭りに行った時の出来事であった。酔っ払いたちが痩せた馬に重い荷馬車を引かせ面白おかしそうに鞭打つ場面であった。

鼻っつらをひっぱたけ、眼のうえを、眼んとこを喰らわずだ!P92

ラスコーリニコフは馬のそばから走って行った。彼は前の方け駆けぬけて、馬が眼を、眼の真上を打たれるのを見た!彼は泣いた。心臓の鼓動は高まり、涙が流れた。P93

「息の根を止めろ!」とミコールカは叫びながら、無我夢中で馬車から飛び降りた。同じように酔っぱらって、真っ赤になった幾人かの若い者も、鞭、棒、轅 (ながえ) と、手当たり次第のものをつかんで、息も絶え絶えの牝馬の傍らへ駆け寄った。ミコールカは脇の方に位置を定め、鉄槓で馬の背中を滅多うちに打ち始めた。痩せ馬は鼻面をさしのべ、苦しげに息をついて、死んでしまった。P95

それは不安の象徴だったのだろうか、それとも父性からのメッセージだったのであろうか?彼は己の中にある計画を独白する。

一体おれは本当に斧をふるって人の脳天を叩き割る気なんだろうか P96

しかし偶然にもラスコーリニコフはアリョーナの妹リザヴェータが明日の夜 7 時きっかりに家に居ない事を知ってしまう。それは将校たちの会話を偶々盗み聞いてしまったからであった。それは計画を実行するのに二度とない程の好機であった。見知らぬ将校と大学生の冗談まじりの会話が続く。それこそが彼がまさにそうあろうとした事であった。それが啓示であったとしても不思議はなかった。

「風変りの味だね。いや、それより君にひとつ話す事がある。僕はあのいまいましい婆あを殺して、有金すっかりふんだくっても、誓って良心に恥ずるところはないね。」と大学生は熱くなって言い足した。P104

「僕がいったのはむろん冗談だ。が、いいかい、一方には無智で無意味な、何の価値もない、意地悪で、病身な婆あがいる、誰にも用のない、むしろ万人に有害な、自分でも何のために生きてるかわからない、おまけに明日にもひとりでに死んで行く婆あがいる、いいかい?わかるかね?」
「うん、わかるよ」熱した友達をじいっと見ながら、将校は答えた。p105

彼はあくる日の 7 時にアリョーナのもとへ斧を隠し持って訪れる。そして計画通り斧をアリョーナの頭部めがけて振り下ろすのだった。しかし、そこで計算違いが起きる。そこにはいないはずのリザヴェータが帰ってきたのだ。彼はリザヴェータも殺害せねばならぬ羽目に陥った。ラスコーリニコフはリザヴェータも殺害し、それから物取りの犯行に見せかけるために幾つかの質草を奪いその場からの逃走に成功するのである。


第二編
すべて何もかもが、記憶や単純な判断力までが、自分を見捨てようとしているのだと確信すると、堪らないほどに苦しくなってきた。『どうしたんだ、もうそろそろ始まってるんだろうか?これはもう罰がやって来てるんだろうか?』P142

『あれはただの熱病性の衰弱だ。ちょっと熱にうかされただけだ。』p142

翌日昼近くに起きたラスコーリニコフに警察からの出頭命令が届く。それを伝えに来た女中ナスターシャはラスコリーニコフを元気づけるように昼食を用意した。疑心暗鬼に駆られながら警察署を訪れたラスコーリニコフはそれが債権取り立ての話しである事を署長のニコジーム・フォミッチから聞かされて安堵するのであった。

『もし訊ねたら、おれは言ってしまうかもしれない』と彼は、警察へ近付きながら考えた。P147

ラスコーリニコフはそれでも自分の置かれている状況に危機感を覚え例え警察に家宅捜査されたとしても問題なきよう急ぎ家へと戻りアリョーナから奪った質草を隠すのであった。

この石の下を探そうなんて考えが、いったい誰の頭に浮かぶものか。P170

それから大学時代の友人であるラズーミヒンを訪れる。ラスコーリニコフは体調が悪化し始めていた。彼の精神状態も熱病にうなされているかのように傍から見ても尋常ではない状態になりつつあった。

『ああここにあの男が済んでいるんだ、この家に』P173
「君は一体、脳炎でもやってるのかい。」P177

ラズーミヒンの家から飛び出し、ラスコーリニコフはネヴァ河のほとりに佇んむ。

彼はこの瞬間ナイフか何かで、自分というものを一切の人と物からぶっつり切り離したような思いがした。P180

それから夕方になって家に戻ると彼は倒れた。

黄昏の色がすっかりと濃くなった頃、彼は恐ろしい叫び声でわれに返った。P181

ラスコーリニコフは警察の副署長であるイリヤープト・ペトローヴィチが宿の主婦を打っているのを聞いた。

「誰も主婦さんを打ちゃしないよ。」とナスターシヤはまたもやいかつい、きっぱりとした調子で言いきった。P184

それは強いストレスのせいであろうか、深層心理からの働きかけのせいであろうか、ラスコーリニコフは熱病で数日間も寝込んでしまったいた。熱病で倒れていたラスコーリニコフを看病したのはラズーミヒンであった。ラズーミヒンはゾシーモフという医者を連れてきてラスコーリニコフを治療してもらったいたのだった。

ザミョートフは警察の事務官でラズーミヒンの友人でもあった。看病の甲斐あって回復したラスコーリニコフはラズーミヒンとザミョートフと会話しアリョーナ殺害事件のあらましを聞く。ラスコーリニコフは病気で寝込んでいた時に余計な事をうわごとで言っていないかを彼らに確かめながらそれを聞いていた。実際は警察が逮捕したのはペンキ屋の二人ミトレイとニコライであった。

「僕なにか戯言 (ざれごと) を言ったかね?」P199

そこにルージンが挨拶にやってきた。妹ドゥーニャのフィアンセであるルージンと会話をするうちにラスコーリニコフはとうとう我慢が出来なくなってルージンと妹との結婚に反対する事を告げた。

「僕は病気じゃない」とラスコーリニコフは叫んだ。
「ではなおさら・・・」
「とっとと出て行け!」P244

ラズーミヒンらも帰ってひとりになった後、ラスコーリニコフは外出をする。

あれは何で読んだのだったかな。一人の死刑を宣告された男が、処刑される一時間前にこんなことを言うか、考えるかしたって話だ。もし自分がどこか高い山の頂上の岩の上で、やっと日本の足を置くに足るだけの狭い場所で生きる様な羽目になったら、どうだろう?周りは底知れぬ深淵、大洋、永久の闇、そして永久の孤独と永久の嵐、この方尺の地に百年も千年も、永劫立っていなければならぬとしても、今すぐ死ぬよりは、こうして生きている方がましだ。P254

人間は卑劣漢に出来ている。またそういった男を卑劣漢よばわりするやつも、やっぱり卑劣漢なのだ。P254

酒場で偶然にもザミョートフに出会ったラスコーリニコフはは何故か秘密を打ち明けたい欲求が抑えきれなくなる。それはもちろんザミョートフにもラスコーリニコフにも冗談と聞こえるのだが、ラスコーリニコフの中に何か話さずにはいられないものがあるのだった。

「ねぇどうです。もし僕があの婆さんとリザヴェータを殺したのだったら?」と彼はだしぬけに口を切って、はっと我にかえった。
ザミョートフは気うとい眼つきで彼の顔を見ると、布きれにまごうばかりの真蒼になった。その顔は微笑でゆがんだ。
「一体そんな事があっていいもんか?」P265

ザミョートフと別れたラスコーリニコフはふと自殺を思うのだが、アプシーニユシカの投水自殺の未遂場面と出くわす。そしてやはり自殺は取るべきでないと思い直すのであった。

そのあとラスコーリニコフは殺人現場を訪れる。犯人は殺人現場に戻ってくるというのはこういう事かとばかりに、そこに何かを忘れた訳でもないのに。

その帰りに彼はマルメラードが馬車に轢かれる事故現場に出くわす。虫の息のマルメラードの家まで連れて行ったがマルメラードはソーニャの腕の中で亡くなってしまう。ラスコーリニコフは持っていたお金をマルメラードの家族に渡した。そこに来た警察との立会で彼は次のようにうそぶくのであった。

「それにしても、君はだいぶ血まみれのようですな」ランタンの明かりで、ラスコーリニコフのチョッキに生々しい血痕をいくつか見つけて、署長 (ニコジーム・フォミッチ) は注意した。
「ええ、汚しました・・・僕は血だらけです。」何かしら一種特別な表情をして、ラスコーリニコフはこういった。それからにやっと笑い、ひとつ頷くと、階段を下りて行った。P299

次の日も来ることをソーニャ達に約束し家に帰ると、母プリヘーリヤと妹ドゥーニャがペテルブルグに到着していた。


第三編
母プリヘーリヤ、妹ドゥーニャのいる家にラズーミヒンが訪れ、妹ドゥーニャに恋をしてしまう。ラズーミヒンは彼女ら母娘のために医者であるゾシーモフも連れて来てラスコーリニコフの看病をするのであった。

髪は兄よりいくらか明るみの勝った、黒みがちの亜麻色をしていた。眼はほとんど真黒で、プライドにみちた輝きを放っていたが、またそれと同時に、どうかすると瞬間的に並はずれて善良な表情になるのであった。色は蒼白かったが病的な蒼白さではない。彼女の顔は新鮮味と健康に輝いていた。口はやや小さすぎる方で、鮮やかな赤い色をした下唇は、顎と一緒に心もち前へ出ていた、それがこの美しい顔に指摘される唯一の欠点であったが、でもこの顔に一種の特徴、とりわけ傲慢らしい影を添えている。

この顔には微笑がまことによく似合った。 P327

人の良い、善良なラズーミヒンは許嫁のあるドゥーニャに魅かれる自分に戸惑いながらも、彼女らの面倒を見た。翌日の朝、彼らはラスコーリニコフの家に再び集まった。そこで互いの近況を報告しあうのであった。マルファ・ペトローヴナが死亡した事もそこで知った。

「あらまぁ、スヴィドリガイロフの奥さんのマルファ・ペトローヴナさ。ついこの間の手紙で、あんなに色々と知らせてあげたじゃないか」P365

ドゥーニャはマルファ・ペトローヴナの家に家庭教師として入っていた。そこでペトローヴナの夫であるスヴィドリガイロフが不作法を働き窮地に陥ってしまう。その時に救ってくれたのがルージンであった。彼女はルージンと結婚する事を決意する。それはラスコーリニコフの反対を押し切ってのものであった。

おまえはまた何を赤くなるんだい?お前は嘘をついている。お前はわざと嘘をついているんだ。ただ女らしい強情で、おれに我を張り通したいもんだからさ。お前はルージンを尊敬することなんか出来やしない。僕はあの男と会いもし、話しもしたんだよ。してみると、お前はお金のために自分を売っているのだ、してみると、いずれも卑劣な行為だ。僕はね、お前が少なくとも赤くなれる、それだけでも喜んでいるよ。P374

その夜八時に、全員でルージンを交えて会う事を約束していた時である。ルージンの手紙に『いかがわしき生業を営みおる女』と書かれていたソーニャが訪ねてきたのであった。それは前日のお礼に来たのであるが、計らずしも、ソーニャとドゥーニャはそこで出会う事になったのである。そして明日の葬式に参加して欲しいとの言付けた。

碧い眼が透きとおるように澄みきって、それが生き生きして来ると誰しもつい惹き付けられてしまうくらい、顔の表情が何とも言えず善良で無邪気な感じになってくるのであった。そのうえ彼女の顔にもその姿ぜんたいにも、ひとつ際立った特色があった。それは彼女がもう十八というにも係らず、その年頃よりもすっと若く、まるでほんの小娘、というより子供のように見える事であった。P384

母プリヘーリヤ、妹ドゥーニャは家へと戻り、ソーニャとスコーリニコフとラズーミヒンだけが残った。ラスコーリニコフとラズーミヒンはラズーミヒンの親類であるポルフォーリィ・ペトローヴィッチに会うために出かけた。二人と途中で別れたソフィアは何故か心うかれるのであった。

「ただ今日だけはいらっしゃらないように、どうぞ、今日でないように!」まるで小さな子供が怯えた時に哀願するように彼女は胸の痺れるような思いで呟いた。「ああ、どうしよう。わたしのところへ、あの部屋へ、あの方がごらんになる。ああ、どうしよう。」P393

彼らはポルフィーリイ・ペトローヴィチを訪ねた。部屋にはザミョートフも居た。そこで彼らはラスコーリニコフの論文を巡って犯罪について語り合った。犯罪には『環境に蝕まれた』ものがある。しかしそれ以外の犯罪もある。凡人は法に服従しなければならぬから法を犯すのは犯罪である。しかし非凡人はそれを越える権利を有している。非凡人であればそれは犯罪にはならない。それは歴史が、リカルガス、ソロン、マホメット、ナポレオンなどがしてきた事だ。人類の恩恵者、建設者は非凡人であるがゆえに、凡人では犯罪となるものをやってきたではないか。このような観念の語り合いの中でその裏でポルフィーリイとラスコーリニコフは老婆殺しには関する駆け引きをしていたのである。

「じゃあなたは何と言っても新しきエルサレムを信じていらっしゃるんですか?」P423

「ねぇ、君、もし実際それが真面目なら、そりゃむろん君の言う通りだ。これは別に新しいものじゃない、我々が幾度となく読んだり、聞いたりしたものに似たり寄ったりだ。しかし、その中で実際の創見、まぎれもなく君ひとりにのみ属している点は恐ろしい事だが、とにかく君が良心に照らして血を許している事だ。P427

この良心に照らして血を許すということは、それは、僕に言わせると血を流してもいいという公の法律上の許可よりも恐ろしい」P427

「良心のある人間なら自分の過失を自覚した以上自分で勝手に苦しむがいい。これがその男に対する罰ですよ。懲役以外のね。」P429

予審判事であるポルフィーリイは確信しているに違いない。しかしそれを示す証拠はどこにもなかった。

「先週、わがアリョーナ・イヴァーノヴナを斧でやっつけたのは、本当に何か未来のナポレオンとでも言ったような者じゃないかな?」と出し抜けに隅の方からザミョートフがずばりと言ってのけた。P432

ポリフィーリィの疑念を退けて二人はそこを出た。家に戻ったラスコーリニコフを町人が訪ねて来た。彼はラスコーリニコフが予想もしなかった事をただ口走り去って行った。

町人も今度は眼を上げて、気味の悪い陰鬱な眼差しで、じろりとラスコーリニコフを見やった。
「人殺し!」と不意に男は低いけれど明瞭なしっかりとした声で言った。P442

「お前が人殺しだ。」P443

ラスコーリニコフはぐったりとして恐怖を感じた。それは彼の理性の外からきた一打ちであった。彼は家の中で横になって自問を繰り返す。自分はこれを予感していただの、果たして自分はナポレオンであろうかだの、人類一般の福祉を待っていられるかだの、取り留めのない出鱈目な考えが渦巻いた。

エジプトに大軍を置き忘れたり、モスクワ遠征に五十万の大兵を消費したりした挙句、ヴィリナでは一切をしれのめして平気でいる。しかも死んだ後ではみんなで彼を偶像に祭り上げるんだからなぁ。して見るとすべては許されるんだ。P445

おれだってやはり生きたかろうじゃないか、ええっ、俺は美的虱だ。それっきりさ。P446

月は今きっと謎をかけてるんだ。P450

彼はソーニャの事を思い出しながら眠りに落ちてしまった。夢の中でラスコーリニコフは死なない老婆に向かって斧を振り下ろしていた。その苦しい夢の中でふと人の気配を感じ目を覚ます。そこには見知らぬ男が立っており、彼はラスコーリニコフに向って自己紹介をした。

「わたしはアルガージィ・イヴァーヌイチ・スヴィドリガイロフですよ。」p452

ドゥーニャに不作法を働いた当人であり亡くなったマルファ・ペトローヴナの夫であった。

罪と罰 あらまし - フョードル・ドストエフスキー
罪と罰 (下) あらすじ - フョードル・ドストエフスキー
罪と罰 - フョードル・ドストエフスキー, 米川正夫訳

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