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2016年11月3日木曜日

会議室から - とある量産機の生産計画

ある日の会議室 I(機能の選定)


「そもそも頭部のバルカン砲が意味ないんです。」

「たいして弾丸が積めるわけでもなし、近接戦闘の優位性も認められていません。」

「試作機のβ報告書にも生産設備、生産工程への負担が大きく、それに比べれば戦局への寄与は少ないとあります。」

「モビルスーツのバルカン砲なんて所詮は設計者の趣味でしょう。悪い冗談だと思います。」

「ですから私としては量産機からはバルカン砲は外したいのです。」

「現場の整備士への負担もバカになりませんからね。砲弾を込める工程、ジャミングの危険性、発砲時の振動、爆発時の被害、補給部隊への供給システム、弾薬の生産、発注。総合的に見てもいまの連邦はこれが許容できる状況とは思えません。」

「どうしてもバルカン砲をばら撒きたいなら、マシンガンを持たせれば済むのです。航空機じゃあるまいしモビルスーツにバルカン砲なんて必要ありません。」

「ここで営業部からひとこと良いでしょうか?試作機のレポートは軍でも把握しています。バルカン砲も MUST 要件ではありません。担当者との打ち合わせでも撤廃の方向で合意しております。念のため、私が装備局の方にももう一度、確認してみます。」

「うん。そうしてくれると有難い。」

「頭部のバルカン砲が撤廃できれば、空いた空間を有効に活用できますね。課長。」

「そうだね。試作機よりも多くのセンサーが搭載できる。メインカメラ、バックモニターもより高精度なのが使える。レーダー、赤外線装置、データリンク機能も搭載できる。情報処理能力が格段に拡充できる。」

「あと、整備性の向上も図れそうです。現場での稼働率に直結しますからね。」

「試作機は配線を少し変えるのも大変だったなぁ。毎回、モニターから取り外すのは辛かった。」

「試作機は仕方ないとしても、量産機では改善していきたいですね。」

「試作機で収集したデータを十分に活用しなければね。事故で亡くなった方々のためにも。。。」

「次はビームサーベルについて。どうするつもり?」

「試作機と同じ二本差しで固定しますか?」

「いいえ。本体には一本も搭載しません。」

「それは、、、営業部としては受け入れられません。近接戦闘の重要性を軍は非常に重く見ていますから。」

「あ、これは失礼。説明不足でした。説明します。」

「まずビームサーベルの搭載という機能そのものは実現します。」

「ただ実現方法が試作機とは異なるという話です。」

「では一本も搭載しないというのは。。。」

「ここで搭載しないというのは、本体への直結型にはしないという意味です。」

「今回の機体はどちらかと言えば、要塞攻略用です。要塞に取り付き、各種施設の破壊工作をする事を目的としています。」

「その場合、ビームサーベルよりも爆破型の兵装をたくさん搭載させたいのです。ビールサーベルを外して、その分、他の兵装を拡充したいのです。」

「しかし、それでは格闘戦能力が落ちてしまいませんか?」

「軍からの要望でも要塞攻略は二つのフェーズで構築されます。最初に要塞に取り付くまでの防御網の突破。次に要塞内での破壊工作。軍はその両方に使用できる機体を求めています。」

「ですから、要塞に取り付く前に、近接戦闘が発生するとみています。その時に近接戦能力は重要視されます。」

「そこでは、必ず格闘戦が発生します。それに対してビームサーベルの搭載は必須の要求です。」

「はい。それは了解しています。我々としてはこのふたつの要求を満たすために量産機には新しいモジュール構成を取り入れたいのです。」

「作戦や投入されるエリア毎に求められる機能が変わってくるでしょうから、これに答えるために我々としては拡張パックの導入を強く推進したいのです。」

「拡張パックとは具体的にどういうものになりますか?」

「ひとつは、試作機のランドセルを本体から分離します。あのランドセル部分を取り外せるようにします。」

「モビルスーツのモジュール化とは、本体と外部オプションの切り分けの事になります。共通部と拡張部を大胆に分離して設計するのです。」

「別の開発部が試作機をそのまま発展させるマークII計画を実行中ですが、我々としてはそれとは全く違うアプローチで量産機を開発したいのです。」

「我々はこの機体を大きくふたつの部分に分けて設計します。ひとつは本体コア系の設計です。次に使用目途に応じた拡張パックの設計です。」

「試作機はランドセルも本体と一体型で設計されています。ですからビームサーベルも固定的に二本搭載されています。新型機では、ビームサーベルは拡張パックで対応することで、搭載本数を限定しないようにしたいのです。こうして機体本体の応用力を高めたいのです。」

「なるほど、するとビームサーベルの搭載にもいろいろなバリエーションが用意できるということになりますね。」

「はい。その通りです。1本でも2本でも、ご希望とあらば20本でも搭載できます。」

「この拡張パックはその他にどのような機能が考えられますか?」

「はい。ビールサーベル以外に、推進バーニアの強化版も用意できるでしょう。速度重視のものから小回り重視のもの、活動時間を重視したものなどバリエーションは増やすことができます。」

「推進バーニアは重要なエネルギー源になりますから、強力な長距離レンジのレール砲も搭載できるようになるでしょう。長距離レンジの砲撃力も他の試作機よりはバリエーションが増やせるでしょう。」

「了解しました。営業部としては設計指針を理解できました。この方向で問題ありません。」

「ありがとうございます。」

「拡張パックの設計はこれから色々と詰める必要はありますが、重要なことはコアと拡張部のインターフェース設計です。この規格さえ決めてしまえば、様々な活用ができると考えています。」

「あのー、ソフトウェアについてひとつ聞いてよろしいですか。このような拡張パックを搭載すると様々なバリエーションのソフトウェアが必要になりそうですが?例えばビームサーベルモジュールを持つ機体と持たない機体のソフトウェアを多数用意しなければなりませんか?」

「いいえ、ソフトウェアについては一本化したいです。今考えているのは、拡張パックから必要なモジュールをダウンロードして使用することです。これによって、本体側のソフトウェアを一本にします。拡張パックと接続した本体側は、必要なモジュールを拡張パックからダウンロードして取り込むようにして頂きたいのです。」

「必要なドライバは拡張パック側に搭載しておきますから、それを使用するだけで良いわけです。拡張パックを外したら、ドライバもアンインストールすればいいわけです。そのあたりの設計は少し難しくなりそうですが、この仕組みの実現をお願いしたいのです。」

「なるほど。了解しました。持ち帰って検討させていただきます。」

「あと、もうひとつ。ビームサーベルを搭載していない機体は、ビームサーベルを使う事はできますか?これはビームサーベルの使用は本体側のソフトウェアには一切搭載せず、拡張パックに依存してよいかという話になります。」

「例えば、どの機体でも他の機体から借りて使うことが出来るのか、それとも拡張パックを搭載していない機体では使うことが出来ないのか。その辺りが変わってきそうなのですが。。。」

「そこは使えるようにしたいです。もちろん、全てが可能ではなく、使用できないパターンも出てくるでしょうが、標準モジュールは全て搭載しておいて欲しいです。ビームサーベル、ライフルなどの標準兵装です。拡張パックはあくまで、標準モジュールで対応できない兵装に対するものになるかと。」

「了解しました。ブランチを増やすとテストも累乗的に増加しますから、そのあたりも考慮しておかなければなりませんね(これは結構大変そうだわ、、、)。」

「では、次に装甲について。装甲はどうなるかな。」

「本体の装甲はコアパック以外には施しません。これは本体の製造コストと生産性を向上させるためです。」

「じゃあ、本体の装甲はペラッペラにしちゃうの?」

「はい。メインコンピュータと操縦席以外の場所はもう限りなくペラッペラにします。」

「基本的な装甲の充実は、拡張パックによるアーマード化で対応します。」

「試作機みたいに盾は持たせないのですか?」

「はい。盾を持つと片方の腕が塞がれてしまいますから。両腕はもっと有効な事に使いたいです。試作機はシールドを自由自在に使えるようソフトウェアが結構頑張っています。更には本体もかなりの装甲化がされていますからかなり頑丈な機体です。」

「この機体ではその辺の考え方をがらりと変えてしまいたいのです。」

「すべての機体が重装甲である必要はありません。」

「そうね、その方が機体の製造率も上がりそうね。拡張パック、装甲パックの組み合わせで色々な機体が用意できるのは魅力的かも知れないわね。」

「軍は搭乗者の生存性が損なわれなければそれでいいようです。パイロットに対する安全製は最も高いプライオリティです。」

「コアパックの装甲は試作機よりもかなり高くしますよ。ザクマシンガンの2500m地上直撃でも破壊されない厚さです。」

「もちろん、脱出装置はつけますが、脱出ポッドはあきらめて下さい。あの複雑すぎる機構は、新型には取り入れません。」

「脱出アーマーで操縦方法を統一するというのはよいアイデアでしたが。アイデア止まりですね。実際にやってみたらコストが高過ぎます。メカニックの整備マニュアルがまた莫大なんです。あれは整備士を過労死させるための仕組みです。」

「そこは問題ありません。あれを量産で載せるとなると、軍の要求数はとても生産できませんから。」

「操縦システムはどう見直してゆきますか?」

「操縦システムは、試作機をベースに設計します。ソフトウェアも流用してもらって構いません。ソースコードについては、ソフトウェアチームの方から問題ないという回答をもらっています。」

「エンジンの出力は試作機よりだいぶ落としていますね。」

「ああ、そこは仕方ないんです。」

「軍需部に問い合わせたら、今すぐ大量に納入できるエンジンがこれしか用意できないのです。今はこれを乗せるしか手がないものですから。」

「もちろん、エンジン交換は前提の設計です。試作機の強力なエンジンも搭載できます。」

「そうか、なら、新しいエンジンが開発されたら、乗せ換えるつもりなのだな?」

「はい。あと10年は使える基礎設計を目指しています。」

「耐熱フィルムの搭載はどうする?」

「大気圏突入も可能するとかって触れ込みで少しだけ軍に納入されたやつですよね。」

「軍は本当に今後もあれを大量発注する気があるんですかね?」

「ないだろう。オーケー、不採用だ。」

「私からの要望は腰回りだけは全面的に見直してくれという事だ。試作機は陸上歩行にこだわり過ぎているんだ。宇宙空間に限定すれば、あれだけの地上能力は不要のはずだ。腰回りはもっとすっきりできるはずなんだ。」

「地上でも作戦行動は予定にないですよね?」

「はい。地上行動は今回は除外してよいです。今回の機体は宇宙での使用だけでほとんど問題ありません。要塞内での低重力下での歩行が出来ればそれで十分だと聞いています。」

「ほとんどと言うことは、地上での走行も発生するということですか?」

「ええと。この機体は地上でも生産されますからね。生産された機体は宇宙リフトまで自力で歩行できなくてはなりません。」

「どれくらいの距離ですか?」

「ええと。500mを30分ですね。」

「ああ、それくらいなら、治具を使えばなんとかなるでしょう。」

「陸戦型はどうせ腰から下は総とっかえするに決まっているんだ。地球でのことは考慮しなくていいよ。」


ある日の会議室 II(その後)


「あー、すみません。最初に謝罪しておきます。営業部は敗北しました。頭部のバルカン砲は必須課題になりました。」

「え、軍からの要望ですか?」

「試作機が敵機をバルカン砲で撃破したとの報告が入りまして。それで MUST 要求にエスカレーションしてしまいました。」

「ああ、そのせいで。。。誰かは知りませんが、余計な事をしてくれましたね、そのパイロット。。。」

「あと、もうひとつあります。製造コストを更に下げろと言われました。」

「はい?」

「どうしてまた?」

「軍はとにかく機体数を揃えたいとの希望です。今年度、来年度の予算を使って200機の発注です。」

「我々の見積もりは130機でしたね。。。」

「機密費を流用してはくれないんですね。」

「銃殺刑覚悟でか?」

「どうします?」

「本体設計は今のままで行こう。ここは変えられない。死守する。その代わり、拡張パックをコンパクトにしてコストダウンを図ろう。」

「拡張パックのアーマード化も中止ですか?」

「それが一番の現実解だろうなあ。」

「しかし、それでは防弾能力が著しく損なわれますよ。」

「仕方ない。試作機みたいな方法は採用したくないが。。。シールドを復活させよう。」

「腕が一本自由に使えなくなるんですね。」

「仕方ない。。。」

「ただ、両腕が使えなくなるので長距離砲が搭載できなくなりますね。どうしましょう?」

「長距離砲はもう発注済みです。なんとか軍納入に組み込んでもらわないと。。。戦後まで倉庫に山積みではいい笑いものです。というか、私、左遷されます。。。」

「既存の戦闘機に搭載するってのはどうですか?これなら改修費もたいぶ抑えられると思いますが。」

「それではモビルアーマー扱いになって、担当部署が変わってしまいます。あくまでモビルスーツという建前でないと私たちは納入できません。」

「。。。」

「戦場の勝利よりも、部署の管轄です。我々には統制のとれた勝利が必要なのです。長く仕事を円滑に進めるためにもこれはとても大切な話なのです。」

「仕方ありませんね。ではモビルスーツ搭載という事で。」

「あ、でもモビルスーツという建前さえあれば、戦闘機みたいな形状でも構わないのですか?」

「ええ、それはそうです。ある程度の形さえあれば、後は営業部でなんとかねじ込んでみせます。」

「ではコアパックの操縦席に長距離砲とバーニアだけをつけたものを用意するのはどうですか。」

「こんな感じです。どうですか?」

「あ、何か手もつけてください。その方が軍を説得しやすくなります。」

「了解、了解。では、こんな感じでマニピュレータを配置してと。」

「どうです、これなら?」

「おお。悪くありません。いや、これいいですよ。これでいいです。これがいいです。」

「良かったですね、これで左遷は回避できますね。」

「ははは、ありがとうございます。」

「これは量産機とペアリングで行動できるようにできませんか?公国にも無線操縦型のピットというのが開発されていると聞いています。あれと同様に、これも新型機から無線操縦か何かで操作できればいいのですが。」

「公国のあれっていまいち操縦形態が分からないんですよね。かなりの秘匿案件みたいで。」

「ちょっとすぐは難しいですね。ソフトウェアが間に合いませんね。」

「そうですか。いや、ちょっと言ってみただけです。気にしないでください。」

「これは長距離射撃専用の機体になりますが。戦艦の近くに配備して射撃するのを想定しています。それで十分でしょうか?それなら装甲とか飛行性能もそんなに求められないと思いますが?」

「はい。私もそれでいいと思います。」

「では、この線で設計を見直してくれ。わたしは各部署に連絡しておく。連携を密に連絡をこまめに進めてくれ。」


ある日の会議室 III(テレビを見ながら)


「おい、最前線に投入されているのはあれボールじゃないか?」

「あ、ほんとだ。装甲なんてないに等しい機体に無茶させてるなぁ。」

「いくらジムのシールドの影にいるからって、、、」

「あ、でもこれは上手い戦法だ、複数のジムでテストゥドを組んでいるのか。その中心にボールを据えて長距離砲をうまく使っている。」

「なるほど、これで要塞まで取り付こうとしているんだ。」

「でも格戦闘能力は敵の新型機の方が上みたいですね。あ、今も狙い撃ちされました。どうしても陣形が崩されてしまいますね。」

「だが、よく見てみろ。破損しながらも動いている機体が多い。生存率も期待できそうだ。コアパックが破壊されている機体はほとんど見られない。」

「要塞攻略に特化した機体が間に合っていたらもう少し違った戦い方が出来たかも知れませんね。」

「そうだな。詮方ない。だが戦場の人たちはうまく使っていると思うよ。」

「データリンクが向上しているから、密集したり、隊形を組むのは得意なんだ、この機体は。」

「単独での格闘戦では劣勢は仕方ない。だが、編隊さえ組めば、十分に要塞の防衛網に対抗できているように見えるよ。ほら、また一編隊が要塞に取り付いた。」

「まるで蜜蜂のようですね。」

「あ。うん、、、あの要塞はもう長くは持たないだろうね。」

「そう見えます。」

「これが。。。うん。連邦の勝利だ。」

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