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2016年2月1日月曜日

マジンガー、最後の出撃

ドクターヘルも兜十蔵も若いときはお互いに理解しあった研究者であった。そうあのミケーネの遺産を発見するまでは。

ふたりは優れた研究者であったから、それが世界にどのような影響を及ぼすかは自明であった。

ナチスが敗北したとき、多くの研究者がアメリカかソ連に渡った。それが新しい兵器を生む。核兵器を発達させ大陸間弾道弾を生む。人類どころか、地上の生物を何度も絶滅できるだけの破壊力を手に入れた。

どちらの陣営にもつかなかったドクターヘルはその意味をよく知っていた。オーバーテクノロジーがいかなる悲劇を生むかを思うとき、彼の絶望は狂気とも呼べる一縷の望みへとたどり着く。

兜十蔵はそれと比べればすっと楽天的であった。

「ならばわしはこのミケーネの技術を使った新しいものを生み出してやる。それでドクターヘルよ、おまえの野望と対決しようではないか。どちらが正しいか、それを決着するのは互いの技術の結晶のみだ!」

それから・・・

闘いは終わった。兜甲児の勝利で。確かに、ドクターヘルの野望は砕け散ったのだ。しかし、それが世界の平和を意味するとは限らなかったのである。ドクターヘルの懸念は現実であった。

「無理だ、甲児くん。Zではあれらの新しいマジンガーシリーズには決して勝てない。グレードでさえ対抗しうるかどうか。ましてマジンガーでは。」

「しかし弓博士、僕にはどうしても彼らの暴挙を座視できません。たとえ勝てなくてもマジンガーが登場することに意味がある。たとえ負けてもそれが多くの市民を勇気づけるはずです。」

「彼らのやっていることは企業の営利活動なんかではない。おじいちゃんの技術を使って市場を独占しようとするものです。あらゆる兵器を無力化し、そのうえに自分たちの兵器を売り込む、世界のエネルギー問題を支配するために光子力エネルギーを独占する。自分たちの利益のために世界を変革し、そして人々のなかに争いを作り出した。」

「この世界は、ゴーゴン大公が最期に言った通りの世界になってしまった…」

『お前のマジンガーはドクターヘルが消えた時に強欲なやつらによって根こそぎ奪われるぞ。兜十蔵の発明も特許も奪い去ってゆくぞ。それをおまえが守った日本政府が要求してくるんだぞ。その特許を巨大企業に売り渡すために。』

『われわれが消えた後の世界では、マジンガーこそが脅威になるのだ。それがお前にはまだわかるまい。お前がどれほど正義を叫んでも、人々の恐怖が消えることはない。国家は法律を捻じ曲げ、司法は同調し、裁判官も法ではなく恐怖でお前を裁く。』

『この世界のあらゆる資本がお前のマジンガーを狙っているのだ。』

『それは平和でも愛でもないぞ。ただ資本の命ずるままに、競争と強欲の赴くままに。おまえのマジンガーを欲するのだ。』

『彼らはそこから多くを学び、新しいマジンガーを生み出すだろう。』

『新しい機体が次々と生まれる。われらが機械獣でさえ対抗しえない強力な機体をだ。そうなった時、たった一機のマジンガーで何ができる?』

『ドクターヘルはそれをご存じであった。オーバーテクノロジーが世界中の人々に渡った時に世界がどうなるかを。だから人類を守るためにも、機械獣の力によって世界統一をするしかないと決断されたのだ。世界政府の樹立。それだけがミケーネの遺産から人類を救う手段であった。それをお前が打ち砕いた。』

『兜十蔵でさえマジンガーを生み出したときにその危険性には気付いたのだ。彼が死んだのは決して機械獣が襲ったからではない。彼からマジンガーを奪おうとしたのは、決してドクターヘルではないのだ。』

「世界は彼の言葉の通りになりました。マジンガーを研究尽くした時に彼らは気付いたのでしょう。このスーパーロボットがあれば、既に国家による安全保障など必要ないということに。」

「彼らはマジンガーを安全保障とする新しい彼らのためだけの国家を生み出しました。いまや彼らのマジンガーシリーズに対抗できる戦力はこの地上のどの国家も持っていないのです。」

「世界は変わりました。ドクターヘルのミケーネと兜十蔵のマジンガーの遺産が世界を変えたのです。」

「力が支える新しい資本主義の世界。金と力が権力の源泉となった世界。国家さえ維持する必要はない。マジンガーの力が支配する企業のための世界。近代を支えた法体系も失われた。人間の道徳にも価値はない。この世界は企業が利潤を求めるための屠殺場になってしまったのです。」

「博士、僕は行きます。あそこにはまだ逃げまわっている市民がいます。彼らとともに倒れるならば、マジンガーとしては上出来でしょう?」

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