ゾンビは接触感染によるウィルスまたは病原菌、寄生虫(以下、ゾンビ菌とする)を起因とする人特有の感染症である。
2. 序論
ゾンビの医学的考察をこれから述べるが、彼等は映像資料でのみ確認されていて、捕獲例は世界で一件もない。それでも映像から確認できる事実がある。それは恐らくこうであろうと推察できるものが幾つもあるのである。これからそれらの映像記録から推測される事を報告する。そのためこの考察には誤りも含まれる可能性がある事を予め断っておく。
本論の主なテーマは次の3つである。「感染および感染経路」「感染から発症まで」「ヒトを襲う理由」。
3. 本論
3.1 感染および感染経路
ゾンビの記録映像には必ずゾンビに感染していない者がいる。彼等は最期まで発症せずに記録を終えるし、また映像公開の記者会見の場でも感染した形跡は見当たらない。ゾンビ菌が空気感染するのであれば、生き残ったとしても保菌者である可能性は高いはずだし、保菌者であっても抗体をもち発症していないとしても、他の人に感染させることはあるだろう。しかしこれまでそのような発症例は報告されていない。だからゾンビは空気感染ではないと考えられるのだ。
多くの記録映像からゾンビを発症するのは死後であり、かつゾンビに噛まれる事に起因する。その事からゾンビ菌は口中に生息していると考えられる。腕をつかまれたくらいでは発症しないため、噛まれた時の唾液を介しての感染と思われる。
唾液だけでゾンビ菌に感染するなら彼等の口中から飛び出す飛沫によっても感染する可能性がある。しかし感染するには以下の条件が必要と思われる。
- 強く噛まれないと感染しない。
- 感染すると死亡する。
- 死亡してから発症する。
強く噛まれた時 (肉の一部を噛み取られるくらい) の発症率は100%のようだ。しかし唾液に触れる程度では感染しない。これは感染経路としてある程度以上の大量の病原体が必要なためと思われる。一度に大量のゾンビ菌が血液に入らなければ感染はしないと考えられるのである。だからゾンビ菌の血を吸った蚊に刺されたとしても感染するとは考えにくい。
ゾンビの死体を焼却した場合に感染力はまだ残っているものだろうか? 焼却後の灰が人体に取り込まれるケースを考慮してみる。もしその程度で感染するようならそれは空気感染である。しかし多くの事例から空気感染は否定されている。だからゾンビを焼却すれば感染する危険性はなくなると考えられる。これは一度に大量の病原菌と接触する危険性がなくなるためか、それとも焼却によってゾンビ菌が死滅したために起こった事かは断定できない。それでも焼却する事で感染する可能性が極めて小さくなる事から、ゾンビ菌は狂牛病の原因であるプリオンのような物質ではなく何等かの有機体である可能性が高い。
そのため焼いたゾンビを食べる事は強く推奨しない。どの程度の焼却でゾンビ菌が死滅するか、または感染力を失うかは不明だからだ。
ゾンビの記録では他の多くの動物、昆虫、植物は発症していない。犬、猫、鹿はおろか、人間との間に多くの人獣共通感染症をもつ豚にさえ発症した報告がない。これはゾンビがヒト以外の動物を襲わない為か、または襲ったとしても発症していないものと思われる。この事からゾンビは人特有の感染症であると思われる。
3.2 感染から発症まで
ゾンビ菌に感染した場合、どういうメカニズムかは不明だが人は 2 ~ 3 日で死亡する。その死亡した直後から動き出す事からゾンビ菌はヒトの神経組織を乗っ取っていると思われる。これはハリガネムシに近いものがある。しかしどうやって乗っ取るかは不明である。ゾンビ菌がなんらかのホルモンを出しているのか、それとも神経に直接寄生しているのかは分からない。
ただ死亡するまでに感染者の多くが発熱、悪寒などを感じる事から抗体が激しく反応している事は明らかである。おそらく神経組織に取りつき、そこで繁殖してヒトを死に至らしめるものと思われる。
他の病原菌と異なり死亡後に動き出す事から、ゾンビ菌は神経伝達を阻害するだけではなく、ヒトの死後も必要な生命活動を維持している事は間違いない。特に歩行に関する運動系、目を開き噛み付く事から顔の一部の運動系、および視神経をコントロールしていると思われる。
ゾンビ菌は神経繊維に潜伏し運動神経から電気信号を発生させ歩行していると思われる。また視神経にも潜伏しそこから得られる情報を使って空間認識しターゲットを補足していると思われる。これは恐るべきメカニズムである。ここのゾンビ菌の情報を全ての菌で共有するのは、コンピュータの分散コンピューティングに近いものがある。またこの情報の共有による遅延がゾンビの動きの遅さの原因とも思われる。
このようにゾンビ菌は複数個所に同時に潜伏しなければならない。これがゾンビが一度に大量の菌を感染させなければ発症しない理由と思われる。またゾンビ菌は神経組織を乗っ取るために、主に脳に感染していると思われる。それとは別に新たに感染するために口中でも繁殖しなければならない。つまりゾンビ菌は役割分担をする菌と思われる。これらの役割分担、つまり運動の獲得と繁殖するための分化は、アリやハチのような集団を形成する極めて珍しい感染症である。
ゾンビ菌が筋肉を動かすためのエネルギーはどこから得ているのであろうか? 筋肉に栄養を送る為には血液の循環が必要である。これには心臓を動かす必要があり、ゾンビ菌は心臓にも潜伏していると考えるのが妥当である。おそらく動きの緩慢さや傷口から血が流れ出ない事から、一分間に一回程度の最低限の運動により循環器を維持しているのだろう。
しかし食料がない状況でどのようにエネルギーを得ているのだろうか? 最初は血液中に残っているグリコーゲンを使用していると思われる。しかしそれは直ぐに消費されるであろう。
そこで注目すべきはゾンビの多くが皮膚が腐りかけたようになっている事だ。あれは死亡による腐敗とこれまで思われてきたが、これこそが彼らのエネルギー源ではないかと考える。つまり、彼らは活動に必要のない体の部位を消化し、それをエネルギー源として利用 (再利用?) しているのではないだろうか。
恐らく最初に溶かされるのが脳の不要な部分と思われる。脳は神経を乗っ取た後は殆ど必要ないので運動に関する部位などを残して、おそらく大脳皮質などは溶かされてエネルギーとして使われているだろう。また内臓の多くも不要とある。ゾンビの多くは内臓を刺されても活動を停止する事はない。これは行動するのに既に重要でなくなっているからであろう。
3.3 ヒトを襲う理由
ゾンビ菌は生命維持をするための食糧を必要としない。犬や猫などの動物、動きが緩慢で捕食できないなら昆虫などを食べてエネルギーを得ているとも思われない。植物を口にする事もない。もしこれらを捕食し消化するとなると多くのヒトの機能を動かし続けなければならない。死後に体を動かすのは非効率である。もしヒトを食料としているのならばゾンビ同士の共食いも目撃されてしかるべきである。動きの速い人間よりもゾンビの方が食料としては容易いからである。
だからヒトを襲うのは唾液を経由しての感染と繁殖のためであろう。もし単なる繁殖だけであるなら性病として進化する道もあったはずである。虫歯菌と同じように口中の常在菌として生き残る道もあっただろう。これらの戦略を取れなかったのはゾンビ菌が恐らく生きた人間の口中に入っても、常在菌によって死滅させられてしまうからではないだろうか。菌としての生命力、競争力は極めて弱いと思われる。ヒトが死亡し常在菌が弱まってから口中で繁殖すると思われるのである。
これらの事由からゾンビ菌がヒトを襲うのは繁殖のためと断定してよい。
ではヒトだけを襲うのは何故か。これも死亡した後に体を動かす必要性があるためと思われる。おそらく発症するためには大量のエネルギーが必要なのである。そのためには重要となる部位がヒトの大脳であろう。猿では脳が小さすぎて感染してもそのあとの行動が維持できないのだ。
恐らくゾンビ菌はヒトに感染したらまず脳に取りつき、必要な部位だけを残し、それ以外はエネルギー源として使うものと思われる。これが十分でないとその後に新しい感染主を探す行動ができなくて死滅するものと思われる。
4. 結論
ゾンビには生きた(?)発症例がない。しかし生き残った者たちがおり、彼らには若しかしたらゾンビ菌抗体があるかも知れない。これをどのように取り出すかは今後の研究に待たれる。もし抗体があるならば噛まれても発症しない可能性がある。
我々は来る日、ゾンビパンデミックに備えて今後も研究に邁進する必要がある。
5. 参考文献
Dawn of the Dead - George Andrew Romero