ある日の会議室 I(プラットフォームの決定)
「ヤマト型は確かに優れた戦艦ですが汎用プラットフォームのベースとするには余りに高機能すぎます。」
「そうだ、あれはある意味、天才たちのための船だ。製造効率も決して良くはない。」
「かといって、今更、Mシリーズでは古いと思います。あの設計では波動エンジンは搭載できません。」
「おっしゃる通りです。それよりもこれを見てください。」
「おお、でかいな。ヤマトよりでかいんじゃないのか。」
「おっしゃるとおりです。」
「これはアメリカの開発者たちが4年前に断念した新造戦艦の設計図です。」
「当時のエンジンではこの船を実現するのは不可能と結論されたのです。しかし、我々には波動エンジンがあります。」
「そうか、波動エンジンを搭載すれば、この船は実現可能になるのか。」
「ここを見てください、この船はセントラルコアを中心として拡大、縮小が可能なモジュール構成になっています。非常に拡張性が高いのです。」
「なるほど、これはいい。これならば、新しい宇宙艦隊のプラットフォームとして展開しやすいな。」
「はい、戦艦はもとより、航空母艦、巡洋艦から、小型の護衛艦まで同じプラットフォームをベースに設計できるのです。」
「これはいい、これには名前が付いていたのか。」
「ええ、彼らはこの船のコードネームをアンドロメダだと教えてくれました。」
「よし、その設計者たちもここに呼びたまえ。新しい宇宙戦艦を設計しようじゃないか。」
「ええ、どうせヤマトが帰ってくるまでの一年間、我々は暇ですからね。」
ある日の会議室 II(主力兵装の提案)
「この船は先端がシュッとしているな。」
「ええ、もともとは巨大なミサイル二基を搭載する予定だったそうです。」
「そこでジャックらと協議したのですが、この先端に波動砲を二つつけようと考えています。」
「ふたつも?」
「ひとつのエネルギーを一点に集中した方が破壊力は上がるのではないか?」
「はい。私も最初はそう考えていました。ヤマトと同じ一点式です。」
「しかしアメリカチームは別のアプローチを考えています。」
「ヤマトのような一点式は確かに破壊力が魅力的です。しかし、我々はこの波動砲を艦隊戦で最高のパフォーマンスを得られるようにすべきだと考えたのです。」
「二本の波動エネルギーを捩じるように流すと途中で抗力のために拡散する現象が発見されたのはご存知だと思います。」
「この現象を応用すれば、波動砲を拡散させる事ができます。拡散距離はエネルギーの大きさによらずねじりの波長によります。」
「この現象のユニークな点は、それがある距離で急速に一点に集中し始める事です。」
「この拡散と集中の間、波動エネルギーを流し続ければ、空間全体を波動エネルギーで包み込むことができます。」
「この覆った空間を次第に縮小すれば、その空間内にあるものを破壊することができるわけです。」
「しかし、このような拡散では威力が下がるという事だろう?」
「おっしゃる通りです。威力はヤマトのものより20から30%は落ちます。」
「その波動砲で遊星爆弾は破壊できるのか?」
「計算では、ヤマトの波動砲ならば直径50kmの遊星爆弾を破壊できます。」
「拡散式の場合、直径は22km程度になります。」
「いや、それでは話にならない。それでは新しい艦隊ではガミラス侵攻に対抗しえないという話になるではないか。」
「いいえ、この計算は単艦での話です。我々は艦隊戦での撃破を想定しています。」
「そこがヤマトと決定的に設計思想の転換をすべき所になります。」
「例えば3艦が同時に拡散砲を照射すれば、直径50kmの遊星爆弾でも破壊できます。しかも、拡散式なら同時に4つまでを一度にターゲットに入れることができます。一点式では一度にひとつしか狙えません。」
「なるほど、艦隊として対抗するならば拡散式にも十分なメリットがあるのだな。」
「はい。そう計算します。艦隊で行動する限り、効率は高くなります。」
「あのー、これ、一点式と拡散式を両方を使える方法はないんですか?発射前に切り替えるとか?」
「波動エネルギーの初期条件が違いすぎるため簡単には切り替えられない。今回はエンジンの切り替え機能は落とそうと思っています。その点は、艦艇ごとに搭載する波動砲を変えることで対処すればよいと考えいます。」
「よし、分かった。では、拡散式のシミュレーションを進めてみよう。」
「対遊星爆弾、艦隊戦、要塞攻略戦の3つで、その有効性を検証してみようじゃないか。」
ある日の会議室 III(シミュレーション結果)
「先日の議題にありましたシミュレーションについて発表いたします。お手元に配りましたのは、その結果のレポートであります。」
「みなさまご存じのとおり、ヤマトの波動砲は一点式です。拡散式は当時の技術ではまだ実用できていませんでしたが、実現できたとしてもヤマトへの搭載は見送られたでしょう。」
「確か、真田さんがどうしてもと一点式をと望んでいられましたね。」
「ええ。真田さんが最も恐れたのは行く手を阻むものを破壊できない事でした。とにかく迂回をできるだけ避けたいという考えが念頭にあったものと思います。」
「私もヤマトの場合は真田さんの考えが正しいと思います。」
「しかし、ここで留意して頂きたいのは、今回のシミュレーションは艦隊戦を中心にしたものです。」
「ヤマトと新造戦艦では設計思想が全く違います。」
「さて、まずは対遊星爆弾からです。」
「シミュレーションの結果は想定通りのものとなりました。これまで地球に落とされた遊星爆弾を迎撃するのに、単艦では、全体の8%には対処できますが、大型のものは全く破壊できませんでした。」
「複数の艦艇を用意した場合、8隻で38%、32隻で56%です。125隻を用意すればすべて撃ち落とすことが可能という結論です。」
「実際は艦隊のバランス上から一点式と拡散式を混在させますから、もう少し違った結果になりますが、概ね130隻の配備数があれば十分だという結果になりました。」
「130隻はさすがに現実的ではないな。」
「ええ、これは遊星爆弾に対して完全に防戦一方でのシミュレーションです。」
「実際には30隻程度が現実的と思います。」
「それだけ建造するのに何年くらいかかるだろうか?」
「復興次第になりますが、早ければ12年で配備を完了できるでしょう。」
「その間の防衛が心もとないな。」
「それを言うなら今の状況こそ危険です。Mシリーズで稼働できるのがわずか数隻という状況ですからね。」
「仕方ない。ヤマトを送るために我々はすべてを投入したのだから。」
「宇宙は決して善意だけに満ち溢れているわけではありません。たとえ敵が悪でなくとも、彼らもまた生き延びるために地球がターゲットにする事は十分に考えられます。そのような時のために侵入者を押し返すだけの戦力は持っておかなければ。」
「最近の解析では、ガミラスにも何種もの星人がいて、多くの星系に版図を広げているようですね。」
「ガリア戦記みたいなものか。彼らからしたら我々は征服すべき蛮族のひとつなのだろうなぁ。」
「ええ、だとしてもブリタンニアを演じるくらいの権利は我々にもあるでしょう?」
ある日の会議室 IV(シミュレーション結果-2)
「次に艦隊戦の模擬戦ですが、結果は期待した通りのものです。」
「敵の追撃であれ、撤退戦であれ、あらゆる状況で拡散式の効果は絶大です。宇宙空間を面で圧倒できるメリットはかなり高いです。」
「シミュレーションで冥王星沖海戦を再現してみましたが、新型戦艦ならば8隻の単横陣で互角以上の戦闘が可能です。ヤマト型8隻で対抗したときよりも早く制圧できています。」
「一点式の波動砲の場合、敵も分散して波状攻撃を繰り返してきます。拡散式はその点で有利です。しかし、いずれにしろ、艦隊戦をすべて波動砲でやり抜くのには無理があります。どうしても主砲と航空戦力を使った通常戦が必要です。」
「なるほど、通常戦の能力については、別の機会に深めよう。」
「次に、要塞戦はどうか?」
「要塞攻略戦については、結果は芳しくありません。」
「拡散式では要塞への攻略には役に立ちません。どちらかと言えば、要塞表面の兵装を薙ぐのに有効です。しかし、要塞に致命的なダメージを与えるのには一点式の方を推奨します。」
「使い分けだな。すると、要塞攻略などを目的とした揚陸艦には一点式を搭載するとしようか。」
「はい、賛成です。揚陸艦の優先度は最初は低くても構わないとは思いますが。」
「そうですね、対ガミラス戦でも戦闘は殆ど艦隊戦でしたし、要塞攻略はヤマトの冥王星基地くらいしか聞いておりません。」
「ところで、主力艦は一門しか波動砲を搭載しないが、これでは拡散式を作れないのではないか?」
「はい。主力艦は単艦では、拡散しない波動砲です。ただ波動波が拡散式のため、一点式よりも威力は劣ります。しかし、二隻以上で連動することで、拡散式の斉射が可能になります。」
「最後に参考として、ヤマトと新造戦艦の一対一のシミュレーションをしてみた結果です。」
「結果は、次のページにあります。」
「!。。。」
「ヤマトの方が勝率が高いな。」
「ええ、装甲の厚さがものを言います。さすがにヤマトの能力は桁違いです。アンドロメダもかなりの強化装甲にするつもりですが、それでもヤマトほどの重装甲にはできません。」
「ですが、一騎打ちで34%の勝率は逆に十分と言えるものだと思います。ほんらい単艦での運用は考慮しておりませんから。」
「そうだな、アンドロメダが単艦でどこかの星系に行くことは考えなくてよいだろうな。」
「はい、そこがヤマトとのもっとも大きな違いです。」
「艦隊を組んで要撃任務にあたる限り、アンドロメダはヤマト以上に有能な船になると思います。」
「そうだな、真田さんたちが帰ってきた時にあっと驚かせるくらいの船になってないとな。」