昔、うちの会社にブラジルから来ていた人がいた。
プログラマを目指す人だった。
日本語はまぁ困らないくらいには話ができるので
バイリンガルではある。
しかし、仕事は素人同然で夢もあり、目標もあったが
いかんせん、力が足りない。
そのために勉強しようということで、
僕は基本情報処理試験の参考書を渡した。
これを一通り学ぶ課程でいろいろな事が見えてくるだろうと思ったのだ。
ちょうと、課題を渡して、それに取り組むうちに質問をしてきたり、
分からない事を解決するだろうと、期待した。
ちょうど、坂道を示し、その上から上ってくるのを待っていたようなものだ。
しかし、結果は思わしくなかった。
それはやる気がないようにも見えた。
この世界が合っていないのかもしれないように見えた。
その当時の僕にはそう思われたが、今は違う感想を持っている。
彼は、まったく右も左も分からない状況にあった。
幾らまってもこちらの側に来ることはなかった、ついに。
それを例えるなら、ガソリンのない車や、帆も櫂もない砂浜の船みたいなものだったろう。
坂道の上で待っていても上ってこれるものでもない。
彼はそれでも精一杯に四苦八苦していたに違いない。
必要なのは、上から待っていることじゃなかった。
後ろを押してあげることだった。
ちょっとした坂を押し上げれば、下り坂が始まるかもしれない。
砂浜から船を押して、少し沖まででれば、波に乗ったり
風を捕まえることができたかもしれない。
自分で風を捕まえることさえできれば。
必要なところまでは、こちらが押し出してあげなければ...
そんなことを今になってわかったような気がする。
ちょっと悪かった、と思うそんな日蝕の夜だった。